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第三章 ロビン・マグダレア

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 アナはヨハンにも相談して、かつて学園で世話になったバーネット公爵令息ブライアンに手紙を書いた。
 彼の妹であるディアナとも親交は続いている。

 ディアナは現在も学園で研究を続けており、医療に携わりたいとあれこれ努力を重ねているらしい。
 ブライアンは学園を卒業後予定通り騎士となり、今は近衛騎士隊に所属しているのだ。

 近衛騎士隊は基本的に国王直轄の部隊だけに、秘密なことも多い。
 手紙も内容を一度確認されるらしく、軽口で変な内容を書くなとヨハンが念のためにと注意されて笑い合った日を思い出す。

 そこでアナはブライアンに相談するという体で、ロビンのことを書いたのだ。

 王弟殿下にその働きを褒めてもらったロビンが叙爵されるにあたり、アナたちの父親が後見人となったこと。
 そのことについて叙爵前に王弟殿下に御礼申し上げたかったがどうしていいかロビンはわからず、困っていること。
 ベイア家も子爵という下位貴族であることから、いくら王弟殿下が寛大な方だとしても手紙を送るのが不躾にならないか判断に困っていること。

 最後にはベイア子爵領地の話題やヨハンとの他愛ない日々を綴り、領内で取れたもので作った干し果物を送るので良かったら同僚の方と分け合ってほしいと結ぶ。
 実際には近衛騎士隊の規約で食せない可能性もあるし、処分されることも念頭に置いてそれほどの量は送らない。

(あとは返事を待てばいいわ)

 知られても困ることはないし、事実、現在のロビンは叙爵待ちの平民でしかない。
 騎士を辞している以上、王族に手紙を送ることは難しい話でもあった。
 そして、貴族であっても下位に類する子爵家で王弟殿下と縁もないベイア家が仲介するのも難しい話である。

 ゆえにそういうことで高位貴族を頼ることは珍しい話でもなく、この件を妙に思う人物はいないはずだ。

(本当はジュディスに頼ることができたら良かったのだけれど)

 しかしながらここで彼女に頼れば、ベイア子爵家は娘を通じて王家に擦り寄ろとしているなどと難癖をつけてくる者が現れかねない。
 ましてやモーリスの一件から、モルトニア侯爵家がベイア子爵家に対し罪悪感を持っていると思われているのだから。

 ジュディスが王子妃として立つために、友人であるアナが足枷になるなど以ての外だ。
 そうした事情を貴族であれば察することもできるであろう近衛騎士隊ならば、手紙を見た時にある程度は理解を示すことだろう。
 勿論、ブライアンも。

 とはいえ、近衛騎士隊に所属しているからと言って誰も彼もが王族に連絡をとれるわけではない。
 ブライアンが公爵令息であることを踏まえても、難しい話である。
 ただ王弟が自分の気に入った人間に対し寛容であるという話を信じるのであれば、きっとアナからの手紙に関心を見せてくれるに違いない。

「……せっかく便箋を出しているのだし、オフィーリアにも手紙を出そうかしら」

 アナはどうかロビンの願いが叶いますようにと祈りつつ、今は遠い異国にいる友人へと続けて手紙を書き始める。
 オフィーリアは学園の読書クラブで知り合った一つ上の学年に所属していた留学生で、彼女と過ごす時間はとても楽しく有意義なものであった。

 二度目の婚約解消の際、彼女は共に悲しんでくれた大切な友人だ。
 今も手紙のやりとりをしているおかげで、アナの語学力は今や現地の民と変わらないほどだとオフィーリアが太鼓判を押している。

「……そうだわ、オフィーリアがそういえばあちらの国で新しい薬草が見つかったって言っていたんだっけ」

 ディアナが手紙で『今研究している薬が完成しそうで完成しない、あと一歩なのに』と嘆いていたことを思い出す。
 あちらの国で見つかった薬草がどんなものかまではオフィーリアも書いていなかったが、もしかすれば何か役に立つかもしれない。

「ディアナが研究で行き詰まっているようなので、よければ相談に乗ってあげてください……と。これでいいかしら」

 アナには研究のことも、政治のことも、貴族たちの危うげな関係も表面上のことしか分からない。
 それでも、友人たちや自分が見知った人が努力する姿を知っている。

「よし、みんなも頑張ってるんだし私も頑張らなくちゃ」

 まずは父がここ数年乱雑に扱っていた、領内の収穫高の資料を綺麗にまとめるところから始めようとアナは自分の部屋を後にする。
 きっと今頃ヨハンが頭を抱えて書類を見たくないと騒いでいる頃だろうから、甘いものも持って行こうかなと侍女に声をかけるのだった。
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