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前編
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呪いの言葉、手紙、電話、ビデオ、ありとあらゆる媒介を通じて人は他者に恐怖を伝える。
それは時としてただの憎悪だけではなく、愉悦として、娯楽として……単なる暇つぶしとして扱われることがあった。
そんな恐怖を面白おかしく楽しもうと怖い物知らずな家族がとある物件にやってきていた。
彼らはただ、肝試しにきただけだった。
正確には、自分たちの生活にとって重荷でしかない子供にハンディカムを持たせ、立ち入り禁止のテープが貼られているいわゆる、『曰く付き物件』に侵入させて恐怖映像を撮ろうと試みたのである。
動画が伸びれば小遣いになるであろうし、ならなければ子供のせいにして腹いせに殴って溜飲を下げることも出来る、彼らにとってそれは単なる暇つぶしであった。
ハンディカムを持たされた子供は、よたつきながらその家に足を踏み入れていた。
『この家には幽霊が出るんだってさ。しかもアンタと同じガキの幽霊! もしかしたらアンタみたいにきったねーガキでも幽霊なら友達になってくれるんじゃない?』
母親から投げかけられたその言葉を胸に、子供は暗い家をただ、ぼんやりと見ていた。
恐怖という感情が、その子供に宿っていないというわけではない。
ただ、ここから逃げ出すという選択肢が、子供にはなかっただけだ。
ハンディカムは高価であり、少なくとも子供よりも価値がある。
子供が怪我をしようがなんだろうが、これは持ち帰らなければならない。でないと、どうなるか……火のついたタバコをちらつかせながら言われたそれに、子供はただ盲目的に従うだけだ。
「おじゃま……します……」
土足では失礼だろうかと子供は少しだけ考えて、荒れ放題の家の中を見て少しだけ悩んでからそのまま一歩を踏み出した。
その子供は、この家がどんな場所なのか、知らない。
かつてこの家は、リノベーション物件として売り出された家だった。
だが購入した家主は意味不明なメッセージを多数友人たちに送りつけた後、行方不明となった。
その妻は四肢が断裂された状態で笑い続けているところを居間で発見される。その後、病院に搬送されたが程なくして死亡。
高校生の長女は自室にて自殺、その様子を動画サイトで生放送をした。彼女の行動に影響されたのか、その直後動画配信を目撃した人間が一部錯乱状態になる。現在も、入院している人間がいるとかいないとか……。
中学生の長男は学校で授業中に唐突に走り出したかと思うと三階にある空き教室から止める間もなく身を投げ死亡した。
幼稚園に通う次男は母親と共に帰宅したことはわかっているが、その後消息不明となっている。
警察は当時この一家の不審な出来事について、事件の可能性を踏まえて調査した。
しかし、近所からの評判も良く人当たりも良い夫婦と礼儀正しい子供たちであったというだけで、通り魔の犯行という結論に落ち着いたのである。
だが、話はこれだけでは終わらなかった。
このリノベーション物件の前身に問題があるとして一時話題となったのだ。
近隣の住人から週刊誌の記者が聞き出した情報に寄れば、若い夫婦と子供が一家心中したという話であった。
それだけであれば、ただの三流記事で終わっただろう。
問題は、この記事を書いた記者だけでなく、近隣住民まで謎の変死を遂げるようになったのである。
噂では、事件を担当した刑事も酷い目に遭い精神病院に入院し、今だ出てきていないなどの話まであるくらいにこの家に関わった人間が軒並み不幸に見舞われているのである。
それ以降、この家を中心に一人二人と人が去り、今では辺りが市の所有地として森林を植えるだけとし、ぽつんとその中に取り残されたように家だけが残されたという曰く付き物件なのだ。
不思議なことに、この物件は立ち入り禁止としているものの、特にバリケードが貼られているわけでもない。
定期的に役所や警察の人間が訪れるわけでもない。
つまり、悪戯し放題の状態なのだ。
であるにも関わらず、この家はいつまでも放置されている。
――何故なら、誰かが訪れることを妨げる、そのような行動をとっても災いが降りかかるから……である。
そして今、この家にやってきた来訪者たる子供は、この不幸を煮詰めたかのような家における、久方ぶりの客人なのであった。
それは時としてただの憎悪だけではなく、愉悦として、娯楽として……単なる暇つぶしとして扱われることがあった。
そんな恐怖を面白おかしく楽しもうと怖い物知らずな家族がとある物件にやってきていた。
彼らはただ、肝試しにきただけだった。
正確には、自分たちの生活にとって重荷でしかない子供にハンディカムを持たせ、立ち入り禁止のテープが貼られているいわゆる、『曰く付き物件』に侵入させて恐怖映像を撮ろうと試みたのである。
動画が伸びれば小遣いになるであろうし、ならなければ子供のせいにして腹いせに殴って溜飲を下げることも出来る、彼らにとってそれは単なる暇つぶしであった。
ハンディカムを持たされた子供は、よたつきながらその家に足を踏み入れていた。
『この家には幽霊が出るんだってさ。しかもアンタと同じガキの幽霊! もしかしたらアンタみたいにきったねーガキでも幽霊なら友達になってくれるんじゃない?』
母親から投げかけられたその言葉を胸に、子供は暗い家をただ、ぼんやりと見ていた。
恐怖という感情が、その子供に宿っていないというわけではない。
ただ、ここから逃げ出すという選択肢が、子供にはなかっただけだ。
ハンディカムは高価であり、少なくとも子供よりも価値がある。
子供が怪我をしようがなんだろうが、これは持ち帰らなければならない。でないと、どうなるか……火のついたタバコをちらつかせながら言われたそれに、子供はただ盲目的に従うだけだ。
「おじゃま……します……」
土足では失礼だろうかと子供は少しだけ考えて、荒れ放題の家の中を見て少しだけ悩んでからそのまま一歩を踏み出した。
その子供は、この家がどんな場所なのか、知らない。
かつてこの家は、リノベーション物件として売り出された家だった。
だが購入した家主は意味不明なメッセージを多数友人たちに送りつけた後、行方不明となった。
その妻は四肢が断裂された状態で笑い続けているところを居間で発見される。その後、病院に搬送されたが程なくして死亡。
高校生の長女は自室にて自殺、その様子を動画サイトで生放送をした。彼女の行動に影響されたのか、その直後動画配信を目撃した人間が一部錯乱状態になる。現在も、入院している人間がいるとかいないとか……。
中学生の長男は学校で授業中に唐突に走り出したかと思うと三階にある空き教室から止める間もなく身を投げ死亡した。
幼稚園に通う次男は母親と共に帰宅したことはわかっているが、その後消息不明となっている。
警察は当時この一家の不審な出来事について、事件の可能性を踏まえて調査した。
しかし、近所からの評判も良く人当たりも良い夫婦と礼儀正しい子供たちであったというだけで、通り魔の犯行という結論に落ち着いたのである。
だが、話はこれだけでは終わらなかった。
このリノベーション物件の前身に問題があるとして一時話題となったのだ。
近隣の住人から週刊誌の記者が聞き出した情報に寄れば、若い夫婦と子供が一家心中したという話であった。
それだけであれば、ただの三流記事で終わっただろう。
問題は、この記事を書いた記者だけでなく、近隣住民まで謎の変死を遂げるようになったのである。
噂では、事件を担当した刑事も酷い目に遭い精神病院に入院し、今だ出てきていないなどの話まであるくらいにこの家に関わった人間が軒並み不幸に見舞われているのである。
それ以降、この家を中心に一人二人と人が去り、今では辺りが市の所有地として森林を植えるだけとし、ぽつんとその中に取り残されたように家だけが残されたという曰く付き物件なのだ。
不思議なことに、この物件は立ち入り禁止としているものの、特にバリケードが貼られているわけでもない。
定期的に役所や警察の人間が訪れるわけでもない。
つまり、悪戯し放題の状態なのだ。
であるにも関わらず、この家はいつまでも放置されている。
――何故なら、誰かが訪れることを妨げる、そのような行動をとっても災いが降りかかるから……である。
そして今、この家にやってきた来訪者たる子供は、この不幸を煮詰めたかのような家における、久方ぶりの客人なのであった。
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