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6:これが……強制力?(んなわけぁない)

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 衝撃的な登場を果たしたお姉様でしたが、物音に気がついて飛んできたお義母様に拳骨を一つ食らってエッカルト様に深々と頭を下げることで一旦その場は落ち着きました。

 いや、なんにも落ち着いてませんね!!

 侯爵夫人になった義母が動きやすいものとはいえドレス姿で二階から駆けてきて、至らぬ娘だと叱責と同時に拳骨を落とすだなんて一般的な貴族家では考えられませんからね! お姉様に関してはもう言わずもがなというか、規格外。

「……エッカルト様、改めましてこちらが先日、私の義母となりましたアマリア様です。そしてこちらが義姉のカサブランカです」

「ヨロピヨ!」

「お姉様」

「アタクシ、カサブランカ。以後、オ見知リオキヲ」

 いつもの調子でウィンクと一緒にピースサインを決めようとするお姉様に一声かければ、慌てた様子で落ち着いた仕草を見せるランお姉様。
 うん、片言ですがまあいいでしょう。

 アマリアお義母様は深々とエッカルト様に頭を下げて「お騒がせして申し訳ありません。至らぬことも多い我々ですが、これからどうぞよしなに」とご挨拶していたのでこちらは問題ないでしょう。
 まあ、貴族家の女主人として見れば及第点からはほど遠いのですが……それだってまだつい最近その座に着かされた・・・・・のだと思えばむしろ頑張ってくれていると私は思うの。

「それでは夫の調子が良くありませんので、わたくしはこれで」

「うむ。わざわざ申し訳ない、夫人。侯爵様にもよろしくお伝えください」

 お義母様が出て行くのをちょっと偉そうな態度で見送るエッカルト様に、私はなんとなく引っかかるものを覚えたけれど気にしないことにした。

 多分、お義母様を下に見るような態度が気に入らなかったんだな!
 なんせ新家族としての私たちは、ぎこちないながらもそれなりに家族として上手くやっているから。
 家族に対する態度ってどうしても気になるよね!
 二人を家族として愛せるかって言われるとまだ複雑な気持ちはある。
 だけど、私のことを家族として愛情たっぷりに接してくれているし、ちゃんと向き合ってくれている人たちだもの。愛さずには居られないでしょう?

 私たちは、きっと良い家族になれると思うのよ。
 
 お父様も決して悪い人ではないし、お母様との関係はどうだかわからないことも多いけれど、少なくとも娘として邪険にされた覚えはないし……単純に、考えの足りない人だったのだと思えば納得も出来るし。

(でも、さすがにこれは……エッカルト様もびっくりしたわよね……)

 反応のないエッカルト様をちらりと見れば、彼は真っ直ぐに、そう真っ直ぐに、ランお姉様を見つめているではないか。
 食い入るように見つめるその眼差しに、私は思わず眉をひそめる。

「エッカルト様?」

「カサブランカ殿……不自由はしていないか?」

「はア? え? あ、あーし!? じゃなかった、アタクシは別に……足りてますわよ! ホホホ!」

 なんですかその受け答え!
 いや、質疑応答でのマニュアルなんてないから適当に答えて笑ってやり過ごせば大丈夫って私が言ったけど!

(というか、何よ『不自由していないか』って。それじゃあまるで私が彼女たちに何もしてあげてないみたいじゃない)

 お互い助け合ってなんとか家族の体裁を整えつつ、尊重し合って暮らし始めた新家族だという認識だからエッカルト様の発言にカチンと来てしまった。
 私の心が狭いのかしら。

「いや……ルイーズは生粋の令嬢だ。ゆえに、平民から貴族社会に身を投じた貴女の心細さに寄り添いきれていないのではと心配になったんだ」

(はァァあ!? なによそれ!!)

 それって、婚約者である私が酷い女みたいに聞こえるんですけど!?
 思わず令嬢としてはしたないと言われるかもしれないけれど、エッカルト様を凝視してしまった。

 けれど彼はそんな私の視線に気がつく様子はないし、ランお姉様はキョトンとしてしまっている。

「ええ……? そんなこと、ありませんけど……」

「そうか? もしルイーズが貴女に対し失礼なことを言うようであればいつでも相談してほしい。婚約者として正さねばならないからね」

「ちょっと何言われてるかわかんない」

 真面目なトーンで、ランお姉様がそう呟いた。
 うん、私もそう思います。思わず頷いてしまった。

「ルイーズたんは可愛いし、優しいし、礼儀作法もなーんもわかんないあーしに色々教えてくれるんだけど? マジ神なんだけど。あーしの女神様なんだけど。ねえ、アンタ本当にこの子の婚約者なワケ?」

 スン……と表情をなくしたランお姉様がいつもの口調に戻って淡々とエッカルト様に言葉を突きつければ、彼は怒るわけでもなくむしろ恍惚とした表情を浮かべているではないか。

「ウワァ」

 思わず私の口から変な声が漏れたけれど、幸い誰もそれにツッコむことはなかった。
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