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*****Opération“Šahrzād”(シェーラザード作戦)*****

脱出!

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 気絶した兵士の服を剥ぎ取って、それを上に羽織った。

「裏口の外にも見張りはいるのか?」

「いると思う」

「ドアの傍か?」

「裏口から外に出たことは無いから分からないが、見通しはいいから、そばに居ないかもしれない」

 ハンスと顔を見合わせた。

 見通しのいい場所で、近くに居ないとなると難しい。

 下手なことをすると銃で撃たれる。

 ドアから外に出たときに、向こうから近づいて来てくれればいいけれど、そんな間抜けな奴は居やしない。

 このドアの内側を守っていた兵士の事が気になるはずだから味方をすぐに呼ぶか、味方から見える位置まで下がって、その位置まで呼び出されるかのどちらかだ。

 幸いここにはキッチンがある。

 ここはひとつ厨房を借りることにする。

 厨房に走ると、バラクが慌てて「仲間を傷つけるのなら協力はしない!」と言った。

「痛めつけるのはOKで、傷つけるのはNGって面倒ね。でも誰も殺さないから、安心していて!」

 屹度私がナイフを取るとでも思ったのだろうけど、厨房にあるようなナイフは手で投げるには軽過ぎて、服の上からでも一瞬で命を奪うことは難しい。

 もっとも重いナイフが有ったところで、それを使う気など一切なかった。

 大きい炒め物用の鍋を取り出して強火にかけて、中に切り刻んだ野菜をどんどん放り込み、その上から油を少々かけた。

 直ぐに油煙が上がり出し、放り込まれた野菜たちから蒸気が噴き出すが、それも直ぐに煙に変わる。

 換気扇を回して、その煙を屋外に出して準備は終了。

 あとは出来上がりを待つだけ。

 直ぐに通路を駆けてくる2人の足音が聞こえ「料理が焦げているぞ!」と慌てて中に入って来た1人目の腕をハンスが掴んでハンマー投げのように振り回して俺の方に飛ばす。

 俺は勢いよく飛んできた男の顔面を、持っていたフライパンで殴り倒した。

 2人目の男は、勢いよく中に飛び込んでいった仲間につられて、入って来たところをハンスに投げられてOKされた。

 火事になったら大変なので、直ぐに火を消し、元栓も閉めた。

「これで裏口から出られるわね。裏口を出た後は、どう行けばいい?」

「裏口の向こうには塀がある。塀の向こうには倉庫があって、そこにも警備の人間が何人も居る。塀を越えない場合は、どこをどう行っても正面の道に出てしまう」

「倉庫には何が置いてある?」

「武器と燃料だ。ただし見つからないようにカモフラージュはしてある」

「なにで?」

「綿花だ。もともと、こっちに建物は縫製工場だったからな」

「なるほど……」

 俺は笑顔を向け「もう一つ協力してもらうわよ」言い終わるとハンスがバラクの手を取り、後ろで縛った。

「何をする。協力すると言ったじゃないか!」

 少し驚いた様子でバラクが俺を見た。

 俺は真剣な瞳を見せて言った「これは、貴方の安全と、この作戦のため」といって自分の首に巻いていた青いスカーフを猿ぐつわの代わりに巻き、その口を封じた。

 もしも失敗した時にバラクが裏切ったと言う事になればバラクの命は勿論のことだけど、折角バラクを指示していた穏健派の力を弱る。

 だがこうしてバラクが拘束されて捕獲されたとなると、監禁していた反バラク派の失態と言うことになるだろう。

 その場合、責任を追及された反バラク派の力は弱まり、逆にバラクたち穏健派の力は盛り上がる。

 つまり、ほんの少しロープを結ぶことで、俺たちの作戦が失敗した場合の保険になるってことだ。



 裏口を開けてみると、確かに高い塀があった。

 ハンスの肩を借りて、覗くと傍らにはサビだらけの農業用のトラクターに何人かの兵士がAK47を肩にぶら下げているのが見えた。

 そして目の前には石を積み重ねて作られた古い倉庫、かなり老朽化して所々に穴が開いているが、暗くて中までは見えない。

 外の警備をやっつけてしまったので時間がない。

 怪しまれる前に、問題を片付けなければならない。

 そこで俺は直ぐに食堂に戻った。

 厨房にあった瓶を開けて、そこに料理用の油を注ぎ布を詰めて入れ、即席の火炎瓶を何本か作って再び外に戻り、塀の崩れた穴に向けて投げ入れた。

 ガソリンや灯油、アルコールという燃焼力の強い物が有ればあれ良かったのだが、ここは暖かい北アフリカ。

 それにイスラム教の国なので、調理用のアルコールもない。

 調理用油を詰めたガラス瓶が割れてしまえば、ガソリンを詰めた火炎瓶のように燃え広がることは無く直ぐに火は消える。

 見えない場所に放り込んだ即席の火炎瓶が、上手くカモフラージュ用の綿花に燃え移ってくれるのを祈るのみ。

 武器の上に積んであるのだろうから、確率的に言えばかなり高いはず。

 少し待つと、どうやら綿花に火が付いたようで白い煙がトタンの屋根の隙間から上がり始め、隣の敷地内が騒々しくなりだした。

 長らく放置して乾燥した綿花は直ぐに物凄い勢いで燃え始め、こっちにいた兵士たちも気が付いて騒ぎ出すようになった。

 倒した兵たちをバラクの部屋に集めてから、騒ぎに乗じて館を飛び出した。

 爆発の恐れがあるので皆が慌てて、どうしたら良いのか迷って右往左往している。

 この様子からすると、副官は不在のようだ。

 副官が不在という予想外の展開に、俺はバラクの猿ぐつわを解いて指示を出すように言った。

 屹度、バラクなら人道的立場に基づいて確りとした指示が出せるだろう。

 案の定指示を求めに来た兵士に、バラクは言った。

「武器庫に火が付いた!大爆発の危険性があるから、消火は諦めて皆ここから直ぐに離れろ!多国籍軍に捕まってしまうから逃げるとき武器は置いて民間人に成りすませ!」

 バラクの言葉を聞いた兵士たちは、素直に武器を捨てて各々が「武器を捨てて逃げろ」と叫び出した。



「イワン!」

 バラクは逃げ出す兵士の中から一人の男を捕まえた。

 頬に十字の傷のある男。

 その男は、まだ武器は持っていた。

 バラクと初めて会った日、久し振りに出くわしてしまったヤザから逃げるように、裏通りに迷い込んだ俺に絡んできた男の中の一人だ。

 その頬の傷は、俺を助けてくれたヤザが、生き残るための“おまじない”を掛けて刻んだもの。

「俺の居た館に6人縛られている。何人かで連れて行って、助けてやってくれ!」

 十字傷のある男は直ぐにバラクが手を縛られていることに気が付き、その傍らにいる俺たちに鋭い目を向けて銃を構えた。

 仲間を呼ぶために叫ばないという事は、迷っている証拠。

 俺は直ぐに顔を覆っていた布を外して素顔を見せた。

「おっお前は、あの時のヤザの娘!?」

 やはりこの男は、初めて会った時の事を覚えていた。

 俺は、あの日のヤザのように言った「迷ったときは、その傷口を触って何が最良なのか考えろ」

 男は頬の傷を触ると、直ぐに武器を落して行動した。

「おい!そこの5人、俺に付いて来い。館に取り残された仲間がいる!」

 そう言ってイワンと言う男は仲間と6人で館の中に入って行き、直ぐに手を縛られた仲間たちを連れて出て来た。

「さあ!俺たちも」

 そう言って駆けだすと、直ぐに小さな爆発の音が鳴り始めた。
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