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Julie(ジュリーとの出会い)
[Normandy Ⅱ(ノルマンディー)]
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短時間に数台のⅣ号戦車が被弾したが、戦車隊は進軍を諦めるどころか、対戦車砲の隠れている林に向きを変えて突撃を仕掛けて行く。
勇敢だが、無謀な気もする。
「降車‼」
戦車に振り落とされるのは、まっぴらごめんだし、被弾してからではコッチも降りられなくなるかもしれない。
それにこんなに狭いところで、この乗り心地の悪さでは振り落とされないように何かに掴まっているのがやっとで、とても銃を撃つどころではない。
地上に降り、他の戦車に分乗している分隊の仲間にも声を掛けて降車させた。
「大丈夫なんですか!?勝手に降車して」
地上に降りたワインツマン伍長に聞かれ「誰の指示を待つつもりだ!?」と怒鳴る。
確かに俺たちは戦車に乗って移動するように言われたが、戦闘の指揮は誰が執るか、誰に従えばいいのかなどと言ったことは聞いていない。
ただ“数”として戦場に送り出されただけ。
ローマでの戦い(アンツィオの戦い)でもそうだったが、混乱した戦場では先ず指揮系統から乱れて行く。
指揮系統が混乱しても何とかなるのはソ連軍だけ。
彼等の場合は俺たちの携帯している銃弾の数を上回る兵隊の数で襲い掛かって来るから、そもそも綿密な指揮系統は必要ない。
必要なのは、敵の位置が何所なのかだけ。
こういう混成部隊にあっては、まともな指示を待っていては手遅れになるし、そんな指示も出ないことも多々ある。
自ら考える力と行動力が試されるのだ。
降車しても落ち着いては居られない。
敵からの銃撃を受けにくいように身を屈めながら、後続の味方の戦車に踏みつぶされないように一旦戦場の中央から右翼へと移動する。
「大丈夫か!?」
「どうした!?」
ザシャが降車時に足をねん挫した。
「ゼーゼマン、ザシャの装備を持って肩を貸してやれ」
「世話焼かせやがって」
「軍曹、大丈夫です」
「人の手を借りられるうちは遠慮なく借りておけ。借りられなくなった時のためにな」
「わかりました!」
ゼーゼマンがザシャの首から掛けていた弾帯とMG42機関銃、交換用の銃身を入れたケースを受け取り、ザシャの肩を担いで着いて来る。
飛び交う銃弾に、不意に襲って来る鉄や石の破片。
戦場は泥まみれ。
突撃を敢行したⅣ号戦車は既に10輌近くが煙を上げていて、周囲に無数に散らばっているのは、その戦車に乗車していた歩兵たちの死体。
彼等のうち半数以上は、この戦線で何もすることもなくこの世を去っていった。
戦場の混乱を避けて敵の右翼に回り込むことに成功した俺たちは、敵の歩兵と闘いながら対戦車陣地を潰していった。
勇猛果敢に突撃を試みた戦車隊は、被弾して動けなくなった戦車に進路を塞がれて、立ち往生しているところを対戦車砲に狙われていた。
何輌かは被弾した味方の戦車をかわして前に出ようと試みたが、かわすために横腹を向けたところを狙い撃ちにされ、残った戦車は敵との距離約200mの所で被弾した戦車の影に隠れたまま比較的装甲の厚い砲塔前面だけを前に向けて様子を窺っている。
ザシャが足を挫いているため機関銃チームはカミールとゼーゼマンを加えた3人に、ロス伍長と狙撃兵のクルッペンをサポートに付け林の手前にある用水路から援護射撃を行わせて、俺は残った分隊員とワインツマンの分隊を連れて林への突入を計る。
林に辿り着いたときには俺の分隊から1人ワインツマンの分隊から2人が途中で敵弾に当たり落伍していたが、今度は援護してくれたザシャたちを林に迎え入れるために援護射撃を行い、無事彼等を導くことに成功した。
「ここからは倒した敵の装備を使う!」
「全員分ありません!」
敵の装備を探していたワインツマンが不満げに答える。
「なら全員分用意しろ‼」
ワインツマンの言葉に、つい苛立って怒鳴ってしまった。
敵の武器を使う利点は、敵を倒しさえすれば幾らでも銃弾の補充が出来る事。
このおかげで残りの弾数を気にすることなく、敵の影を見つけ次第、撃ち続ける事が出来る。
手りゅう弾も使い放題。
そうやって次々に敵兵を駆逐して、ついに最初の対戦車砲陣地を見つけた。
大砲の音は煩いので、敵のクルーたちは一切俺たちの接近には気付く様子もなく、ようやく気が付いたときには体のどこかに銃弾が当たってしまったあとだろう。
俺たちは対戦車砲陣地に取りつくと敵の死体をどけて、狭い陣地内で対戦車砲の向きを変え、敵の対戦車砲陣地に向けて発射していった。
結局俺たちは奪った対戦車砲使って、敵の対戦車砲の陣地を制圧する事に成功した。
だがワインツマンの分隊は、最後の最後に味方の放った戦車砲の誤射によって全滅してしまった。
最後の対戦車砲陣地を片付けたワインツマンが、振り返って俺に見せた笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
急に背中がズルリと滑り、顔が濁った水の中に入りそうになって慌てた。
「……」
周囲を見渡すと、ここはもう林の中ではない。
ジュリーが用意してくれたお湯に温まっているうちに、リラックスし過ぎてついウトウトと寝てしまっていた。
眠っているときも戦争を忘れられないなんて、俺はどうにかしている。
しかしこの濁ってしまったお湯は一体どういうことだ?
改めて1ヶ月もの間、風呂に入っていなかった事を思い知らされる。
バスタブの栓を抜き、シャワーを浴びて体とバスタブに付いた汚れを流した。
着替えは……。
籠の中に着替えはあった。
昨夜会ったばかりだけれど、叔父さん夫妻と3人住まいのはずだから、着替えも当然叔父さんの物だと思っていた。
しかし、これはジュリーの叔父さんの物とは違う。
叔父さんの背は特に低いわけではないが、俺に比べると10センチ近く低いうえに痩せ型だから正直ウエストがきついだろうと覚悟はしていたが、ここに用意されたズボンもシャツもまるであつらえたみたいに俺に丁度合っている。
これは一体どういう事なんだ?
恋人の服?
……。
気になるが、気にしたってなんにもなりゃしない。
勇敢だが、無謀な気もする。
「降車‼」
戦車に振り落とされるのは、まっぴらごめんだし、被弾してからではコッチも降りられなくなるかもしれない。
それにこんなに狭いところで、この乗り心地の悪さでは振り落とされないように何かに掴まっているのがやっとで、とても銃を撃つどころではない。
地上に降り、他の戦車に分乗している分隊の仲間にも声を掛けて降車させた。
「大丈夫なんですか!?勝手に降車して」
地上に降りたワインツマン伍長に聞かれ「誰の指示を待つつもりだ!?」と怒鳴る。
確かに俺たちは戦車に乗って移動するように言われたが、戦闘の指揮は誰が執るか、誰に従えばいいのかなどと言ったことは聞いていない。
ただ“数”として戦場に送り出されただけ。
ローマでの戦い(アンツィオの戦い)でもそうだったが、混乱した戦場では先ず指揮系統から乱れて行く。
指揮系統が混乱しても何とかなるのはソ連軍だけ。
彼等の場合は俺たちの携帯している銃弾の数を上回る兵隊の数で襲い掛かって来るから、そもそも綿密な指揮系統は必要ない。
必要なのは、敵の位置が何所なのかだけ。
こういう混成部隊にあっては、まともな指示を待っていては手遅れになるし、そんな指示も出ないことも多々ある。
自ら考える力と行動力が試されるのだ。
降車しても落ち着いては居られない。
敵からの銃撃を受けにくいように身を屈めながら、後続の味方の戦車に踏みつぶされないように一旦戦場の中央から右翼へと移動する。
「大丈夫か!?」
「どうした!?」
ザシャが降車時に足をねん挫した。
「ゼーゼマン、ザシャの装備を持って肩を貸してやれ」
「世話焼かせやがって」
「軍曹、大丈夫です」
「人の手を借りられるうちは遠慮なく借りておけ。借りられなくなった時のためにな」
「わかりました!」
ゼーゼマンがザシャの首から掛けていた弾帯とMG42機関銃、交換用の銃身を入れたケースを受け取り、ザシャの肩を担いで着いて来る。
飛び交う銃弾に、不意に襲って来る鉄や石の破片。
戦場は泥まみれ。
突撃を敢行したⅣ号戦車は既に10輌近くが煙を上げていて、周囲に無数に散らばっているのは、その戦車に乗車していた歩兵たちの死体。
彼等のうち半数以上は、この戦線で何もすることもなくこの世を去っていった。
戦場の混乱を避けて敵の右翼に回り込むことに成功した俺たちは、敵の歩兵と闘いながら対戦車陣地を潰していった。
勇猛果敢に突撃を試みた戦車隊は、被弾して動けなくなった戦車に進路を塞がれて、立ち往生しているところを対戦車砲に狙われていた。
何輌かは被弾した味方の戦車をかわして前に出ようと試みたが、かわすために横腹を向けたところを狙い撃ちにされ、残った戦車は敵との距離約200mの所で被弾した戦車の影に隠れたまま比較的装甲の厚い砲塔前面だけを前に向けて様子を窺っている。
ザシャが足を挫いているため機関銃チームはカミールとゼーゼマンを加えた3人に、ロス伍長と狙撃兵のクルッペンをサポートに付け林の手前にある用水路から援護射撃を行わせて、俺は残った分隊員とワインツマンの分隊を連れて林への突入を計る。
林に辿り着いたときには俺の分隊から1人ワインツマンの分隊から2人が途中で敵弾に当たり落伍していたが、今度は援護してくれたザシャたちを林に迎え入れるために援護射撃を行い、無事彼等を導くことに成功した。
「ここからは倒した敵の装備を使う!」
「全員分ありません!」
敵の装備を探していたワインツマンが不満げに答える。
「なら全員分用意しろ‼」
ワインツマンの言葉に、つい苛立って怒鳴ってしまった。
敵の武器を使う利点は、敵を倒しさえすれば幾らでも銃弾の補充が出来る事。
このおかげで残りの弾数を気にすることなく、敵の影を見つけ次第、撃ち続ける事が出来る。
手りゅう弾も使い放題。
そうやって次々に敵兵を駆逐して、ついに最初の対戦車砲陣地を見つけた。
大砲の音は煩いので、敵のクルーたちは一切俺たちの接近には気付く様子もなく、ようやく気が付いたときには体のどこかに銃弾が当たってしまったあとだろう。
俺たちは対戦車砲陣地に取りつくと敵の死体をどけて、狭い陣地内で対戦車砲の向きを変え、敵の対戦車砲陣地に向けて発射していった。
結局俺たちは奪った対戦車砲使って、敵の対戦車砲の陣地を制圧する事に成功した。
だがワインツマンの分隊は、最後の最後に味方の放った戦車砲の誤射によって全滅してしまった。
最後の対戦車砲陣地を片付けたワインツマンが、振り返って俺に見せた笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。
急に背中がズルリと滑り、顔が濁った水の中に入りそうになって慌てた。
「……」
周囲を見渡すと、ここはもう林の中ではない。
ジュリーが用意してくれたお湯に温まっているうちに、リラックスし過ぎてついウトウトと寝てしまっていた。
眠っているときも戦争を忘れられないなんて、俺はどうにかしている。
しかしこの濁ってしまったお湯は一体どういうことだ?
改めて1ヶ月もの間、風呂に入っていなかった事を思い知らされる。
バスタブの栓を抜き、シャワーを浴びて体とバスタブに付いた汚れを流した。
着替えは……。
籠の中に着替えはあった。
昨夜会ったばかりだけれど、叔父さん夫妻と3人住まいのはずだから、着替えも当然叔父さんの物だと思っていた。
しかし、これはジュリーの叔父さんの物とは違う。
叔父さんの背は特に低いわけではないが、俺に比べると10センチ近く低いうえに痩せ型だから正直ウエストがきついだろうと覚悟はしていたが、ここに用意されたズボンもシャツもまるであつらえたみたいに俺に丁度合っている。
これは一体どういう事なんだ?
恋人の服?
……。
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