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第二章 目指せリア充、青春したい乙女心

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(さてと……)

 その後私は無事に郷土史研究部に参加することができた。
 イナンナの他に新入部員は三人。いずれも別のクラスの子だった。
 ジャミィルも来ていて、軽く手を挙げて笑ってた。

 まあ私が上手いことハルトヴィヒを巻いてくるって言ったからなんだけど……あれは『上手くやったな』ってところかな?
 あの友好的な態度が本心からなのか、王女様のためなのか見極めないうちは絆されないようにしなくっちゃ。

(万が一にも私が吸血鬼だなんてバレたら目も当てられないもの!)

 そうして打ち解けつつ普段どんな活動をしているのかなどの説明を受けて、私たちもめいめい、好きな資料を手に取って見させてもらった。
 といってもその資料というのは、部員が気になったものを学園の図書館の中から探し、集めた素人の作った資料ってやつね。

 それでもすごくよくできていると思うよ!

「サナディアってのは秘境なのか?」

 ふと私の横に来たジャミィルにそう問われて、私はなんて答えるか少しだけ迷った。
 いや、秘境と呼ばれるほどではないっていうか、でもまあ自然豊かよね……。
 人間族が旅するにはちょっと大変っていうよりもちょっとだけコツがあるんだ。

「そうね、馬車移動はあんまり適さないかな」

「そうなのか?」

「エルフ族がメインで暮らしてるけど、割と精霊が多いところらしいよ。だから馬車とかは悪戯されやすいんだってさ」

 私たちみたいに直接精霊と交渉・・できるなら被害も少ないんだけど、人間族は精霊を見るのも話すのも難しいらしいから……。

(そういえば、昔の人間族は殆どの人ができたって記述があった)

 じゃあ、いつからできなくなったんだろう?
 私たちを恐ろしい存在として疎んだことと何か関係あるのかな?

 ひいおじいちゃんたちに聞いても、相容れないからだとしか教えてくれなかった。
 でも私は安穏に暮らしたいの。
 吸血鬼狩り……なんて言っても本当に狩られた吸血鬼なんてそう聞かないけど、やっぱりそんな話を耳にすると心がいたいもの。

 中途半端なまがい物が討伐されたって話を耳にする度に『本当の吸血鬼は違うのよ!』って叫びたい気持ちで一杯だった。

 今は親しくしてくれるジャミィルも、イナンナも、親切な先輩たちも私が吸血鬼だと知ったら離れていっちゃうんでしょう?
 世間では、吸血鬼は悪だから。

(そうよ、騎士隊にも吸血鬼に攫われるとか言われたし!)

 あっ、思い出したらムカムカする。
 私は手元のサタルーナの聖女伝説のページに目を落としてまたモヤモヤした気持ちからそれをやや乱暴に閉じた。

 そして本に八つ当たりしてしまった……と自分の事ながらションボリする。

「行ってみたいな、サナディア」

「えっ」

 でもそんな私の乱暴な所作に何かを言うでもなく、ジャミィルがぽつりとその本に目を落としたまま、呟いて驚かされる。
 その眼差しは本当に本に釘付けって感じで、私に言っているんじゃなくて、それはこぼれ落ちた……みたいな声だったのだ。

「なあ、サナディアってどんなところなんだ?」

 くるりとこちらに向いた黒目が、好奇心にキラキラしているのを感じた。
 そこに思わずドキッとする。

(ドキッ!?)

 ちょ、ちょっとまって私、お前そんなにチョロイ女だったかしら!?
 いえ、これは違うわよ何かの間違い。
 サナディアに興味を持つ人なんていたことに驚いただけだわ。

「……ジャミィルは亜人種に忌避感はないの?」

「ないな。俺の実家自体、代々と言っても四世代前……つまりひいひい爺さんが移民で、そこから気に入られたってだけの話だ。むしろ亜人種ってのがサタルーナではあまり見たことがないから気になる」

「……」

 その目にも、声にも嘘はない、と、思う。
 ただまあ本当に心の底から自分自身を騙して誠実な人間の皮を被る詐欺師ってのが昔々にいたらしいので、どこまで信じて良いものか。

「……ならちょうどいいじゃない、ここの顧問がエルフだって知ってた?」

 とりあえず、私と同じサナディアのエルフに丸投げしよう。
 私はそう決めたのだった。
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