Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)

湖灯

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Liberation of Paris(パリの解放)

[To the important person Ⅱ(大切な人のもとへ)]

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 車を飛ばしてパリを目指す。

 あの様子だと、連合軍部隊は日が明けた昼にはパリに突入するかもしれない。

 そうなればルッツは……。



 万が一の事があってはならない。

 突入部隊がパリに入る前に、市街戦が激化する前に、何としてでもルッツに会っておかなければ。

 そしてコルティッツがパリを防衛するドイツ軍部隊に降伏命令を伝えた時に、彼を説得して投降させなければならない。

 さもないと、ルッツは背中にドクロを背負い、命のある限り永遠に続く地獄の戦場に駆り立てられてしまうだろう。

 そうなれば、ルッツと私が再会を喜び合う日が来ることは永遠に来なくなってしまう。



 夜の道を、まるで旋風つむじかぜのように荒々しく走る。

 私の焦る気持ちが爪先を通じて車に伝わり、夜明け前の静かな空間に激しいエンジンの鼓動を轟かす。

 やがて未だ地平線の下に隠れている暁が、晩夏の夜空に変化をもたらす。

 もう直ぐ日が昇り、深い夜が明ける。

 パリも、もう直ぐそこまで来ている。

 間に合う!

 ルッツは屹度私の説得に応じてくれるはず。

 捕虜と言う屈辱は間逃れないけれど、それはこれから先の生涯に比べれば一瞬の事となるだろう。


 “ああ、ルッツ!”


 ルッツの事を思うと、胸が熱くなる。

 私は、今まで以上にアクセルを踏む脚に力を入れた。



 カンカンカンカン、パーン!

 しまった‼

 銃撃に遭いタイヤがパンクした。

 ハンドルを操作したがコントロールを失った車は、私の思う様には行かず道を外れて森の中へ飛び込んでしまう。

 油断した。


 木にぶつかって止まった車から降りて逃げようとしたが、体が思う様に動かない。

 銃弾が当たったのか、それとも木にぶつかった衝撃なのかは分からない。

 兎に角、体のどこかが痛いと言うよりも、感覚が鈍く自由に動かない。

 遠くからドイツ兵の声が近付いて来て、それが次第に遠くなり私は気を失ってしまった。




 ルクレールの部隊はアルバジャンでドイツ軍の激しい抵抗に遭いながらも、なんとかパリに近付いていた。

 ジュリーが言った通り、アルバジャンには強力なドイツ軍守備隊が居たのだ。

 彼はこの抵抗でジュリーがもたらしたドイツ軍守備隊の配置図が正しいと確信し、ジュリーの言った通り少数の精鋭部隊をパリ中心部へと向かわせることにした。


 ルートは彼女が地図に指示した通り、ディタリー門とその西側に位置するドルレアン門の間を通るルート。

 突入部隊はM7プリースト自走砲3輛にM3ハーフトラック5輛と、それらに乗車する1個小隊。

 一行の隊長にはフランス軍とアメリカ軍の橋渡し役として尽力してくれたジョンソン中尉を任命した。

 この部隊が無事にパリ市庁舎に届けば、パリは解放される。





 パリ郊外から聞こえる銃声と爆発音が近付いて来た。

 いよいよ連合軍のパリ突入が迫っている。

 そうなればレジスタンスとの休戦協定も破棄されてしまうだろう。



「いよいよだな」

 シュパンダウが珈琲を持って俺のところに来た。

「はい、こっちは隊長の分」

「珍しいな」

「何が?」

「お前が俺に珈琲を持って来るなんて」

「たまにはな。だって、もし俺が死んだとき“あいつは珈琲の1杯も俺に寄こさなかった”なんて言われるのは癪だからな」

「縁起でもない事を言うな」

「毎日縁起でもない事をしているんだぜ。そこで縁起の良いことを言う方が神様から罰が当たっちまう」

 確かにシュパンダウの言う通り。

 俺たちは敵兵やレジスタンスだけでなく、俺達に銃を向けて戦おうとする者には容赦なく銃弾を撃ち込んで殺してきた。

 そんな俺たちが殺さる立場になったとき、神様に助けを乞うても、神はあざ笑うだけだろう。


 シュパンダウの奴、さり気なく自分の覚悟を俺に示したって訳だ。

 問題は、多くのドイツ兵守備隊が思う様に、敵の大部隊がパリ市街に突入して来るかどうかだ。

 もしそうなれば俺たちは前面に連合軍、そして後方を含めた全周囲をレジスタンスに取り囲まれる。

 おそらく撤退は許されず、命令は徹底抗戦。

 そうなればシュパンダウが覚悟した通りの運命が待っている。


 もし部隊が全滅の危機に陥った時、俺には部隊を守るために降伏する勇気があるのだろうか……。

 いや、きっとその勇気は俺には無い。

 せいぜいロスかシュパンダウに白旗を持たせて怪我をした者達の安全を託して、俺は何らかの理由を着けて1人で敵中に飛び込んで行ってしまうだろう。

 死んでしまえば蔑みも屈辱も受ける事は無い。

 俺は、この2つを恐れることで、これまで戦場で勇気を維持してきたのだ。

 今更、それを受け入れるつもりは毛頭も無い。
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