Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)

湖灯

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battle in Paris(パリでの戦い)

[Plaza d'Italie Ⅱ(ディタリー広場)]

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 広場の象徴でもあるラウンドアバウト(環状交差点)の中央に備え付けられたのは、高く積んだ土嚢に守られた8.8cm FlaK 36。

 その威風堂々とした姿は、連合軍の何人たりともここを通さないと言う確固たる意思を俺達に伝えていた。

 俗に88mm砲と称されるこの砲がこの位置にあると言う事は、有効な手段に間違いない。

 このディタリー広場の中央からは1.4kmの直線道路を有するディタリー通りとショワジー通り、1.2kmのボビオ通りオーギュスト・ブランキ通りの一部500mなど敵の進行が予想される南と西に向かう主要道だけでなく、敵が北方ルートで入って来た場合のゴブラン通り(850m)や俺たちが通って来たオピタル通り(1.55km)等も土台を動かさずに砲の回転だけで狙える。

 特に特筆すべきは1㎞以上離れた敵戦車の正面装甲を易々と射貫くことが出来るということ。

 7.5 cm PaK 40だと弾着角60度での装甲貫徹力は距離1500mで80mm以下なのに対して、8.8cm FlaK 36だと同じ条件でも距離1500mで123mmもあり、敵のどの戦車の装甲もこの場所から見えた瞬間に撃ち抜くことが出来る。

 しかも7.5 cm PaK 40の発射速度が毎分12~15発なのに対して、8.8cm FlaK 36の発射速度は元々対航空機用の高射砲なので毎分15~20発と非常に早い。

 背が高く敵から発見されやすいのと、大き過ぎて移動が困難なのが欠点だが、このディタリー広場は通さないという強いメッセージを敵味方双方に与える影響力は大きい。




「でけえなこりゃあ!」

「我がドイツが誇る、タンクキラーだな」

「8.8cm FlaKと言えば、ロンメル将軍が有名ですよね」

「ああ。1941年5月の北アフリカ戦線ハルファヤ峠では、8.8cm FlaKの中隊(4~6門)が90輌近いイギリス軍戦車を破壊したのは特に有名な話だな(連合軍作戦名「バトルアクス作戦」)」

「今やティーゲル戦車の主砲だぜ!」

「それは、心強いですね」

 シュパンダウとロス、それにホルツの3人が話しているように、この図体のデカい対戦車砲はティーゲル戦車と並んで強いドイツの象徴でもある。

 惜しむらくは、その話の渦中の人物であるロンメル将軍がノルマンディーで負傷して戦列を離れていると言う事。

 彼が指揮を執ってくれていてくれたなら、これほど早く連合軍もパリには迫る事は出来なかっただろう。

 それにヒトラーの暗殺が、もし成功していれば、今頃は……。





 ディタリー広場に到着後、現地司令官に配置の指示を受け、俺達の分隊は敵が東側に回り込んで来た場合の楔くさびになるジョワジー通り東側の公園に布陣した。

 俺達の他には、この付近を守る国防軍の1個小隊から2個分隊が守備に着くだけ。


「やあ、タンクキラーのお出ましだ!」

「助かり!俺達だけじゃ、どうしようもないと諦めかけていたところです」

 到着するなり2人の分隊長が先頭に、分隊の兵士たちが駆け寄って来て歓迎された。

「でも俺たちは、対戦車用の武器は持ってねえぜ」

 シュパンダウが答えると、彼等は箱一杯のパンツァーファーストを見せてくれた。

「君たちは使わないのか?」

「使い方は習いましたが、実際に対戦車戦で使用したことがありませんから自由に使ってください」

「これだけあればルッツ少尉たちなら、戦車中隊くらいは楽に仕留められるでしょう」

「バカ!小隊じゃない。大隊規模だって片付けてくれらあ」

 2人の軍曹の言葉に、その部下たちも喜ぶ。

 過度に期待されても困るが、希望が無ければまともに戦えないので否定はしなかった。

 パンツァーファーストの射程は短いが、市街戦なら問題はない。

 寧ろ俺たちの守備範囲に無理やり突っ込んでくる戦車は、片端から片付けてやる。




 場所は変わり、ここは昼過ぎの警察本部。


 慌ただしく人が行き来する廊下を通り、バタバタと急ぐ靴に巻き上げられる埃か煙草の煙か判断のつかないモヤモヤとしたものの中を駆け上がる男。

 大通りからルッツたちを追って偵察に出ていたマルシュが、ジュリーの部屋の前で立ち止まり服についた誇りを払い落とし、深呼吸をしてからドアをノックする。

「どうぞ」

 ドアを開けると、そこは来客用の部屋らしく事務机の前にソファーがあり、奥には簡易的なキッチンでもあるのかドアがもう一つあった。

 いつも身の回りを綺麗にしているジュリーにしては珍しく、机の上には幾つもの地図や書類が乱雑に置かれ、ブロンドの髪も幾分乱れていて疲れたように見える。

「いい部屋だな、家具も良いものを使っていて、さすがパリの警察本部だな」

 マルシュは挨拶代わりの話題を明るいものにしようと思って言ったのだが、ジュリーはそれには取り合わないで、逆に頑なな表情を見せて用件を先に言う様に指示した。

「どうやら彼等はジョワジー通りにある公園に布陣した」

「そう、ありがとうマルシュ」



「ジュリー、チョッと聞いていいか?」

「なに?」

「どうして、奴等……いや、奴に肩入れする?」

「肩入れなんて、していないわ」



「そうか……」

「そうよ」



「じゃあ何故、奴等の部隊をここから追い出した。連合軍はこの場所を確実に通る。そうなれば奴等に勝ち目はない。……だから、じゃあないのか?」

「まさか」



 頑なになっていたジュリーの表情が緩む。

「確かにアナタの言う通り、あのままこの橋の向こう側に彼等が居座っていても、おそらくは全滅してしまうに違いないでしょう。しかし彼等は昨日警察隊の突破を簡単に食い止めただけでなく、あの少人数で崩壊寸前のサン・ミッシェル橋を担当していた仲間を助け出し、応援の到着後は即座に堕とされた拠点の奪還を実現させているのよ」

「しかし今度は連合国の正規軍で、戦車の護衛も付く」

「分隊長のルッツは、仲間と共に既に100輌以上もの戦車を破壊して、勲章も受けている英雄よ。それに今は軍曹から少尉に昇進して、分隊長としてだけではなく小隊も指揮できる。結局は多勢に無勢だと思うけれど、彼等があの橋の袂を守る事によって戦闘は大きくなり連合軍ばかりじゃなく街の被害も甚大になる事は簡単に想像できるわ」



「確かにジュリーの言う通りだと思うが、それだけかい?」

「……それだけとは?」



「いや、何でもない。でも、それならジョワジー通りにある公園に奴等が移動した所で、何も変わらないんじゃないのか?」

「変わるわ」



「公園だからか?」

「違う」

「違うって、どこが違う!?」



「このシテ島に架かる橋は、連合軍が南、あるいは西から来る場合は必ず通らなければならない。しかし、ジョワジー通りは避けて進軍する事も出来るでしょう」

「それは、もう連合軍の入場ルートも確定していると言う事なのか!!」


「さあ、それはどうだか……でも、予め危険なルートを教えておけば、彼等も無理に被害を出してまで押し寄せては来ないでしょう?」
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