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第四章 「すまない」
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それから程なくして、二人は与えられた所領に赴きすぐに結婚式を挙げた。
といってもすでに籍を入れていたこともあってこぢんまりとした、館の人間と家族を招いた程度のささやかな式であったが。
それでも贈り物の数々はどれもこれも下位貴族では滅多にお目にかかれないような高位貴族や海外の資産家、貴族家からのものばかりで使用人たちは『新しいご領主夫妻は実はとんでもない人なのでは……』と目を白黒させたものである。
それもこれも、ロビンはいわずもがな、王弟とその一派、ひっそりと国王からの贈り物もそこに混じっている。
表立って大きく祝いの品を贈らないのは、他派閥とロビンへの配慮らしかった。
そのほかにもかつての同僚たちからの心ばかりのお祝い品もあり、あの地でロビンに救われたのだという民からの贈り物もそこに混じっていた。
その気持ちが嬉しいと涙をにじませたロビンに、アナがそっと寄り添う姿は使用人たちの気持ちも温かくさせたものである。
そしてアナの方であるが、ジュディスを始めとした親交深い貴族令嬢たちからの贈り物が多く見られた。
学園で親しくしていた人数はそれこそ多くないものの、アナが親しくしていた令嬢たちの殆どが婚姻した後に高位貴族家の夫人になっているのだ。
読書クラブで親しくなった人もいれば、アナの代筆で恋を実らせた人もいる。
アナは恋文の代筆を頼まれた際は必ず自身で努力をするつもりはあるか尋ねていた。
どうせいつかはその文字が本人のものではないとわかるのだ、それを理解した上で嘘をつき続けるのではなく、アナに教わって自身で書く努力をする人の手伝いをし続けた。
中にはどうしても上達できなくて、アナが代筆したものもあった。
そんな関係を築いた友人たちは、揃ってアナに感謝していたのだ。
『マグダレア男爵家と今後も良きお付き合いを望みます』
『夫人とお茶会できるその日を楽しみにしています』
おめでとう、おめでとう。
また会えるその日がとても楽しみだ。
そう綴られる彼女たちからのメッセージに、アナは自分の学生時代が、ただ暗いものではなかったその温かさで今も満ちていることに感謝した。
確かに二度の婚約解消は、アナを傷つけ、謀らずとも人目に晒すことになった。
そのことで不躾な物言いや視線に辟易したものだが、こうして得た友人たちは今も変わらない温かさを彼女に向けてくれている。
そして彼女たちの夫となった人物にもそれは伝わっているのだろう。
時にアナに対して、ベイア家に戻ってからも友人の夫から翻訳依頼やら異国語での手紙の代筆などを頼まれることもあった。
そうしたことも踏まえて、マグダレア男爵家と繋がりを持ってもいいと考える貴族は国内にそれなりにいるのだ。
新興貴族としては大変ありがたいことであった。
また異国の友人――かつて学園に交換留学生として来ていた人々との交流も、続いている。
彼らの多くは高位貴族、あるいは裕福な資産家の令嬢子息である。
他国に留学してくるほどの学力を持っているので言語に問題はないものの、それでも異国の地で頼りになる友人ができるとそれはとても心強いものだ。
アナはそんな彼らにとって、控えめだが常に寄り添ってくれる頼もしい友人として認識されているのであった。
「アナの人脈には驚かされるなあ」
「みんな良い人ですから。そのうちご紹介できる日が楽しみです」
「ああ、俺も楽しみだ。アナの学生時代の話も聞かせてもらえるだろうし」
「ええっ? それはちょっと……恥ずかしいですから」
領民たちからも、仲の良い夫妻として認識される二人は常に互いを思い遣りながらマグダレア領をよりよいものにするため、動き出す。
人々は自分たちも一緒に頑張ろうかと積極的に意見を求めてくる若い領主様とその妻に、いつしか引っ張られるようにして同じように動き始める。
今はまだ、これといった産業のないマグダレア領だが――それでも人々の笑顔は、明るい未来を信じて止まない。
といってもすでに籍を入れていたこともあってこぢんまりとした、館の人間と家族を招いた程度のささやかな式であったが。
それでも贈り物の数々はどれもこれも下位貴族では滅多にお目にかかれないような高位貴族や海外の資産家、貴族家からのものばかりで使用人たちは『新しいご領主夫妻は実はとんでもない人なのでは……』と目を白黒させたものである。
それもこれも、ロビンはいわずもがな、王弟とその一派、ひっそりと国王からの贈り物もそこに混じっている。
表立って大きく祝いの品を贈らないのは、他派閥とロビンへの配慮らしかった。
そのほかにもかつての同僚たちからの心ばかりのお祝い品もあり、あの地でロビンに救われたのだという民からの贈り物もそこに混じっていた。
その気持ちが嬉しいと涙をにじませたロビンに、アナがそっと寄り添う姿は使用人たちの気持ちも温かくさせたものである。
そしてアナの方であるが、ジュディスを始めとした親交深い貴族令嬢たちからの贈り物が多く見られた。
学園で親しくしていた人数はそれこそ多くないものの、アナが親しくしていた令嬢たちの殆どが婚姻した後に高位貴族家の夫人になっているのだ。
読書クラブで親しくなった人もいれば、アナの代筆で恋を実らせた人もいる。
アナは恋文の代筆を頼まれた際は必ず自身で努力をするつもりはあるか尋ねていた。
どうせいつかはその文字が本人のものではないとわかるのだ、それを理解した上で嘘をつき続けるのではなく、アナに教わって自身で書く努力をする人の手伝いをし続けた。
中にはどうしても上達できなくて、アナが代筆したものもあった。
そんな関係を築いた友人たちは、揃ってアナに感謝していたのだ。
『マグダレア男爵家と今後も良きお付き合いを望みます』
『夫人とお茶会できるその日を楽しみにしています』
おめでとう、おめでとう。
また会えるその日がとても楽しみだ。
そう綴られる彼女たちからのメッセージに、アナは自分の学生時代が、ただ暗いものではなかったその温かさで今も満ちていることに感謝した。
確かに二度の婚約解消は、アナを傷つけ、謀らずとも人目に晒すことになった。
そのことで不躾な物言いや視線に辟易したものだが、こうして得た友人たちは今も変わらない温かさを彼女に向けてくれている。
そして彼女たちの夫となった人物にもそれは伝わっているのだろう。
時にアナに対して、ベイア家に戻ってからも友人の夫から翻訳依頼やら異国語での手紙の代筆などを頼まれることもあった。
そうしたことも踏まえて、マグダレア男爵家と繋がりを持ってもいいと考える貴族は国内にそれなりにいるのだ。
新興貴族としては大変ありがたいことであった。
また異国の友人――かつて学園に交換留学生として来ていた人々との交流も、続いている。
彼らの多くは高位貴族、あるいは裕福な資産家の令嬢子息である。
他国に留学してくるほどの学力を持っているので言語に問題はないものの、それでも異国の地で頼りになる友人ができるとそれはとても心強いものだ。
アナはそんな彼らにとって、控えめだが常に寄り添ってくれる頼もしい友人として認識されているのであった。
「アナの人脈には驚かされるなあ」
「みんな良い人ですから。そのうちご紹介できる日が楽しみです」
「ああ、俺も楽しみだ。アナの学生時代の話も聞かせてもらえるだろうし」
「ええっ? それはちょっと……恥ずかしいですから」
領民たちからも、仲の良い夫妻として認識される二人は常に互いを思い遣りながらマグダレア領をよりよいものにするため、動き出す。
人々は自分たちも一緒に頑張ろうかと積極的に意見を求めてくる若い領主様とその妻に、いつしか引っ張られるようにして同じように動き始める。
今はまだ、これといった産業のないマグダレア領だが――それでも人々の笑顔は、明るい未来を信じて止まない。
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