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Reunion with Yaza Ⅰ(ヤザとの再会)
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ある日、サオリのアルバムを見せてもらってから、思い出したことがある。
それは、幼い頃の私を育ててくれたハイファの事。
レンガを積み上げてその上に板を張っただけの粗末な家。
床なんてものはなくて、家の中も地面のまま。
その地面の上に置かれたテーブルと椅子、それにベッド。
それが昔のヤザの家。
ハイファはヤザには勿体ないくらい綺麗で優しかった。
もっとも、あの頃のヤザは今とは違って穏やかで優しくて、いつも笑っていた。
そして、この頃はまだ平和だった。
家族3人で夕食も一緒にテーブルで仲良く食べていたし、ハイファは寝つきの悪かった私に、良く本を読んでくれた。
特によく覚えているお気に入りのお話しは、シェーラザード。
私は、そのお話を毎日聞きながらハイファから文字や言葉を教えて貰った。
しかし幸せな日々は、いつまでも続かなかった。
いつからか雷のような爆音が聞こえるようになり、街は瓦礫に覆われ、そしてハイファもその瓦礫にのみ込まれてしまった。
ハイファが死んでヤザは笑わなくなり、変わってしまった。
いつも埃だらけで硝煙臭く、時には血の匂いさえした。
いつも何かに怯えているようにビクビクして、大きな音がするたびに居なくなった。
空爆や砲撃が激しくなり、その影響で家が揺れるたびに何かが壊れ、いつしか瓦礫なのか家なのか分からないようになった。
部屋のテーブルも壊れ、その上に乗るはずだった食事も無くなった。
幼い俺にヤザは幾つも玩具を与えてくれた。
重い鉄で出来た玩具。
バーを引張るとガチャリと音がして、指で引っ張るとカチッと音がする。
玩具をばらして綺麗に磨き、油を刺して、また組み立てる。
それが遊びのルール。
なぜかそれは夢中になるほど楽しかった。
そう、それが銃とも知らずに。
その日は久し振りに、街へ出た。
昔より随分穏やかになり、銃声が聞こえる事も無い。
だけど知り合いに合うのが嫌で、今まで断っていたのだが、サオリがどうしても俺の服を買うと言って無理やり連れられた。
ブティックに入ると色とりどりな服が所狭しと並べられてある。
多くは女が着るようなスカートタイプ。
スカートなんて履いたことがない俺は、店員に勧められてもただ戸惑うばかりで、困っている俺に代わりにサオリがワンピースを選んでくれた。
試着室に押し込まれて、あらためて服を眺める。
空色のノースリーブに真っ白な襟。
裾は、ふわふわのスカートタイプ。
まるで雑誌に載っている、お嬢さんが着るような服。
こんなの似合うはずがない。
ドキドキして、ナカナカ袖を通す事が出来ないでいると、サオリが覗き込んできた。
「あら、まだ着ていない。着せてあげようか?」
「……うん。じゃあ、お願い」
恥ずかし過ぎて、自分で着る勇気が無かった。
サオリに服を着せてもらい試着室を出ると、待っていたミランが「Ma belle!」と言って喜んでくれた。
(Ma belleはフランス語で綺麗・可愛いと言う意味で、主に我が子に愛情をもって呼びかける時に使われます)
ミランにも見てもらったので、直ぐ脱ごうとすると、サオリに「そのまま着ていなさい」と言われ、恥ずかしかったけれど従う。
「服と素材は良いとしても、そうなるとそのボサボサの髪が気になるなぁ」
買った服を着たまま、次はヘアサロンに連れて行かれた。
「でも、もったいないよ」
躊躇う私にはお構いなしに、サオリは店員にカットとお化粧を頼んで、自分の腕時計を外して私に渡す。
「いい?三時になったら、ここへ迎えに来るから、早く終わってもあまり遠くに行かないでこの辺りに居て頂戴ね」
そう言って、ヘアサロンに私を置いて、ミランとどこかに出かけてしまった。
余程銀髪が珍しいのかヘアサロンの店員は入れ代わり立ち代わり私を観て可愛いとか綺麗だと言って褒めてくれ、カットが終わりお化粧をしてもらうと、それぞれの携帯で写真を撮られた。
髪を綺麗にしてもらうのも初めてなら、お化粧をするのも初めてで、知らない人に写真を撮られるのも初めて。
なによりも他人からチヤホヤされるのも初めての経験で、少しのぼせてしまいそうになりながらお店を出た。
サオリに渡された腕時計を見ると、待ち合わせ時間までまだ30分ほどあったので、その辺りをブラブラと歩く。
道行く人が何故かしら私を見て通る気がする。
通り過ぎる人を振り返って見ると、たいていの人と目が合い慌ててしまう。
“やっぱり変なのかな……”
今朝まで難民キャンプで働いていたボサボサ頭の私が、こんな格好をするのを珍しがって見ているのだと思った。
それとも初めて着たこのスカートでの歩き方が変なのかと、色々考える。
“カシャッ”っと言うカメラのシャッター音に気が付いて振り向くと、そこに居たのは義父のヤザだった。
久しぶりに見るヤザの姿に”懐かしい”と思う反面”まだ生きていた”と思ってしまった。
相変わらず民兵組織に居るらしく、履いている靴はボロボロの半長靴。
とにかく今はサオリ達と一緒なので正体を知られてはマズイと思い、無視して通り過ぎようとした。
チラッと見ると、向こうは気が付いていない様子。
無理もない、ヤザと別れたのはもう5年も前の事。
私もまだ子供だったから、分かるはずもない。
上手くやり過ごして通りの影を曲がろうとしたときに、もう一度見ると呆気にとられたような間抜けな顔をしていた。
“何かに気が付いたのか?いいや、まさか……ただ、美人にビックリしているだけだ”
それは、幼い頃の私を育ててくれたハイファの事。
レンガを積み上げてその上に板を張っただけの粗末な家。
床なんてものはなくて、家の中も地面のまま。
その地面の上に置かれたテーブルと椅子、それにベッド。
それが昔のヤザの家。
ハイファはヤザには勿体ないくらい綺麗で優しかった。
もっとも、あの頃のヤザは今とは違って穏やかで優しくて、いつも笑っていた。
そして、この頃はまだ平和だった。
家族3人で夕食も一緒にテーブルで仲良く食べていたし、ハイファは寝つきの悪かった私に、良く本を読んでくれた。
特によく覚えているお気に入りのお話しは、シェーラザード。
私は、そのお話を毎日聞きながらハイファから文字や言葉を教えて貰った。
しかし幸せな日々は、いつまでも続かなかった。
いつからか雷のような爆音が聞こえるようになり、街は瓦礫に覆われ、そしてハイファもその瓦礫にのみ込まれてしまった。
ハイファが死んでヤザは笑わなくなり、変わってしまった。
いつも埃だらけで硝煙臭く、時には血の匂いさえした。
いつも何かに怯えているようにビクビクして、大きな音がするたびに居なくなった。
空爆や砲撃が激しくなり、その影響で家が揺れるたびに何かが壊れ、いつしか瓦礫なのか家なのか分からないようになった。
部屋のテーブルも壊れ、その上に乗るはずだった食事も無くなった。
幼い俺にヤザは幾つも玩具を与えてくれた。
重い鉄で出来た玩具。
バーを引張るとガチャリと音がして、指で引っ張るとカチッと音がする。
玩具をばらして綺麗に磨き、油を刺して、また組み立てる。
それが遊びのルール。
なぜかそれは夢中になるほど楽しかった。
そう、それが銃とも知らずに。
その日は久し振りに、街へ出た。
昔より随分穏やかになり、銃声が聞こえる事も無い。
だけど知り合いに合うのが嫌で、今まで断っていたのだが、サオリがどうしても俺の服を買うと言って無理やり連れられた。
ブティックに入ると色とりどりな服が所狭しと並べられてある。
多くは女が着るようなスカートタイプ。
スカートなんて履いたことがない俺は、店員に勧められてもただ戸惑うばかりで、困っている俺に代わりにサオリがワンピースを選んでくれた。
試着室に押し込まれて、あらためて服を眺める。
空色のノースリーブに真っ白な襟。
裾は、ふわふわのスカートタイプ。
まるで雑誌に載っている、お嬢さんが着るような服。
こんなの似合うはずがない。
ドキドキして、ナカナカ袖を通す事が出来ないでいると、サオリが覗き込んできた。
「あら、まだ着ていない。着せてあげようか?」
「……うん。じゃあ、お願い」
恥ずかし過ぎて、自分で着る勇気が無かった。
サオリに服を着せてもらい試着室を出ると、待っていたミランが「Ma belle!」と言って喜んでくれた。
(Ma belleはフランス語で綺麗・可愛いと言う意味で、主に我が子に愛情をもって呼びかける時に使われます)
ミランにも見てもらったので、直ぐ脱ごうとすると、サオリに「そのまま着ていなさい」と言われ、恥ずかしかったけれど従う。
「服と素材は良いとしても、そうなるとそのボサボサの髪が気になるなぁ」
買った服を着たまま、次はヘアサロンに連れて行かれた。
「でも、もったいないよ」
躊躇う私にはお構いなしに、サオリは店員にカットとお化粧を頼んで、自分の腕時計を外して私に渡す。
「いい?三時になったら、ここへ迎えに来るから、早く終わってもあまり遠くに行かないでこの辺りに居て頂戴ね」
そう言って、ヘアサロンに私を置いて、ミランとどこかに出かけてしまった。
余程銀髪が珍しいのかヘアサロンの店員は入れ代わり立ち代わり私を観て可愛いとか綺麗だと言って褒めてくれ、カットが終わりお化粧をしてもらうと、それぞれの携帯で写真を撮られた。
髪を綺麗にしてもらうのも初めてなら、お化粧をするのも初めてで、知らない人に写真を撮られるのも初めて。
なによりも他人からチヤホヤされるのも初めての経験で、少しのぼせてしまいそうになりながらお店を出た。
サオリに渡された腕時計を見ると、待ち合わせ時間までまだ30分ほどあったので、その辺りをブラブラと歩く。
道行く人が何故かしら私を見て通る気がする。
通り過ぎる人を振り返って見ると、たいていの人と目が合い慌ててしまう。
“やっぱり変なのかな……”
今朝まで難民キャンプで働いていたボサボサ頭の私が、こんな格好をするのを珍しがって見ているのだと思った。
それとも初めて着たこのスカートでの歩き方が変なのかと、色々考える。
“カシャッ”っと言うカメラのシャッター音に気が付いて振り向くと、そこに居たのは義父のヤザだった。
久しぶりに見るヤザの姿に”懐かしい”と思う反面”まだ生きていた”と思ってしまった。
相変わらず民兵組織に居るらしく、履いている靴はボロボロの半長靴。
とにかく今はサオリ達と一緒なので正体を知られてはマズイと思い、無視して通り過ぎようとした。
チラッと見ると、向こうは気が付いていない様子。
無理もない、ヤザと別れたのはもう5年も前の事。
私もまだ子供だったから、分かるはずもない。
上手くやり過ごして通りの影を曲がろうとしたときに、もう一度見ると呆気にとられたような間抜けな顔をしていた。
“何かに気が付いたのか?いいや、まさか……ただ、美人にビックリしているだけだ”
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