人妻絵美の聖愛白書

翠乃古鹿

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序章壱

奈落の刻印②

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 自嘲気味に絵美が話した内容は、兄の貴志から聞いた事とほぼ同じだった。
「自業自得か……」
 頭に浮かんだ言葉を思わず呟いた。
 清志の言葉を聞きつけた絵美は、
「……確かに、そうね。でも、今更言っても仕方のないことだけど……騙されたの」
 と、遠くを見るような顔で言った。
「騙された? どういう事だ? 騙すも何もすべて事実じゃないか。最低の淫乱女という他に、何があると言うんだ」
 清志の嘲るような言葉に、絵美は哀しい笑顔を見せた。

 連絡を受けた教頭が駆けつけた時、絵美にはまだ事件が発覚していたことを知らされていなかった。それどころか、パニックになった絵美に松原と江田は、
「絵美先生が全裸でオナニーをする姿を見せれば、高津先生も淫乱症の病気を理解して納得してくれると言っている。辞めていく絵美先生には何も言わずに目をつぶるそうだ」
 と言って言いくるめられていた。
 冷静に考えれば二人の話はデタラメでありえないが、その時の絵美は二人に言われるままに痴態を晒した。
 用務員の江田と世界史の溝口先生も、絵美に誘惑され肉体関係を持った事を告白した。
 二人は誘惑されとはいえ、人妻との不適切な関係に至った事を問題視されたが、絵美が自分の排泄場面まで映した動画を保存してあった事が分かり、教頭の証言した絵美の異常なまでの淫乱ぶりが際立ち、江田と溝口先生の処分は不問となった。
「高島先生はセックスが大好きなんだ。おれのチンポが大好きだと言ってくれて、何回もセックスしたんだ。いつでもセックスしてくれるって、高島先生が言ってた」
 歯に衣を着せない卒業生たちの赤裸々な証言が決定打となり、絵美の淫行が自発的なものであると結論付けられた。
 不祥事に関わった生徒たちは厳重注意をうけたが、彼らは絵美の異常な性欲の犠牲者だという松原先生や高津先生らの進言もあり、処罰される事はなかった。
 将来ある生徒たちの今後を鑑み、事件を公にすることなく内々で処理する事に決めた。
 不祥事を起こした絵美には、厳罰が処せられた。彼らとの淫行は公にできないため、服務規程違反や風紀の乱れ、備品の着服、経歴詐称など大小二十に近い理由をあげ、異例ともいえる一番重い懲戒免職とした。
 当然、絵美の不貞と淫行の全てを知った夫の貴志とは離婚した。
 一人娘は義両親に引き取られた。
「淫売女の元に孫は置いておけない!」
 義父はそう言って娘を連れて行ったが、その横で悲しそうに絵美を見ていた義母の顔があった。元嫁のこれからを、女として哀れんでいたのかもしれない。
 この時の事は清志もよく覚えている。
 まさか憧れていた兄嫁が浮気していたなんて……信じられなかった……
 もしかして親父と兄が共謀して、絵美を陥れたのか……とも考えた。
 だが、絵美は本物の淫売女だったようだ。
 兄の貴志は急きょ単身赴任となって、大阪に赴任して行った。

 孤立無援となった絵美は、貴志に紹介された古いアパートの団地で一人暮らす事になった。建物は古かったが、風呂付きの部屋は有難かったという。
「仮にも、娘の母親を、のたれ死にさせるわけにはいかないからな」
 と言って、貴志が絵美の保証人となり、アパートを借りたのだ。
 絵美の振舞いが実家にも知れ、怒った両親には勘当された。
「そんな娘を育てた覚えはない。もう娘とは思わないから、二度と顔を出すな。後は勝手にしろ!」
 世間体を気にする両親は、しばらくして引っ越し、連絡先も教えずに関係を絶った。
 他県で絵美と同じ教師をしている姉は、妹の不始末で体調を崩して入院したと義兄から電話があった。
「恥知らずな淫売女に用はない。二度と顔を見せるな!」
 普段は温厚な義兄は、怒りと共に絶縁を言い渡した。
 結婚前の妹にも怨まれた。
「恥知らずな姉と、同じ血が流れているなんて思われたくない!」
 婚約者に知られる前に死んでくれとまで言われて絶縁された。
 絵美には、誰一人手をさしのべる者がいなくなっていた。
 年齢的にも正社員の職はなく、時給の安い工場のパートで働いたが、給料のほとんどが借金の返済に消えた。正直に経歴が書けない絵美を雇う所はほとんどなかった……。
「それで、義姉さんは風俗嬢になったというわけか……」
「そうね、それもあるけど……妊娠が分かったのが一番大きいわ。誰の子供かも分らないし、その時は子供を産んで育てるなんて不可能だったから。だからといって、堕胎のお金もないしね……八方塞がりだったの。でも、びっくりしたわ。清志さんが、お客としてお店に現れたから……」
 学校を辞めて三ヶ月ほどが過ぎた時、恐れていた妊娠の兆候が現われた。
 絵美を抱いた男たちは、避妊のことなど心にも留めていない連中だった。欲望の赴くままに、絵美の中に欲情を放ったのだ。
「今思えば、妊娠させるのが目的だった節もあったような……そんな気もする」
 と絵美は言った。
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