Jesus Christ Too Far(神様が遠すぎる)

湖灯

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[Savagery of the SS Ⅱ(親衛隊の蛮行)]

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「俺が、この罪もないフランス市民を?」

「そうだ」

「この小銃で?」

「その通り」

「もし撃てなかったら?」

「軍法会議だ」

「罪名は?」

「上官侮辱罪に親衛隊の任務妨害行為、それに政府反逆罪」

「処罰はどうなる?」

「良くて銃殺刑、悪くて東部戦線送りだ」

「考える余地は、ありそうだな」

「やっと分かったか」

「ああ、やっとな……」




 ニヤリと薄気味の悪い笑みを浮かべる親衛隊少佐には目もくれず、隣に居て俺を見張っていた伍長に小銃を渡し、俺は逃げずに銃に囲まれて怯えている村人たちの方へ歩き出した。



「き、貴様、何のつもりだ!?」



「占領した統治下である以上フランス人であろうとも我が祖国に居る家族や仲間たちと同様に、罪を犯したのであれば正式な裁判に掛けられ量刑が決められるのが当然だ。それが司法権限も持たない占領軍の軍隊に、こんなお年寄りから子供まで処刑しようというのだから、もうここには神は居ない。俺は、神の居なくなった戦場には立てないから、潔くこの人たちと運命を共にすることを決めたよ」

 見て見ぬ振りをして通り過ぎる兵士たちや、足を止めて周りを囲んでいる兵士たち、そしてどこかで見ているであろう神様にも聞こえる様に大きな声で話した。

「貴様~。空軍だからって容赦はしないぞ‼」

「ああ、どうせどこかの戦場で死ぬ命だ。容赦はいらん」

「きさまぁ~……」

 少佐が部下に俺を撃つように言うが、さすがに同じドイツ兵を撃つのは抵抗があるのか、指示を受けた部下も戸惑っている。

「撃て!」

 少佐が部下に対して怒鳴る。

 親衛隊が俺一人を料理するのに手こずっている間に、俺にはどうやら仲間が出来たらしい。



 俺の隣に来たのは国防軍の軍曹。

 そして逆隣りに肩を寄せて来たのは、戦車兵の少尉。

 そして他に何人もの兵隊たちが、フランス市民を親衛隊の不当な虐殺から守るために、人間の盾となって並んだ。




「扇動罪だ‼貴様こそ反ナチス!さてはアメリカやイギリスと通じて、我がドイツ帝国軍の攪乱を計るつもりだな!」

「……」

「そうだ、そうに違いない!貴様は、レジスタンス達とも繋がっている。だから同胞を守るために他のドイツ兵まで唆して盾として利用している。みつけたぞぉ~、お前こそ大ドイツ帝国の転覆を狙う反逆者だ」

 正直何を言っているのか分からないが、この少佐こそ今の狂ったドイツを表していると思った。

 狂った親衛隊少佐が、手に持っていたルガーP08のトグルアクション機構を後退させ、弾室に弾を送り込み、俺に狙いをつけて構える。

「望み通り、ここで処刑してやる!」

 狂っている。

 奴は、本当に俺を撃つつもりだ。

 俺を撃つ事で、問題になるのは必至。



 どんな罪を着せられようとも、裁判も無しに親衛隊の一介の将校が無抵抗の空軍の下士官を殺すのだから。

 空軍に降下猟兵になるために志願し、幾多の戦場で敵兵を殺してきたが、最後は罪も無き人々を助けるために死ねるのであれば本望だ。

 俺は静かに目を瞑り、神に祈りを捧げながら、その時を待った。



「やめなさい‼」

 その時、聞きなれない声がして目を開けると。国防軍の中佐が狂った親衛隊少佐の持つルガーを空に向けて持ち上げていた。

 パーン。

 そのはずみで空に向けて銃声が鳴る。

「何者だ‼」

 少佐の怒鳴り声が一瞬聞こえたが、直ぐに相手の階級章に気付いて黙る。

「私はフランス軍政長官ヴィルヘルム・フォン・シュテュルプナーゲル大将の部下、ここルーアンの治安維持を預かっているオットー・ヘイム中佐だ。フランス市民に反逆の疑いがある場合は、先ず私に連絡してもらわなければ困る」

 見ると、オットー・ヘイム中佐の隣には中隊長のオスマン大尉が居て、その周りにはロス伍長やシュパンダウたちが居た。

「奴は、反逆者だ!」

「誰が反逆者?」

「この空挺隊の軍曹だ!」

「反逆者?クレタの英雄だぞ!」


 オスマン大尉の言葉に少佐が、上官に敬礼の出来ないこの無礼者が英雄?と騒ぐ。

「ルッツ軍曹……チャンと説明したのか?」

「別に……見えているのだから、説明しなくても普通分るだろう?」

 オスマン大尉が、少佐の肩を掴み、ルッツ軍曹の目の前まで連れて行く。


「なんのつもりだ?」

「珍しいものだから、よーく見てください。少佐殿が付けているのは2級鉄十字章ですが、このルッツ軍曹が付けているのは騎士鉄十字章です。この意味、分かりますよね!?」

 騎士鉄十字章は1級鉄十字章よりも優れた軍功により与えられる勲章で、授与者は階級に関わらず先に敬礼を受ける資格がある。


「ご覧になるのは初めてですか?」

「い、いや……」

「なら、この英雄に敬意を」

 少佐が俺にヒットラー式の敬礼をする。

 俺が軽く通常の敬礼を返す。

 だが、その手を仕舞わないで少佐を睨む。

 始めに敬礼したものは返す立場の者が腕を下げる迄、敬礼を解かないのがマナーとされる。

 俺が長く睨んでいる間、少佐の持ち上げた手がプルプルと震えていた。



「ところで少佐は、ここに村人を集めて一体何を?まさか親衛隊の少佐ともあろうお方が国際法を無視して“虐殺”なんてことは……まあ、ありえませんよね?」

「あ、当たり前だ‼」

 今度はオットー・ヘイム中佐に揶揄われて、少佐は部下を引き連れて這々の体で逃げる様に去って行った。

 周囲で歓声と拍手が上がる中、俺は一緒に並んでくれた戦友たちと握手を交わした。

「君たちの勇気ある行動に感謝する」

「ドイツもマダマダ捨てた物でもないでしょう軍曹?」

 戦車兵の少尉に肩を叩かれた。

「ああ。なかなかのモノだ」
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