Jesus Christ Too Far（神様が遠すぎる）

Liberation of Paris（パリの解放）

[Battle of Joisi Park Ⅳ（ショワージ公園での戦闘）]

　出来るだけ目立たないように姿勢を低くして走る。

　案の定、敵兵の多くは被弾したハーフトラックやM4戦車を楯にして隠れているから、俺に気付かない。

　仮に見える位置に居たとしても、その敵はザシャやロス、そしてその後方にある建物に隠れて敵を狙っているマイヤーとグリーデンが片付けてくれる事だろう。

　ようやく敵兵の多くが突進して来る俺の存在に気付き始めたが、戦車との距離は確実に手りゅう弾をボディー上部で爆発させるにはまだ遠い。

　砲塔は無理にしても、操縦士か副操縦士の上部で爆発させて何らかの機能に損害を与えなければ時間は稼げない。

　M4の副操縦士席に備え付けてある7.62mmM1919A4機関銃が、接近する俺に気付いて銃撃を開始し、そう遠くない距離に着弾して砂埃が上がる。

　だがペリスコープ越しに車内から発射されるこの手の銃は、多数の目標物をけん制するには都合が良いが、チョロチョロと動き回る目標物を確実に捉えるのには不向き。

　しかも車体前面の最も装甲の厚い箇所にボールマウントで留めてあるものだから、射角が小さい。

　俺はその小さな射角から逃れる様に、戦車の被弾した左側に回り込むように走る。

　こうすれば戦車が独自で俺を射撃しようとするならば、生きている右の履帯を動かせて車体を左方向に向けて再び副操縦士席備え付けの機関銃の射角内に俺を入れるか、でなければ右に旋回中の砲塔を左に旋回させて主砲の横に付いてある同軸機関銃を使うかのどちらかだ。

　まあ時間的に主砲発射のタイミングは近いはずだから砲塔を左に旋回させるようなことはないが、車体を動かすことによって再び照準を合わし直す必要が生じるし、慌てて俺に対応する事で戦車内での敵の連携が崩れてくれれば……まあ、そこまで上手くいくとは思えないが。


　ところが奇跡は起きた。


　奴等は混乱して、事も有ろうか主砲発射のタイミングで車体を左に振ってしまった。

　おかげで撃ち出された砲弾は、目標であるシュパンダウたちの乗る戦車ではなく、その先に有る建物の壁に突き刺さった。

　これで攻守は逆転して、今度はシュパンダウたちの戦車が撃つ番。


　ここで下手に戦車に近付いてしまうと、砲弾が命中した時の爆発や破片に遣られてしまうので、俺は近くのタコツボに避難した。

　破片は物凄い速さで飛んでくるため、この距離で顔を出していては万が一破片が自分に向かって飛んできた場合は避けられない。

　だからシュパンダウたちの砲撃が終わるまで、ここでジッとしているしかない。


　“ドン”と言う発射音と同時に“ゴーン”と言う鐘を突くような音が聞こえタコツボから外に飛び出して見ると、シュパンダウたちの放った砲弾はM４A1戦車の副操縦士席上部のボディーの局面部分に弾かれて少し凹ませただけだった。

　これでまた攻守は交代する。

　奇跡は2度も起こらない。

　今度敵が撃てば、ほぼ確実にシュパンダウたちの乗る戦車に命中するだろう。


　ただ不幸中の幸いは、放った砲弾がまるっきり外れた訳ではなく、乗員の近い所に当たったと言う事。

　おそらくこれで車内から機関銃を操作していた副操縦士は肝を冷やしただけではなく、驚いて避けた拍子にどこかに頭をぶつけているかも知れない。

　まあこれは、ただの俺の予想だが、そうでなかったとしても戦車内は一時的にパニックに陥った事だろう。


　その隙を突いて俺はタコツボから飛び出す。

　案の定、敵は撃ってこなかった。

　良く見ると被弾により右側前方に激しい衝撃を受けた為か、副操縦士用席のハッチが吹き飛ばされて無くなっている。

　この状態だと、その真下に居た副操縦士も無傷では済まない。

　俺がタコツボから飛び出したのに機関銃を撃ってこなかったのは、おそらくこの為だろう。

　持っていた手りゅう弾の安全キャップを外し、中の紐を引いて開口部に投げ入れると、何人かの搭乗員が慌てて戦車から飛び出してきたが、俺は構わず元居たタコツボに頭から飛び込んだ。