58 / 98
Liberation of Paris(パリの解放)
[Battle until the liberation of Paris Ⅴ(パリ解放までの戦い)]
しおりを挟む
持っていたFG42自動小銃の銃口をジョンソン中尉に向けると、彼は予想以上に驚き、その目が銃口に釘付けになっていた。
当然、彼の後ろに控えている戦車では、俺に重機関銃を向けて直ぐにでも撃てる体勢を取っていた。
「ど、どうした!?平和的に話をしていたと思っていたのに、撃つつもりなのか?俺を撃ったら直ぐその後に自走砲の重機関銃でお前も撃たれるぞ!」
「さあ、それはどうかな?俺が撃てば直ぐに俺の部下たちも撃ち始める。どうなるか、賭けてみるか?もっともお前が死んだ後の事だから、もう見ることも知る事も無いだろうが」
「まっ、待ってくれ!一体どうしたんだ!?」
ジョンソン中尉が手を顔の高さまで上げて、ようやく俺の顔を見た。
「お前は嘘をついた。噓つきは信用ならない」
「嘘など言っていない。俺たちは本当にレジスタンスが蜂起するのを抑えるために」
「それは誰の考えだ?」
「だから、ド・ゴール……」
「軍人に……しかもありあまる戦力持つお前たちがこの様な作戦を思いつくとは到底思えない。誰に知恵を借りた?本当の事を言え!」
「レジスタンスの女に聞いた。だが、女の身の安全のために名前は言えない」
「スパイか」
「そうだ」
“やはりジュリーだ!”
その事を聞いて俺は、中尉に向けていた銃を降ろした。
「通れ」
「……いいのか?」
「ああ。女性には逆らわない方がいい。そうだろう?」
「ああ、でも何故急に?」
些細な事だと思っていても、嘘はいけない。
この作戦がもしド・ゴールやその閣僚たちが考えた物であれば、何度も意見を出し合って充分に計画を練っているはずだから、この突入がもし彼等の考え出した作戦ならもっと複雑で必ず本音の反対側である“裏”も存在するはず。
もちろん偶然居合わせたドイツ軍と遭遇してしまう事も考慮して、後詰の部隊や別動隊も必ず用意する。
それが無いと言う事はジョンソン中尉の言う通り、ジュリーがこの作戦を提案してその純真な平和への願いがド・ゴールたちに届いたと言う事だろう。
俺はジョンソン中尉に背中を向けて、シュパンダウたちの居るアパートへ戻る事にした。
「おい君!」
後ろから中尉が声を掛けて来た。
「なんだ?」
「敵に背中を向けて、撃たれるかも知れないと言う恐怖心は無いのか?」
振り返ると、驚いた顔が俺を見ていた。
「野球では背中を向けているバッターに向かって、ピッチャーは相手が打つ体勢を整える迄ボールは投げないだろう。それにハンバーガーヒルで偵察に出てきたお前が逃げる時、俺達はその背中に銃弾を浴びせたか?」
「やっぱりあの時の指揮官だったのか‼それにしても、なぜ野球の話しをした。確かに俺は野球でピッチャーをやっていたが、何故それを知っているんだ!?」
「さあな、それは自分で考えて、戦争が終わった時に答えを聞かせてくれ。まあ、お互いに生きていたらの話しだがな」
彼は、何も言わなかった。
俺は、彼に背を向けたままアパートの入り口の扉を開けて中に入って行った。
「ふう……」
アパートの窓からルッツを見守っていたシュパンダウとホルツの2人が同時に大きなため息をつき、全身の力が抜けたように床に座り込んだ。
ルッツは敵と英語で話していたので、英語の分からない2人には内容は分からないが、それでもいつルッツが撃たれるかと言う緊張は自分たちが実際に戦闘するよりも堪えた。
2人が床に座り込んでいるところに、部屋のドアが開きルッツが入って来た。
「お前たち、一体どうした?床に座り込んで……」
「どうしたもこうしたも有るか!? いったい2人で何を話していた?それに何故途中で奴に銃を向けた!?おかげでコッチは緊張でクタクタだぜ!」
「すまない。彼等の目的を聞いていた」
「でも、どうして彼等をそのまま通したのですか?」
「ああ、これは内緒にしておいて欲しいのだが、彼等はレジスタンスが休戦協定を破らないために市庁舎と警察本部に行った」
「はあ?ど、どうして止めなかった!?敵の言う事を真に受けるつもりか?」
「ああ」
「どうして?」
「彼等が、このルートを通った事で、既に俺たちの運命は決まっている」
「決まっている?そりゃあ一体、どういう事だ!?」
シュパンダウが激しくルッツに食いつく。
「おかしいとは思わないか?あんな少人数の部隊で、ドイツ軍が守るパリ市内に突入なんて。普通に考えれば自殺行為だ」
「どういうこよなんです!?」
ホルツが動揺して聞くと、シュパンダウが俺の答えを読んで、口を開く。
「ドイツ軍の中に裏切り者が居るって事か!?」
「端的に言うと、そういう事になる」
「でも、部隊の配置を全て掌握できるのは一部の人間だけでしょう?自分たちの防衛拠点の情報を漏らしたところで……」
「つまり、親玉が裏切ったと言う事か……」
「まあ、あくまでも推測に過ぎないがな」
当然、彼の後ろに控えている戦車では、俺に重機関銃を向けて直ぐにでも撃てる体勢を取っていた。
「ど、どうした!?平和的に話をしていたと思っていたのに、撃つつもりなのか?俺を撃ったら直ぐその後に自走砲の重機関銃でお前も撃たれるぞ!」
「さあ、それはどうかな?俺が撃てば直ぐに俺の部下たちも撃ち始める。どうなるか、賭けてみるか?もっともお前が死んだ後の事だから、もう見ることも知る事も無いだろうが」
「まっ、待ってくれ!一体どうしたんだ!?」
ジョンソン中尉が手を顔の高さまで上げて、ようやく俺の顔を見た。
「お前は嘘をついた。噓つきは信用ならない」
「嘘など言っていない。俺たちは本当にレジスタンスが蜂起するのを抑えるために」
「それは誰の考えだ?」
「だから、ド・ゴール……」
「軍人に……しかもありあまる戦力持つお前たちがこの様な作戦を思いつくとは到底思えない。誰に知恵を借りた?本当の事を言え!」
「レジスタンスの女に聞いた。だが、女の身の安全のために名前は言えない」
「スパイか」
「そうだ」
“やはりジュリーだ!”
その事を聞いて俺は、中尉に向けていた銃を降ろした。
「通れ」
「……いいのか?」
「ああ。女性には逆らわない方がいい。そうだろう?」
「ああ、でも何故急に?」
些細な事だと思っていても、嘘はいけない。
この作戦がもしド・ゴールやその閣僚たちが考えた物であれば、何度も意見を出し合って充分に計画を練っているはずだから、この突入がもし彼等の考え出した作戦ならもっと複雑で必ず本音の反対側である“裏”も存在するはず。
もちろん偶然居合わせたドイツ軍と遭遇してしまう事も考慮して、後詰の部隊や別動隊も必ず用意する。
それが無いと言う事はジョンソン中尉の言う通り、ジュリーがこの作戦を提案してその純真な平和への願いがド・ゴールたちに届いたと言う事だろう。
俺はジョンソン中尉に背中を向けて、シュパンダウたちの居るアパートへ戻る事にした。
「おい君!」
後ろから中尉が声を掛けて来た。
「なんだ?」
「敵に背中を向けて、撃たれるかも知れないと言う恐怖心は無いのか?」
振り返ると、驚いた顔が俺を見ていた。
「野球では背中を向けているバッターに向かって、ピッチャーは相手が打つ体勢を整える迄ボールは投げないだろう。それにハンバーガーヒルで偵察に出てきたお前が逃げる時、俺達はその背中に銃弾を浴びせたか?」
「やっぱりあの時の指揮官だったのか‼それにしても、なぜ野球の話しをした。確かに俺は野球でピッチャーをやっていたが、何故それを知っているんだ!?」
「さあな、それは自分で考えて、戦争が終わった時に答えを聞かせてくれ。まあ、お互いに生きていたらの話しだがな」
彼は、何も言わなかった。
俺は、彼に背を向けたままアパートの入り口の扉を開けて中に入って行った。
「ふう……」
アパートの窓からルッツを見守っていたシュパンダウとホルツの2人が同時に大きなため息をつき、全身の力が抜けたように床に座り込んだ。
ルッツは敵と英語で話していたので、英語の分からない2人には内容は分からないが、それでもいつルッツが撃たれるかと言う緊張は自分たちが実際に戦闘するよりも堪えた。
2人が床に座り込んでいるところに、部屋のドアが開きルッツが入って来た。
「お前たち、一体どうした?床に座り込んで……」
「どうしたもこうしたも有るか!? いったい2人で何を話していた?それに何故途中で奴に銃を向けた!?おかげでコッチは緊張でクタクタだぜ!」
「すまない。彼等の目的を聞いていた」
「でも、どうして彼等をそのまま通したのですか?」
「ああ、これは内緒にしておいて欲しいのだが、彼等はレジスタンスが休戦協定を破らないために市庁舎と警察本部に行った」
「はあ?ど、どうして止めなかった!?敵の言う事を真に受けるつもりか?」
「ああ」
「どうして?」
「彼等が、このルートを通った事で、既に俺たちの運命は決まっている」
「決まっている?そりゃあ一体、どういう事だ!?」
シュパンダウが激しくルッツに食いつく。
「おかしいとは思わないか?あんな少人数の部隊で、ドイツ軍が守るパリ市内に突入なんて。普通に考えれば自殺行為だ」
「どういうこよなんです!?」
ホルツが動揺して聞くと、シュパンダウが俺の答えを読んで、口を開く。
「ドイツ軍の中に裏切り者が居るって事か!?」
「端的に言うと、そういう事になる」
「でも、部隊の配置を全て掌握できるのは一部の人間だけでしょう?自分たちの防衛拠点の情報を漏らしたところで……」
「つまり、親玉が裏切ったと言う事か……」
「まあ、あくまでも推測に過ぎないがな」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】


社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
10 sweet wedding
国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる