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[Hamburger Hill Ⅲ(ハンバーガーヒル)]
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「親衛隊、無傷2名、負傷者5名……死亡3」
「こっちは負傷者4名です」
シュパンダウとホルツが伝えたのは、武装親衛隊の生存者とアメリカ兵の生存者の数。
親衛隊の軍曹は死んでいた。
「どうします?」
「負傷者を連れては行けないから、ここに残ってアメリカ兵のオモリをしてもらう。いいな」
「護衛は付けてくれないのですか?」
「負傷していないお前たち2人が、負傷者の護衛だ」
不満顔の親衛隊員を置いて、俺達は先へ進んだ。
俺だって出来ることなら誰かを残してやりたいが、まだ任務が終わっていない以上、余分な人数は割くことはできない。
重砲によって穴だらけにされた平地に差し掛かり、その先に森の木々まで無茶苦茶に破壊されつくした丘が見える。
「これだけ大型のタコ壺があると、丘の上から敵に狙われたとしても、分隊ごと隠れることが出るな」
シュパンダウが、まるで散歩を楽しんでいる様に言ったが、ホルツは付近に充満している血の腐った臭いで吐いてしまった。
「おいおい、早速かよ」
苦しそうなホルツにシュパンダウが、こういう場合は臭いを嗅がないようにしろと呑気にアドバイスした。
しかし、彼は散歩を楽しんでいる訳ではなく、自分を含めた分隊全体の緊張を和らげようとしているのだ。
「ゴミだらけですね。これは一体どういう事なんですか?」
吐き終わったホルツがシュパンダウにつられて、ようやく口を開く。
「馬鹿、ゴミなんかじゃねえ。パーツだ」
「パーツ?」
丘に近付くにつれ、敵兵の死体がポロポロと目につくようになる。
死体と言っても体が転がっている訳ではない、足首より下の部分が入ったままの靴や指先の入った手袋、泥に包まれた肉片に主が抜け出してしまった衣服……。
注意深く見ないと、それがつい1時間前までは生きていた人間だったものだとは到底判断が付かない。
だが、もっと悲惨なのはこれから先だ。
丘に差し掛かって直ぐに洗礼を受けた。
それは顔だけになった、まるで仮面の様な顔面パーツに、血が流れる小川には幾重にも重なりあった死体の山がダムを作っていた。
多くの血液や内臓がばら撒かれている地面は、出発時にロスが言った通り沼地の様に滑りやすく、一旦滑って転んでしまえば更に見たくないものの詳細までが見えてしまう。
上を見ると、そこには木々に引っ掛けられた丸裸の体やパーツを目にすることになる。
内臓から飛び出した腸がまるでロープの様に垂れ下がったものも幾つかある。
目を背ける場所などない。
まさにこの世の地獄。
おまけにBGMに、半死半生の者達の呻き声と言う効果音までついている。
パキンと言う音と共にバランスを崩したホルツが転びそうになったのをマイヤーが支えて言った「下を見るな」と。
ホルツが転びそうになったのも無理はない。
彼は肉の剥がれ落ちた、あばら骨に足を取られたのだから。
普通に丘を歩いていて、誰があばら骨に足を取られることがあると思うだろう?
そんな在りもしない地獄が、この戦場では日常的に起きている。
「この斜面だけで優に1個中隊は全滅してる感じだな」
「なら、丘全体では2個大隊程か……」
「死傷者合わせて1000人規模、と言うところですかねえ。最初見つけたのが3000人規模の旅団でしたから、見事に不意打ちを成功させたと言うところですな」
ロスが俺を自慢げに褒めるように言ってくれるが、何も嬉しくはない。
言った本人のロスだって、同じだろう。
こんなのを喜ぶのは前線に出ずに、机上でゲームを楽しんでいる奴等だけだ。
敵であれ味方であれ、人の死は誰にとっても悲しいものだ。
「軍曹、前方に人影!」
「何人だ?」
「10人……いや、それ以上」
「生き残りが彷徨っているんじゃねえのか?」
「違わい!足取りがしっかりしているぜ」
ロスの言葉にシュパンダウがムキになるのも分る。
何故ならその集団の先頭を歩くのは、チャンと手足が付いていてしかも武器も持っている。
「やりますか!?まだ敵はコッチに気付いていません」
確かにロスの言う通り、敵の先頭に立つ10人程は周囲の惨状に目を奪われていて、俺たちには全く気付いていない様子。
後続に20人程まだ居る様だが、こっちは武器を持っていないように見える。
今直ぐに仕掛ければ、この30人は一気に蹴散らすことが出来るが……。
武器を持っていない後続の20人は衛生兵だ。
「帰るぞ」
「でも」
「敵は衛生兵と、その護衛だ。無益な殺生はしない」
俺は手帳に、森の傍に2人居ることを書き記し、そのメモをナイフで木の幹に突き刺して帰路に就くことにした。
部隊のある村まで負傷した親衛隊員を運び、やっと任務を終えたあとその日はじめての飯にありつくことが出来たが、飯はスープにミートボールが入ったものだった。
「胃が受け付けねえ。なんでこんな日にミートボールなんだ!?クラッカーとミルクで充分だぜ」
シュパンダウが文句を言いながらも食べていたが、新人のホルツは食べたあと胃が痙攣を起こしてしまって、折角の御馳走を吐いてしまった。
「こっちは負傷者4名です」
シュパンダウとホルツが伝えたのは、武装親衛隊の生存者とアメリカ兵の生存者の数。
親衛隊の軍曹は死んでいた。
「どうします?」
「負傷者を連れては行けないから、ここに残ってアメリカ兵のオモリをしてもらう。いいな」
「護衛は付けてくれないのですか?」
「負傷していないお前たち2人が、負傷者の護衛だ」
不満顔の親衛隊員を置いて、俺達は先へ進んだ。
俺だって出来ることなら誰かを残してやりたいが、まだ任務が終わっていない以上、余分な人数は割くことはできない。
重砲によって穴だらけにされた平地に差し掛かり、その先に森の木々まで無茶苦茶に破壊されつくした丘が見える。
「これだけ大型のタコ壺があると、丘の上から敵に狙われたとしても、分隊ごと隠れることが出るな」
シュパンダウが、まるで散歩を楽しんでいる様に言ったが、ホルツは付近に充満している血の腐った臭いで吐いてしまった。
「おいおい、早速かよ」
苦しそうなホルツにシュパンダウが、こういう場合は臭いを嗅がないようにしろと呑気にアドバイスした。
しかし、彼は散歩を楽しんでいる訳ではなく、自分を含めた分隊全体の緊張を和らげようとしているのだ。
「ゴミだらけですね。これは一体どういう事なんですか?」
吐き終わったホルツがシュパンダウにつられて、ようやく口を開く。
「馬鹿、ゴミなんかじゃねえ。パーツだ」
「パーツ?」
丘に近付くにつれ、敵兵の死体がポロポロと目につくようになる。
死体と言っても体が転がっている訳ではない、足首より下の部分が入ったままの靴や指先の入った手袋、泥に包まれた肉片に主が抜け出してしまった衣服……。
注意深く見ないと、それがつい1時間前までは生きていた人間だったものだとは到底判断が付かない。
だが、もっと悲惨なのはこれから先だ。
丘に差し掛かって直ぐに洗礼を受けた。
それは顔だけになった、まるで仮面の様な顔面パーツに、血が流れる小川には幾重にも重なりあった死体の山がダムを作っていた。
多くの血液や内臓がばら撒かれている地面は、出発時にロスが言った通り沼地の様に滑りやすく、一旦滑って転んでしまえば更に見たくないものの詳細までが見えてしまう。
上を見ると、そこには木々に引っ掛けられた丸裸の体やパーツを目にすることになる。
内臓から飛び出した腸がまるでロープの様に垂れ下がったものも幾つかある。
目を背ける場所などない。
まさにこの世の地獄。
おまけにBGMに、半死半生の者達の呻き声と言う効果音までついている。
パキンと言う音と共にバランスを崩したホルツが転びそうになったのをマイヤーが支えて言った「下を見るな」と。
ホルツが転びそうになったのも無理はない。
彼は肉の剥がれ落ちた、あばら骨に足を取られたのだから。
普通に丘を歩いていて、誰があばら骨に足を取られることがあると思うだろう?
そんな在りもしない地獄が、この戦場では日常的に起きている。
「この斜面だけで優に1個中隊は全滅してる感じだな」
「なら、丘全体では2個大隊程か……」
「死傷者合わせて1000人規模、と言うところですかねえ。最初見つけたのが3000人規模の旅団でしたから、見事に不意打ちを成功させたと言うところですな」
ロスが俺を自慢げに褒めるように言ってくれるが、何も嬉しくはない。
言った本人のロスだって、同じだろう。
こんなのを喜ぶのは前線に出ずに、机上でゲームを楽しんでいる奴等だけだ。
敵であれ味方であれ、人の死は誰にとっても悲しいものだ。
「軍曹、前方に人影!」
「何人だ?」
「10人……いや、それ以上」
「生き残りが彷徨っているんじゃねえのか?」
「違わい!足取りがしっかりしているぜ」
ロスの言葉にシュパンダウがムキになるのも分る。
何故ならその集団の先頭を歩くのは、チャンと手足が付いていてしかも武器も持っている。
「やりますか!?まだ敵はコッチに気付いていません」
確かにロスの言う通り、敵の先頭に立つ10人程は周囲の惨状に目を奪われていて、俺たちには全く気付いていない様子。
後続に20人程まだ居る様だが、こっちは武器を持っていないように見える。
今直ぐに仕掛ければ、この30人は一気に蹴散らすことが出来るが……。
武器を持っていない後続の20人は衛生兵だ。
「帰るぞ」
「でも」
「敵は衛生兵と、その護衛だ。無益な殺生はしない」
俺は手帳に、森の傍に2人居ることを書き記し、そのメモをナイフで木の幹に突き刺して帰路に就くことにした。
部隊のある村まで負傷した親衛隊員を運び、やっと任務を終えたあとその日はじめての飯にありつくことが出来たが、飯はスープにミートボールが入ったものだった。
「胃が受け付けねえ。なんでこんな日にミートボールなんだ!?クラッカーとミルクで充分だぜ」
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