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Liberation of Paris(パリの解放)
[Battle until the liberation of Paris Ⅲ(パリ解放までの戦い)]
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「隊長!ドイツ兵が居ます‼」
「止めろ!」
ドライバーから報告を受けたパリ突入部隊のジョンソン中尉は一旦車列を止めて、乗っていたM7プリースト自走砲のキャビンから身を乗り出した。
見ると道の真ん中に大きく両手を広げて進路を塞ぐドイツの空挺部隊の兵士が1人いた。
広げた片方の手に自動小銃を持っているが、グリップは握っていないから、どうやら撃つ気は無いらしい。
ただ目つきは真剣で、ジッとこっちを睨んでいる。
「撃ちますか?」
自走砲のオープントップに配置されたブローニングM2重機関銃を構えた射手が、俺に射殺するかどうか聞いたので「撃つな」と指示して戦車から降りた。
一体どうなっているんだ!
建物の中から様子を窺っていたレジスタンスのマルシェたちは、目を疑った。
いかれたドイツ兵が道を塞いだかと思ったら、今度はアメリカ兵までノコノコと1人で戦車を降りてそのドイツ兵に向かって歩き出した。
俺はずっとここに居たから、あのドイツ兵が部下を2人しか連れて来なかった事を知っているが、あのアメリカ兵は何も知らないはず。
もしかしたらドイツ軍の1個中隊が待ち伏せているかも知れないのに、よくノコノコと戦車を降りて行けるものだ。
まったくあのドイツ兵も、あのアメリカ兵も、どうにかしているぜ。
「いったい此処で何をしている?迷子か?それとも我々連合軍に降伏するつもりなのか?」
やって来たアメリカ軍中尉が俺を揶揄う様に言ってきた。
それにしても、こいつどこかで会った事がある気がする。
「迷子でもなければ、降伏もしない」
「では、何のために、ここに居る?」
「お前たちを待っていた」
俺の言葉に、アメリカ軍中尉は一瞬目をギョッとさせて、頭を動かさずに目だけを動かせて周囲の建物を用心深く探っていた。
「やはり知っていたな」
「何のことだ」
「我々ドイツ軍の部隊が市内のどこに配置されているのかを」
「なっなぜ、それを……!」
俺の言葉にアメリカ兵は明らかに狼狽した。
当然と言えば当然のアクション。
つまり俺がその事を知っていると言う事は、彼等は罠に掛かったネズミと言う事になるのだから。
まさか1個小隊の戦車隊と、同じく1個小隊の機械化歩兵部隊を待ち伏せている俺たちが、たった3人しか居ないなんて誰も思いっこない。
「どうする、ここで降伏するか?それとも迷子になってここに迷い込んで来たのなら帰り道を教えてやってもいいが、安全は保障出来ないぞ」
彼がさっき俺のところに歩いて来たときに揶揄う様に言ってきた言葉をそのまま立場を変えてお返ししすると、彼は思った以上に絶望的な顔になり俺に「突入は諦めない」と覚悟を決めて答えた。
「無駄死にになるかも知れんぞ」
「戦争だからな、それも仕方あるまい」
「ひとつ聞かせてくれないか?」
「なんだ?」
「お前たちが単独で市庁舎に向かう理由は何だ?」
彼がまたギョッとした目で俺を見る。
無理もない。
目的地まで敵にバレているなんて、そうそう気持ちの良いことではない。
もっともそれは分かっている訳ではなくて、俺の当てずっぽうなのだが……。
「どこまで知っている……」
「全て」
「全てとは?」
やはりコイツは賢い。
そう簡単に作戦内容までは話さないつもりだ。
こうなれば俺も一か八か。
「市庁舎に入り、警察本部と協力してレジスタンスとの連絡を取るのと、パリ総督府のコルテッィツ将軍にプレシャーを掛ける事が今回の作戦の目的」
「……」
俺の話しに中尉は何も答えなければ、表情も変えない。
いわゆるポーカーフェイスを決め込んだ。
なら、こっちは攻めるだけ。
「黙って、お前たちだけの戦争を続けるつもりか?」
「俺達だけの戦争?」
「だいいちお前は俺の事を見落としている」
「お前の事を……見落としている?」
「そう。俺が何のためにお前たちの車列の前にノコノコと顔を出していると思っている?撃たれるかも知れないのに。そしてお前は部下が俺を撃とうとするのを止めてまでして、何のために俺の前までやって来た?まさか世間話や親睦を深めるためでは無いはずだ」
確かにこのドイツ兵の言う通り。
俺はこのドイツ兵が何らかの目的を持って出てきたと確信して、撃とうとする仲間を止めて奴の前に来た。
なのに、いつの間にか戦争と言う悪魔に呑み込まれて、本来の目的を忘れていた。
本来の目的は、話し合い。
戦って死者や負傷者を出すよりも、まず話し合いの場を設ける事が出来るのであれば、それに越したしたことはない。
ここで強行突破するのは容易いことだが、戦闘があれば仮にこの場を無傷で通過できたとしても銃撃戦の音で我々がこの場所を通過したことは広く敵に知れ渡ってしまう。
そうなれば敵のど真ん中に孤立してしまうこの少人数の部隊では、レジスタンスの蜂起を抑えるどころか逆に大勢のレジスタンスの蜂起に頼る以外生き残る手段は無い。
つまり初期の目的とは全く真逆の事態に陥ってしまう事になる。
「止めろ!」
ドライバーから報告を受けたパリ突入部隊のジョンソン中尉は一旦車列を止めて、乗っていたM7プリースト自走砲のキャビンから身を乗り出した。
見ると道の真ん中に大きく両手を広げて進路を塞ぐドイツの空挺部隊の兵士が1人いた。
広げた片方の手に自動小銃を持っているが、グリップは握っていないから、どうやら撃つ気は無いらしい。
ただ目つきは真剣で、ジッとこっちを睨んでいる。
「撃ちますか?」
自走砲のオープントップに配置されたブローニングM2重機関銃を構えた射手が、俺に射殺するかどうか聞いたので「撃つな」と指示して戦車から降りた。
一体どうなっているんだ!
建物の中から様子を窺っていたレジスタンスのマルシェたちは、目を疑った。
いかれたドイツ兵が道を塞いだかと思ったら、今度はアメリカ兵までノコノコと1人で戦車を降りてそのドイツ兵に向かって歩き出した。
俺はずっとここに居たから、あのドイツ兵が部下を2人しか連れて来なかった事を知っているが、あのアメリカ兵は何も知らないはず。
もしかしたらドイツ軍の1個中隊が待ち伏せているかも知れないのに、よくノコノコと戦車を降りて行けるものだ。
まったくあのドイツ兵も、あのアメリカ兵も、どうにかしているぜ。
「いったい此処で何をしている?迷子か?それとも我々連合軍に降伏するつもりなのか?」
やって来たアメリカ軍中尉が俺を揶揄う様に言ってきた。
それにしても、こいつどこかで会った事がある気がする。
「迷子でもなければ、降伏もしない」
「では、何のために、ここに居る?」
「お前たちを待っていた」
俺の言葉に、アメリカ軍中尉は一瞬目をギョッとさせて、頭を動かさずに目だけを動かせて周囲の建物を用心深く探っていた。
「やはり知っていたな」
「何のことだ」
「我々ドイツ軍の部隊が市内のどこに配置されているのかを」
「なっなぜ、それを……!」
俺の言葉にアメリカ兵は明らかに狼狽した。
当然と言えば当然のアクション。
つまり俺がその事を知っていると言う事は、彼等は罠に掛かったネズミと言う事になるのだから。
まさか1個小隊の戦車隊と、同じく1個小隊の機械化歩兵部隊を待ち伏せている俺たちが、たった3人しか居ないなんて誰も思いっこない。
「どうする、ここで降伏するか?それとも迷子になってここに迷い込んで来たのなら帰り道を教えてやってもいいが、安全は保障出来ないぞ」
彼がさっき俺のところに歩いて来たときに揶揄う様に言ってきた言葉をそのまま立場を変えてお返ししすると、彼は思った以上に絶望的な顔になり俺に「突入は諦めない」と覚悟を決めて答えた。
「無駄死にになるかも知れんぞ」
「戦争だからな、それも仕方あるまい」
「ひとつ聞かせてくれないか?」
「なんだ?」
「お前たちが単独で市庁舎に向かう理由は何だ?」
彼がまたギョッとした目で俺を見る。
無理もない。
目的地まで敵にバレているなんて、そうそう気持ちの良いことではない。
もっともそれは分かっている訳ではなくて、俺の当てずっぽうなのだが……。
「どこまで知っている……」
「全て」
「全てとは?」
やはりコイツは賢い。
そう簡単に作戦内容までは話さないつもりだ。
こうなれば俺も一か八か。
「市庁舎に入り、警察本部と協力してレジスタンスとの連絡を取るのと、パリ総督府のコルテッィツ将軍にプレシャーを掛ける事が今回の作戦の目的」
「……」
俺の話しに中尉は何も答えなければ、表情も変えない。
いわゆるポーカーフェイスを決め込んだ。
なら、こっちは攻めるだけ。
「黙って、お前たちだけの戦争を続けるつもりか?」
「俺達だけの戦争?」
「だいいちお前は俺の事を見落としている」
「お前の事を……見落としている?」
「そう。俺が何のためにお前たちの車列の前にノコノコと顔を出していると思っている?撃たれるかも知れないのに。そしてお前は部下が俺を撃とうとするのを止めてまでして、何のために俺の前までやって来た?まさか世間話や親睦を深めるためでは無いはずだ」
確かにこのドイツ兵の言う通り。
俺はこのドイツ兵が何らかの目的を持って出てきたと確信して、撃とうとする仲間を止めて奴の前に来た。
なのに、いつの間にか戦争と言う悪魔に呑み込まれて、本来の目的を忘れていた。
本来の目的は、話し合い。
戦って死者や負傷者を出すよりも、まず話し合いの場を設ける事が出来るのであれば、それに越したしたことはない。
ここで強行突破するのは容易いことだが、戦闘があれば仮にこの場を無傷で通過できたとしても銃撃戦の音で我々がこの場所を通過したことは広く敵に知れ渡ってしまう。
そうなれば敵のど真ん中に孤立してしまうこの少人数の部隊では、レジスタンスの蜂起を抑えるどころか逆に大勢のレジスタンスの蜂起に頼る以外生き残る手段は無い。
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