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*****Opération“Šahrzād”(シェーラザード作戦)*****
Collaborator(協力者)
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勢いよく飛び出した先に、敵の姿はなかった。
“いったい、なにが……”
通りの向こう側を見ると、AK47が道に転がっていたので見に行くと2人の敵が倒れていた。
血は出ていないくて脈もあったから、何者かによって殴り倒されたのだろう。
そして転がっていたAK47は弾倉を外されていて、コッキングレバーが根元から折られていた。
コッキングレバーを折られた銃は、リロードできないから弾丸を供給できなくなりトリッガーを引いても撃鉄が下がっていない限り何も反応しないから撃つことはできない。
銃を持ってみると、銃身に供給されているはずの弾丸も抜かれていて、やはりトリッガーを引いても何も反応しない状態になっていた。
こうなると、もう銃として機能はしない。
“でも一体誰が?”
もう一方の通りにも3人の敵が倒れていて、こちらも弾倉が抜かれていて撃鉄がへし折られていた。
エマとムサ……いや、彼等なら姿を見せるはず。
これは違う何物かの仕業。
ひょっとしたら、まだ残っているエージェントが居るのかも知れない。
とりあえず敵ではない事は確かなようなので、ハンスとバラクを呼び寄せて、この場を離れることにした。
しばらく走ると、道の向こうからエマが走って来るのが見えた。
「大丈夫!?」
「うん。おかげさまで。エージェントの手配してくれてありがとう」
「エージェント? もう、全員引き上げているよ」
「えっ?!」
じゃあ私たちを助けてくれたのは、誰?
しかし、それを考える余裕もないまま、新たな敵が迫って来ていた。
「エマ!武器を渡してくれ」
「えっ!?」
「えっ?って言うことは、もしかして手ぶら?」
「だって、ムサの家に武器持ってきてないじゃん!」
「“ないじゃん!”って、ホテルまで取りに行っていたんじゃないの!?」
エマと不毛な会話をしているうちにも敵はドンドン迫って来る。
今度は車。
白いバンが3台。
右から来た3台のうち1台が俺たちの前に停まり、中からAK47を持った4人の男が降りて来た。
その中にはエマと俺を執拗に狙っていた、あの6人の男たちも混じっていた。
素手で格闘の出来る距離ではない。
明らかに格闘戦を避けている。
もっとも相手は銃を持っているのだから、素手の人間を相手に無理に格闘戦を挑んでくる必要は全くない。
そして退路を塞ぐように、もう1台は通り過ぎて左手を塞ぐように止まり、もう1台は通り過ぎて次の角を曲がって行った。
おそらく俺たちが今出て来た、後ろの道に回り込んで来るつもりだろう。
逃げ場所は、この十字路の1方向だけだが、ここを突っ切るのは見通しが良過ぎるから銃弾の餌食になる事は間違いない。
左の車両からも4人が降りて来た。
みんなAK47を持っている。
8丁の銃に囲まれた。
敵は何のアクションも起こさないで、ただ銃を構えている。
俺たちが手を上げて降伏するのを待っているのか、3台目の配置が完了するのを待っているのか、それとも他に誰かが来るのを待っているのか……。
後の道から回り込むために通り過ぎて行った1台が、角を曲がるのが見えた。
“万事休す”
「なにか武器になるものは持ってこなかったのか?例えばアイスピックとかナイフとか」
「ないよ。あるのは、ヘアースプレーだけ……」
申し訳なさそうにエマが言う。
その目には落胆の色が隠せない。
煙幕の出るヘアースプレーだけでは状況の打開にはならない。
「どうする?」
無理だと分かっていたがハンスに聞くと、ハンスは涼しい顔で「さあな、ただ仲間を信じよう」とだけ答えた。
“仲間!?”
そう言えば、さっき挟み撃ちに合うはずだったところを、何者かが敵を倒して救ってくれた。
これがエージェントでないとしたら。
俺は涼しい顔をしているハンスの横顔を睨んだ。
俺の答えが合っているかどうかは分からないが、希望だけは捨てないでおこう。
「エマ。ヘアースプレーを直ぐに使える準備をしていて」
「ヘアースプレー? でも、煙幕が出るだけだよ」
「それが、役に立つかもしれない」
俺の言葉に、エマの落ち込んでいた目に希望の光が差し込むのが見えた。
横の道から敵のバンが近づいて来た。
その後ろにも、大型のバンがもう1台。
敵が来た道からも、新たに3台の車が近づいて来て、反対方向からも2台来る。
十字路の向こうからも1台来ている。
俺たちにとっては絶望的な状態だけど、敵にとっては沢山の味方が到着寸前という、この上もない状態。
ところが3台の敵の車の前に、横道から飛び出して来た車が、その先頭の1台とぶつかった。
“ムサの車だ”
ムサの車は先頭の車の横っ腹にぶつかって、避けようとした車は横転して、直ぐ後ろに付いていた2台目の車もムサの車のボンネットにぶつかり道を塞ぐような形になった。
その光景を見ていると後ろでもガシャンと車同士のぶつかる音。
振り向くと救急車が2台の車の先頭に飛び出して、こちらは救急車の横っ腹で道を塞ぐように止まった。
“クリーフたちだ”
そして後ろでも。
後ろからは、おんぼろのワンBOXが、あおり運転のような幅寄せをして回り込んで来た車を家の壁にぶつけさせて、猛スピードでこっちに向かってくる。
“いったい誰?”と考えている暇もなくヘアースプレー缶の裏を強く叩き俺は右手に、エマは左手に投げ、煙幕が立ち込めた中を後ろに駆けだした。
「早く乗れ!」
ワンBOXのスライドドアが開かれて顔を出したのはモンタナ。
そして運転しているのはガラベイヤを纏い、頭にクフィーヤを被ったお爺さん。
「現地スタッフのひと?」
俺がモンタナに聞くと、お爺さんは被っていたクフィーヤを取って「俺様だ!」とバカでかい声で言って車を走らせた。
「トーニ!」
「なにがトーニだよ!任務にカッコつけて隊長もナトーも、イチャイチャしやがって!」
「あっ!やっぱりジュースを買ったお店ですれ違ったのって、やっぱりトーニだったのか!来ているのなら何で教えない!?」
「そりゃあ、プライベートだけど一応は隊長の命令だからな」
「じゃあ、この前に追ってきた敵もトーニたちが、やっつけたのか?」
「AK47の方は俺様とモンタナで、拳銃のほうはフランソワたちが片付けた」
「……ハンス。何で教えなかった?」
「まあ、プライベートだからな。誰が何処に居るかなんて、俺だって把握していない」
そう言って、ハンスは「伏せろ!」と叫んだ。
両側からAK47の一斉射撃を受け、窓ガラスが粉々に砕けて落ちてくる。
タイヤをやられたのだろう、車が蛇行しているのが分かる。
車は暫く蛇行を続けた後、信号機にぶつかって止まった。
「大丈夫か!」
俺は大丈夫だったが、これだけ銃撃を喰らって全員無傷で済む訳がない。
「大丈夫」
後ろの荷台に伏せていたハンス、モンタナ、エマ、バラクの4人共無事だった。
「どういうこと?」
「なあに、ちょいと細工して防弾仕様にしているのさ」とブラームが得意そうに言ったが、いつもなら真っ先に、その事を自慢するはずのトーニが黙っているのがおかしい。
運転席を振り返ると、そのトーニはハンドルに覆いかぶさるように俯いたまま動かない。
「おい、大丈夫か?!」
肩を触った途端、ぐったりと横に倒れた。
一瞬の沈黙が走る。
“……”
「まあ、1人くらいの犠牲は仕方あるまい。ご愁傷さま」
そう言って、車を降りるためにスライドドアに手を掛けた。
「チョッと待った! 俺は死んでも良いのかよ!?」
いきなりトーニが俺の手を掴んで叫んだ。
「なんだ。生きていたのか」
「なんだ、生きていたとは何なんだ? 死んでいたら、どうするつもりだった? やっぱり置いて行くつもりだったのか??」
「だって、血の匂いもしない死体なんて珍しいなぁと思ってはいたんだ」
「血の匂いもしないって、ぶつかった衝撃で、ぽっくり首の骨を折るやつだって居るだろう?」
「えっ? LéMATに、そんな虚弱な隊員っていたっけ?」
そう言って振り向くと、モンタナは苦笑いを浮かべて「この程度の衝撃で首がおかしくなるようなら、基礎訓練のやり直しだな」と言って、まだブツブツ文句を言っているトーニの首を叩いた。
叩かれたトーニは「いや平気。言ってみただけっていうか、構ってもらいたかっただけです」と、怯える振りをして笑わせた。
“いったい、なにが……”
通りの向こう側を見ると、AK47が道に転がっていたので見に行くと2人の敵が倒れていた。
血は出ていないくて脈もあったから、何者かによって殴り倒されたのだろう。
そして転がっていたAK47は弾倉を外されていて、コッキングレバーが根元から折られていた。
コッキングレバーを折られた銃は、リロードできないから弾丸を供給できなくなりトリッガーを引いても撃鉄が下がっていない限り何も反応しないから撃つことはできない。
銃を持ってみると、銃身に供給されているはずの弾丸も抜かれていて、やはりトリッガーを引いても何も反応しない状態になっていた。
こうなると、もう銃として機能はしない。
“でも一体誰が?”
もう一方の通りにも3人の敵が倒れていて、こちらも弾倉が抜かれていて撃鉄がへし折られていた。
エマとムサ……いや、彼等なら姿を見せるはず。
これは違う何物かの仕業。
ひょっとしたら、まだ残っているエージェントが居るのかも知れない。
とりあえず敵ではない事は確かなようなので、ハンスとバラクを呼び寄せて、この場を離れることにした。
しばらく走ると、道の向こうからエマが走って来るのが見えた。
「大丈夫!?」
「うん。おかげさまで。エージェントの手配してくれてありがとう」
「エージェント? もう、全員引き上げているよ」
「えっ?!」
じゃあ私たちを助けてくれたのは、誰?
しかし、それを考える余裕もないまま、新たな敵が迫って来ていた。
「エマ!武器を渡してくれ」
「えっ!?」
「えっ?って言うことは、もしかして手ぶら?」
「だって、ムサの家に武器持ってきてないじゃん!」
「“ないじゃん!”って、ホテルまで取りに行っていたんじゃないの!?」
エマと不毛な会話をしているうちにも敵はドンドン迫って来る。
今度は車。
白いバンが3台。
右から来た3台のうち1台が俺たちの前に停まり、中からAK47を持った4人の男が降りて来た。
その中にはエマと俺を執拗に狙っていた、あの6人の男たちも混じっていた。
素手で格闘の出来る距離ではない。
明らかに格闘戦を避けている。
もっとも相手は銃を持っているのだから、素手の人間を相手に無理に格闘戦を挑んでくる必要は全くない。
そして退路を塞ぐように、もう1台は通り過ぎて左手を塞ぐように止まり、もう1台は通り過ぎて次の角を曲がって行った。
おそらく俺たちが今出て来た、後ろの道に回り込んで来るつもりだろう。
逃げ場所は、この十字路の1方向だけだが、ここを突っ切るのは見通しが良過ぎるから銃弾の餌食になる事は間違いない。
左の車両からも4人が降りて来た。
みんなAK47を持っている。
8丁の銃に囲まれた。
敵は何のアクションも起こさないで、ただ銃を構えている。
俺たちが手を上げて降伏するのを待っているのか、3台目の配置が完了するのを待っているのか、それとも他に誰かが来るのを待っているのか……。
後の道から回り込むために通り過ぎて行った1台が、角を曲がるのが見えた。
“万事休す”
「なにか武器になるものは持ってこなかったのか?例えばアイスピックとかナイフとか」
「ないよ。あるのは、ヘアースプレーだけ……」
申し訳なさそうにエマが言う。
その目には落胆の色が隠せない。
煙幕の出るヘアースプレーだけでは状況の打開にはならない。
「どうする?」
無理だと分かっていたがハンスに聞くと、ハンスは涼しい顔で「さあな、ただ仲間を信じよう」とだけ答えた。
“仲間!?”
そう言えば、さっき挟み撃ちに合うはずだったところを、何者かが敵を倒して救ってくれた。
これがエージェントでないとしたら。
俺は涼しい顔をしているハンスの横顔を睨んだ。
俺の答えが合っているかどうかは分からないが、希望だけは捨てないでおこう。
「エマ。ヘアースプレーを直ぐに使える準備をしていて」
「ヘアースプレー? でも、煙幕が出るだけだよ」
「それが、役に立つかもしれない」
俺の言葉に、エマの落ち込んでいた目に希望の光が差し込むのが見えた。
横の道から敵のバンが近づいて来た。
その後ろにも、大型のバンがもう1台。
敵が来た道からも、新たに3台の車が近づいて来て、反対方向からも2台来る。
十字路の向こうからも1台来ている。
俺たちにとっては絶望的な状態だけど、敵にとっては沢山の味方が到着寸前という、この上もない状態。
ところが3台の敵の車の前に、横道から飛び出して来た車が、その先頭の1台とぶつかった。
“ムサの車だ”
ムサの車は先頭の車の横っ腹にぶつかって、避けようとした車は横転して、直ぐ後ろに付いていた2台目の車もムサの車のボンネットにぶつかり道を塞ぐような形になった。
その光景を見ていると後ろでもガシャンと車同士のぶつかる音。
振り向くと救急車が2台の車の先頭に飛び出して、こちらは救急車の横っ腹で道を塞ぐように止まった。
“クリーフたちだ”
そして後ろでも。
後ろからは、おんぼろのワンBOXが、あおり運転のような幅寄せをして回り込んで来た車を家の壁にぶつけさせて、猛スピードでこっちに向かってくる。
“いったい誰?”と考えている暇もなくヘアースプレー缶の裏を強く叩き俺は右手に、エマは左手に投げ、煙幕が立ち込めた中を後ろに駆けだした。
「早く乗れ!」
ワンBOXのスライドドアが開かれて顔を出したのはモンタナ。
そして運転しているのはガラベイヤを纏い、頭にクフィーヤを被ったお爺さん。
「現地スタッフのひと?」
俺がモンタナに聞くと、お爺さんは被っていたクフィーヤを取って「俺様だ!」とバカでかい声で言って車を走らせた。
「トーニ!」
「なにがトーニだよ!任務にカッコつけて隊長もナトーも、イチャイチャしやがって!」
「あっ!やっぱりジュースを買ったお店ですれ違ったのって、やっぱりトーニだったのか!来ているのなら何で教えない!?」
「そりゃあ、プライベートだけど一応は隊長の命令だからな」
「じゃあ、この前に追ってきた敵もトーニたちが、やっつけたのか?」
「AK47の方は俺様とモンタナで、拳銃のほうはフランソワたちが片付けた」
「……ハンス。何で教えなかった?」
「まあ、プライベートだからな。誰が何処に居るかなんて、俺だって把握していない」
そう言って、ハンスは「伏せろ!」と叫んだ。
両側からAK47の一斉射撃を受け、窓ガラスが粉々に砕けて落ちてくる。
タイヤをやられたのだろう、車が蛇行しているのが分かる。
車は暫く蛇行を続けた後、信号機にぶつかって止まった。
「大丈夫か!」
俺は大丈夫だったが、これだけ銃撃を喰らって全員無傷で済む訳がない。
「大丈夫」
後ろの荷台に伏せていたハンス、モンタナ、エマ、バラクの4人共無事だった。
「どういうこと?」
「なあに、ちょいと細工して防弾仕様にしているのさ」とブラームが得意そうに言ったが、いつもなら真っ先に、その事を自慢するはずのトーニが黙っているのがおかしい。
運転席を振り返ると、そのトーニはハンドルに覆いかぶさるように俯いたまま動かない。
「おい、大丈夫か?!」
肩を触った途端、ぐったりと横に倒れた。
一瞬の沈黙が走る。
“……”
「まあ、1人くらいの犠牲は仕方あるまい。ご愁傷さま」
そう言って、車を降りるためにスライドドアに手を掛けた。
「チョッと待った! 俺は死んでも良いのかよ!?」
いきなりトーニが俺の手を掴んで叫んだ。
「なんだ。生きていたのか」
「なんだ、生きていたとは何なんだ? 死んでいたら、どうするつもりだった? やっぱり置いて行くつもりだったのか??」
「だって、血の匂いもしない死体なんて珍しいなぁと思ってはいたんだ」
「血の匂いもしないって、ぶつかった衝撃で、ぽっくり首の骨を折るやつだって居るだろう?」
「えっ? LéMATに、そんな虚弱な隊員っていたっけ?」
そう言って振り向くと、モンタナは苦笑いを浮かべて「この程度の衝撃で首がおかしくなるようなら、基礎訓練のやり直しだな」と言って、まだブツブツ文句を言っているトーニの首を叩いた。
叩かれたトーニは「いや平気。言ってみただけっていうか、構ってもらいたかっただけです」と、怯える振りをして笑わせた。
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