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Sniper showdown Ⅱ スナイパー対決
しおりを挟む本命以外の、敵の狙撃兵は直ぐに見つけた。
だけど、さっき子供を撃った奴は角度も方角分かっていると言うのに、ナカナカ見つけられない。
ひょっとしたら敵の隊長は、もう俺の正体に気が付いているかも知れない。
探すのはスコープと双眼鏡。
何度も色々な方向に紙飛行機を飛ばして、丁度紙飛行機が左に旋回した時に光の反射を感じた。
スコープの反射だ。
“やはり俺を見ていた”
こちらの声が離れた敵に聞こえないのをいいことに家族に呼ばれた子供を演じて窓から離れ、ふたつ上の階に押し入り、クローゼットのカーテンの奥に隠れポケットからスコープを取り出して覗く。
狙撃兵と監視員、それに通信兵の3人ペア。
奴の銃はSR-25。
この銃の特徴は、ライフリングが5条と、他の7.62mm弾を使う銃に比べて1条多い。
仕様銃弾とバレルの長さが同じでライフリングの条数が多ければ、バレル内での回転抵抗により有効射程距離が短くなる欠点はあるものの、市街戦などで実用性の高い400~500m付近での射撃制度は格段に向上する。
同じ発想の狙撃銃としては、SR-25とは逆にライフリングを1条減らして発射時にバレルに掛かる反動を軽減したFR F2がある。
つまり、僅かな隙間に隠れていても決して逃さないと言う訳か……。
持って来たAK-47にスコープを装着しようとして止めた。
こちらの狙撃手を既に17人も倒している相手なら、18人目の警戒も怠ってはいまい。
スコープを使うと、相手がよく見える代わりに、俺がレンズの反射に気が付いたように相手側からも発見しやすくなる。
俺はスコープを床に置き、吊ってある黒い服のボタンを閉めて、そこからAK-47の銃口を突き出した。
あの子が後ろを向いた。
部屋の中に居るお母さんに呼ばれているらしい。
窓から遠ざかろうとする子供。
“行くな!”
去ろうとする子供の後ろ姿をスコープで捕らえたまま、トリッガーに掛けた指に力が入る。
しかし、それを引くことは出来なかった。
子供を撃つことを躊躇ったのではない。
寧ろ、撃たなければならないと本気で思っていた。
だけど、俺は撃てなかった。
撃てなかったのは、子供の後ろ姿が俺を睨んでいたから。
それは、眼にも見えず、見た事も無い得体の知れないもの。
それがトリガーに掛けた俺の指先を睨んでいた。
“お前は……”
“私の名は死神。ローランド、君たちを迎えに来た”
弾丸の回転ズレを予測して、照準位置を少し斜め右上にずらす。
敵は、のんきにガムを噛んでいやがるのか顎が頻繁に動いている。
そして俺は、その狙撃手に向けて、ゆっくりとトリガーを引く。
興奮もしなければ、汗もかかない。
トリガーに指を掛け、ゆっくりとそれを引く。
「撃つ!」
「撃つって?!」
「あの子供を撃つ」
そうだ!
そうに、違いない。
あの子こそ、俺たちが捜していたグリムリーパーに違いない。
「おい、気でも狂ったか! 相手はただの子供だぜ」
ラルフが俺を止めようとするが、もう構っちゃいられない。
奴は、きっと場所を変えて俺たちを撃つ準備に取り掛かっているに違いない。
奴が撃つ前に、奴を撃たなければ、俺は殺されてしまう。
家の中に入ったわけではなく、きっと場所を掛けて俺たちを狙っているに違いない。
俺は慌てて付近の窓や隙間を調べ、そして、ついに見つけた。
開かれた薄暗いクローゼットの奥。
そこに掛かっている黒い服から、のぞいている黒い金属製の照準器。
“スコープを使わないのか?!”
そう思った瞬間、シュッっと言う鋭く無機質な風切り音が聞こえたと思う間もなく、周りの全てがぼやけて来る。
やけに首筋が熱いのは、今日の天気のせいじゃない。
いままで明るかった景色が、一瞬にして夜の闇に替わる。
闇の中でラルフが何かを叫んでいたが、その声はもう俺には届かない。
撃ち出された弾は、狙撃手の首筋に当たり、おびただしい血しぶきが上がった。
少し横方向にズレたぶん修正し直して、もう一度狙いを定める。
監視員が身を伏せて通信兵に何か指示を出している。
ようやく事の重大さに気が付いたのだろう。
だが、もう遅い。
今度は、その監視員のヘルメットに照準を合わせて、2射目を撃つとヘルメットの後頭部に穴が開き、兵士が倒れるのが見えた。
3射目は逃げようとする通信兵。
これは、背中に当たったものの、その命を奪うことは出来なかった。
まあいい。
所詮、通信兵。
狙撃は出来まい。
アパートの住人は、いきなり銃を持って入って来た俺が発砲したことに、怯えていた。
どうせ俺は嫌われ者。
怯えられた駄賃として、その家の食パンを頬張りながら、もう一度クローゼットに戻りスコープで通信兵が出てきていないか探る。
それにしても、この水気の無い食パンは喉に突き刺さる。
アパートの女の子が、クローゼットの中で監視する俺にミルクを持って来た。
水で薄めたヤツだ。
それでもカサカサの喉には有難かった。
女の子は、俺より背が高く大人びて見える。
幾つだと聞くと、13歳だと答えたあと「あんたは?」と聞いてきた。
同じ歳の女が、俺より大きい事にショックを受けて、何も答えずにいた。
返事を返さない俺に構わず、女の子は話を続けた。
お喋りな、女だった。
だけど俺は無性に、むしゃくしゃして、民兵の大人が良くそうするように乱暴にその女を押し倒し、その唇を奪った。
そして衣服を剥ぎ取ろうと手を掛けたとき、甲高い死の雄叫びが空から近づいて来ていることに気が付く。
“ヤバイ! 長居し過ぎた!”
殺し損ねたあの通信兵が、俺の居場所を基地の砲兵に連絡したに違いない。
ガラガラと崩れ落ちる天井と壁、それに床。
ただの通信兵じゃない。
俺の正確な位置に加えて、僅かな風や空気の密度も計算に入れた座標を的確に指示しない限りこうはいかない。
まるで狙撃兵!
初弾から命中されては、逃げる暇もない。
崩れる瓦礫と共に部屋から放り出され、瓦礫が敷き詰められた寝床に叩きつけられる。
痛いかどうかも、分からない。
気が付くと目の前には、さっきの女の子が目を開けたまま横たわり俺を見つめていた。
横になる女の目に瓦礫の埃が溜まって行くが、もう女は瞬きをしないし、お喋りもしない。
そして、俺の記憶もそこで止まる。
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