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6 私なりに思案する

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 その日、キリアンと共に帰宅した私を家族は少し驚いた様子だったけれど……でもすぐに歓迎してくれた。
 事実、彼は私の婚約者であり、爵位的には準男爵と同じ程度の、貴族として末席に加えられた騎士爵とはいえ将来有望な騎士なのだ。
 むしろ家族だから大事という程度の娘には勿体ないほどの人材……とかお父様が思っていたらどうしようかなんてちょっぴり思ってしまった。

 キリアンはお父様やお兄様を前にすると、ほんの少しだけれど表情が和らぐことを私は知っている。
 私の前だといつも無表情だけれど、ふっと気を抜いたように微笑むのだ。

(……その笑顔を、いつかは向けてもらいたいと思ったこともあったなあ……)

 今となっては高望みだったんだなと思うしかないのだけれど。
 だって薬のせいとはいえ、少しばかり深い仲になってしまったあの夜でさえ……彼の表情は崩れなかった。
 苦々しさは、滲んでいたかもしれないけれど……。

 薬が抜け始めて冷静になった私を見て浮かべたあの安堵の表情が、今となっては『これ以上求められなくて良かった』なんて思われていたらどうしようなんて思ってしまうのはあまりにも穿った見方よね。反省しなくては。

(お父様たちにはああいう、気を許した表情を見せるってことは……少なくとも、この婚姻で我が家と関係を結ぶことには肯定的ってことよね。ただ私のことは婚約者として、妻として見られないだけなのかも)

 彼と私が婚約したばかり……つまり、十三歳の頃の私は病弱だった。
 そのせいなのか、同年代の少女たちよりもやや小柄で線も細く、家族にはよく心配された者だ。
 きっと彼の目には子供に見えていたことだろう。
 十七歳のキリアンはその当時ですでに周囲の騎士たちと遜色ないほどに鍛えられていたし、人気があって女性たちから恋文が届いていたなんて話をお兄様から聞いたことがある。

 そんな人気者の婚約者でお前も鼻が高いだろう? って気を遣ってくれたつもりだったんだろうけれど、あれは落ち込んだっけ……。

 ああもう、いやなことばかり思い出しちゃうわ!

「ナナネラ」

「はい、お嬢様」

「私はもう休むから、貴女もゆっくりしてちょうだい」

「かしこまりました」

 ナナネラを退出させれば、部屋の中は一人きり。しんとしたものだ。
 私は自分の机に向かって一枚の紙を取り出す。

「よしっ、やろう!」

 家庭教師ガヴァネスになるにあたって、知識と作法を学ぶことは当然の話。
 それ以外にも子供たちの年齢における対応の違い、親御さんとの意思疎通、そういったものに加えて最も必要なこと……そう、それは計画書の作成である。

 いつまでにどの程度進めるべきなのか、進捗状況と照らし合わせて改善をしていく……行き当たりばったりで迷惑を被るのは相手なのだ。
 自分の力量不足を嘆く前にやることはきちんとやれ、それが先生の教えである。

 そしてそれはどのような時にも適用されるはず。
 そう! 今回のように将来を見据えた時にもね!!
 
 題して、彼を幸せにする十の方法。
 
 何故十個なのか?
 それは確実に実現できそうなことから始めるためだ。

 私はキリアンのことが好き。
 でもキリアンは私のことが好きじゃない。
 その折り合いをつけつつ、長い人生を夫婦として共に生きるためにがんばろう!
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