Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)

湖灯

文字の大きさ
上 下
57 / 98
Liberation of Paris(パリの解放)

[Battle until the liberation of Paris Ⅳ(パリ解放までの戦い)]

しおりを挟む
「俺は混成突入部隊の、アメリカ軍ジョンソン中尉だ」

「ドイツ空軍降下猟兵、ルッツ少尉」

 ここで、お互いに初めて名乗り合う。


「自由フランス軍だけの突入じゃあないんだな」

「ド・ゴールがアメリカ軍の貢献も尊重して、はじめの一歩に加えてくれたのさ」

「イギリス軍は?」

「上の方がヘソを曲げてな……」

「違う国が協力し合うのも難しいものなんだな」





「マルシュ、ここから早く逃げ出そうぜ!」

 アパートから様子を窺っていると、部下のピエールが騒ぎ出した。

「なんでだ?」

「だってよう、見ろよ、あのドイツ野郎の余裕を。きっと少人数と思わせておいて、今頃は仲間がワンサカきて周りを取り囲んでいるに違いねえ」

「馬鹿、見ただろう、ドイツ兵が3人しか居なかったのを。それに空軍の降下猟兵みたいに希少価値の高い兵隊が大規模な攻撃作戦でもない限り、ワンサカ集まりはしねえ」

「だったら、あのアメリカ兵に教えてやろうぜ!?」

「なにを?」

「ドイツ兵が3人しか居ない事をさ」

「そんな事をして、何になる?」

「そうすりゃあ、あのドイツ兵は捕えられるか殺されるかして、隠れている2人もお陀仏さ!」

「ピエール……お前、そんなに殺し合いをさせたいのか?」

「だってようマルシュ、アイツはドイツ兵だぜ。ドイツは俺達の敵だ」

「ドイツ兵と言っても、ドイツ人で、元は俺達と同じ人間だぞ。それに俺たちは何のために戦っている?ドイツ兵を殺すためか?違うだろう、自由の為だ」

「そりゃあ、そうだけど……でも」

「やめておけ」

「なんで!?」

「お前の眼は節穴か?見ろよあの2人を、あれが敵対する者同士に見えるか?」

 窓の向こうに見える2人は、お互いに持っている煙草を交換し合い、共にお互いの煙草に火を点け合い穏やかな表情で何かを話していた。




「シュパンダウさん……ルッツ少尉、大丈夫でしょうか?」

 2階の窓からルッツの様子を食い入るように見ているホルツ。

 話し掛けられたシュパンダウは窓に目を向けている程度で、ホルツに比べて1箇所に集中している風ではなく、どちらかと言うとノンビリ外を眺めているような様子。

「大丈夫じゃねえの」

「もーっ、そんな他人事みたいに言わないで下さいよ」

「だってよう、ルッツの事を真面目に心配していたら、キリがねえ。自分で爆破した敵の戦車に飛び乗って逃げたり市民を虐殺しようとする親衛隊の少佐にタテついてみたり、そして今は敵の戦車と歩兵それぞれ1個小隊の前進を1人で止めて何かしようとしている。こんな事に付き合わされるだけで、こっちは寿命が縮んじまうぜ」

「確かに、それはそうですけど戦争だから仕方ないでしょう?勇気ある行動だと思いますよ、僕は」

 ルッツ少尉と親友だとばかり思っていたシュパンダウ兵長の、まるで心配していない様子に苛立ちながらホルツは窓に貼り付くようにルッツたちの様子を睨んでいた。

「そうそう。戦争で思い出したんだがな。あんまり窓に近付き過ぎると、敵の狙撃兵の良い的になっちまうぜ。それに敵は窓の向こうばかりとは限らねえ」

「えっ!?狙撃兵は分かりました。でも後半のは、どういう意味です?」

「つまり、敵は建物の裏からも侵入して来るってこと。これでハリコフやスターリングラードで手痛い被害が出たんだぜ」

 ホルツは驚いて、はじめて後ろを振り向いた。

「大丈夫、俺様が両方見ているから」





「で、市庁舎には何の用がある?」

 ルッツは、ここでようやく本来の目的をジョンソン中尉に聞いた。

「作戦の内容を敵であるドイツ兵に教える事は出来んが、通してくれると言うのなら教えてもいい」

「内容による」

「……レジスタンスの中で、特に過激な組織の暴走を抑える事が目的の一部。その他の目的は話せない」

「ほう……レジスタンスの暴走を抑えて何かいいことでもあるのか?」

「パリの街を傷付けたくはない。レジスタンスが大々的に蜂起すれば、街は混乱に陥り市街の至る所が戦場になる」

「そうなれば、連合軍の進撃は容易くなるのではないのか?」

「いや、俺もド・ゴールもそれは逆だと考えている」


「逆?」

「つまり戦火は憎しみを生み、新たなより激しい戦火を生み出す」

「ここでレジスタンスが蜂起して、そこに連合軍が突入してパリが解放された事になれば、フランスの各地域でも同じようにレジスタンスの蜂起が始まる」

「まあ、そうなるだろうな」

「だけど、その全てに我々連合軍が対処できるとは限らないし、君たちドイツ軍の方が優勢な場合もあるだろう」

「つまるところはレジスタンスの蜂起により、ドイツ軍を混乱に陥れる事は出来るが、混乱した兵士たちによるフランス市民の虐殺を止める術はない。というわけか?」

「その通り。我々は常に秩序のある戦闘を心掛けなければならない」

「秩序のある戦闘」

 復唱して思わず失笑してしまい。その拍子にこの男の事を思い出した。

 この男は、ハンバーガーヒルで逃がしてやった敵の偵察部隊に居た男!

 そして戦争が始まる前、俺がまだアメリカの大学に居て見様見真似でベースボールの対外試合に出た時に対戦した相手のピッチャー。

 あの時俺はコイツの前になすすべもなく3球三振して、その時にコイツはニヤッと笑いやがった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...