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[Village battle I(村の攻防戦)]

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 その日の夜に国防軍の部隊が、あの丘を占拠するために進軍したが、夜中に敵の大規模な砲撃に会い朝を待たずに近くの村を通り越して街まで撤退した。

 結局度重なる砲撃により砲弾が枯渇したために、砲兵隊は補給のため一旦後方の街まで下がることになり、それに合わせて前線も後退することになった。



 敵の追撃を阻止するため村に残されたのは俺たち空挺部隊の一部と、国防軍の1個小隊と砲兵隊が少しだけ。

 数にして100人程度。

 頼みの綱は砲兵隊が装備する7.5 cm PaK 40と3.7 cm PaK 36の2門。

 7.5 cm PaK 40は村の正面、道が良く見えるレンガ造りの倉庫に配置され、3.7 cm PaK 36は村の入り口より50m先の茂みの中に潜み、直ぐに移動できるようにクルップ・プロッツェが直ぐ後ろにカモフラージュを施されて待機している。

 あとからⅢ号突撃砲が支援に来ると言う事だが、当てにはならない。



 この戦力で敵の追撃を阻止する事は難しいが敵の進軍ルートは幾つも想定され、この様な形で本体から取り残されているのは俺たちだけではないから、いまは与えられた任務を確実に遂行して本隊が無事街へ到着するまでの時間を稼ぐために頑張るしかない。

 ただ、願わくば、敵が村を回避してくれることを祈るばかり。




 俺たち空挺隊は他の空挺1分隊と共に、村の東側にあるサイロのある納屋で敵を待つことになった。

 サイロは堅牢で見晴らしが良いが、的になりやすい。

 納屋の方は薄い木で作られているため、土嚢で補強しない限り防御力は皆無と言っていい。

 どちらがどこを担当するかは恨みっこなしと言う事で、クジで決め見晴らしの良いサイロの方は他の分隊が担当し、俺たちは納屋を担当する事になった。


 夜中、土嚢に利用できる様な袋を探し、それに土を詰めた。

 足りない分は石を運んで積み上げた。

「うちの軍曹はお人好し過ぎるぜ。なにもクジで決めなくても大学出で将来士官にも成れるんだから、ゴリ押しでサイロの方を取ってくれれば、こんな作業なんてしなくて済んだのに」

「シュパンダウ文句を言うな。敵は歩兵だけとは限らないんだぜ。戦車でも来れば、サイロも納屋もそう変わりはねえ」

「まあそれは言えるけど、だが敵が来るまで、ゆっくり眠る事は出来るぜ」

「ルッツ軍曹は何故大学出なのに士官じゃないんですか?」

「そりゃあ、一般志願兵だからだ」

「なんで?」

「知らねえ。人には色々と事情ってもんが有るんだろうぜ。そう言うホルツは、なんで国防軍じゃなく空軍の空挺に入ったんだ?」

「だって、タダで飛行機に乗れると思って」

「ご愁傷様。もう俺たちが空を飛んで降下する事はねえよ」

「前から気になっていたんですが、何でです?」

「クレタの戦いで損害が大き過ぎたからな」

「あんときゃあ、酷え風に流されて部隊はバラバラになるし、頼みの備品はどこに行ったか見つからなかったからな」

「装備が無いって。まさか小銃も?」

「そりゃそうよ。小銃や銃弾なんか持っていたらパラシュートの降下速度が速くなるだけで、着地と同時に足が折れてしまうぜ」

「じゃあ、素手で戦ったんですか?」

「拳銃だよ」

「拳銃?それで敵の陣地にある機関銃や小銃と戦ったんですか!?それでよく生き延びられましたね」

「ああ、ルッツ軍曹が……当時はまだ伍長だったが、倒した敵の銃や弾薬を分捕って戦うように指揮してくれたからな。それが無かったら、俺もロス伍長も、ここに居やしねえ」

「あん時の機転の速さは、さすがだったな」

「ああ、降下した他の部隊は別のパラシュートで落とされた装備を探しまわるうちに何人も、やられていたからな」

「その装備は見つかったんですか?」

「これがお笑い種でな、なんと装備を積んだパラシュートは、敵部隊のド真ん中に落ちていたんだ。だから俺たちが漸ようやく装備にありついたのは、敵から奪った銃と弾薬で、敵部隊を全滅させた後ってことになるんだ。あんときゃあ、さすがにブッたまげたね。俺たちが戦う装備が攻撃目標である敵のど真ん中にあったんだから。あのまま装備を探していたら、部隊は全滅だったろうよ」





 ザシャのMG42機関銃を納屋の外、丁度サイロから納屋を挟んだ向こう側に井戸があったのでその裏に配置する事にした。

 これならサイロを担当するコーエン軍曹の分隊がその上部に機銃座を築くため、土台を組んでいるのと合わせて射点も大きくズレるので死角もカバーできるし、防御力の弱い納屋から離すことで納屋への集中攻撃も分散できる。

 当然離れた位置にポツンとあると補給や連絡の他にも、孤立感や退却ルート等の不安も出て来るので、そこは敷地内や部屋の中から盾になりそうなものを散りばめて行き来出来易いようにした。

 また納屋の中も敵の攻撃が集中してしまう窓の防御は当然ながら、床板を外して敵の攻撃が激しい時にも床下から反撃できるようにしておいた。


 しかし勝手なものだ。


 この家の家主が今どこへ避難しているのかは知らないが、留守中に勝手に入られるだけではなく、部屋の物を何の相談も無しに外に放り出されたり床板を剥がされたり。

 挙句の果てには射撃場の的になってしまうと知ったら、どんなに悲しい思いをすることだろう。

 俺たちはそうやって人の心や思い出を踏みにじって戦ってきたのだ。

 ポーランドでもウクライナでも、ここフランスでも。
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