朝靄に立つ牝犬 -改訂版-

翠乃古鹿

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……母犬の悲哀

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 牝犬となった綱島知子が、洗面器の底をペロペロと舐めて昼食の残飯を平らげた。
「ごちそうさまでした……」
 と言って顔を上げた知子は、渋谷が食事のようすを撮影していたのを知って思わず顔を背けたが、すぐにカメラに笑顔を向けた。
「渋谷さん、そろそろ知子先生を連れて行きますよ。早く童貞を捨てたいっていう後輩たちが、首を長くして待ってるんでね。筆下ろしの相手には、知子が丁度いいんですよ」
 大倉が腕時計を見ながら立ち上がると、知子はさしたる抵抗もせず、日吉と小杉に担がれるように外に運び出された。
 外は陽も高く、人通りもあったが、車の陰に隠れて全裸の知子に気がつく人はいなかったようだ。
 ワゴン車の荷台に運ばれた知子は、大型犬用の檻が積み込まれているのを見て、白い顔を強張らせていた。
 知子を乗せた車が走り去ると、渋谷は二階の205号室を見上げた。
「そろそろ、紀子も限界かな」
 と、口元に笑みを浮かべた渋谷は、部屋から回覧板を手にすると、ゆっくりと二階に上がる階段を登った。
 …………
 綱島紀子は、自分に降りかかった恥辱にあえいでいた。全裸で股を広げた卑猥な姿が、玄関に据え付けてある鏡に映っている。
 両脚をMの字に広げて、椅子に縛り付けられた姿は、あまりに卑猥だ。
 思わず目を背けようとするが、鍵のかかっていない玄関が気になって、目をそらすことができない。誰かがドアを開けたら、紀子の姿は丸見えだ。
 もう限界……。
 紀子は直腸内で暴れる便秘薬の苦しみに耐えていたが、肛門を塞ぐ栓を押し出さんばかりに限界を迎えていた。
 その時、ドアを叩く音がした。
「綱島さん。回覧板です」
 どうやら、町内会の回覧板を持って来たらしい男性の声だ。
「おかしいな……居ると思ったんだけど。綱島さん、奥さんいますか」
 男性は再びトントンとドアを叩き、鍵のかかっていないドアノブをガチャリと回した。
 見覚えのある若い男性が、驚愕の表情で紀子を見ていた。
 思い出した……彼は、最近一階に越して来た渋谷という独身男性だ。
 その時紀子は、まるでで現実とは思えない白日夢の中にいるような感覚だった。
 名前も知らない突然の侵入者に抱かれ、暴漢たちとのセックスに言い知れぬ快感を覚えた、淫らな自分に対する罰なのかもしれないと思った。
「大丈夫ですか奥さん。どうしたんですか。警察を呼びましょうか」
 と言って渋谷が携帯を取り出すと、
「大丈夫ですから、やめてください。それより、縄を……縄を解いてください」 
 と紀子は慌てて腰を揺らした。
「あ、はい。そうでした」
 縄を解く渋谷の目が、紀子のさらけ出した股間を凝視しているのが分かった。
「お願いですから、このことは秘密にして下さい。何でもないんです。これは、私の趣味なの。本当は、自分で縄も解けるんだけど、見つかっちゃったから……」
 紀子は自分でも信じられない程、スラスラとセリフが口に出た。
 紀子を辱しめた男たちが、
『……もし、誰かに見つかったら、こう言えばいいのさ。私はSMが趣味なのってな。露出狂の変態だって告白して、チンポを咥えてやれば男なんて誰でもイチコロさ……』
 と言って伝授したセリフだ。
「趣味……趣味って……」
 ポカンと口を空けた渋谷を残して、紀子はトイレに駆け込んだ。
 空気の抜けたアヌス栓と共に、腸の中の汚物が洗い流された。
 ホッとして顔を上げると、開け放したトイレのドアの前に渋谷がいた。
「趣味とはね。とんだ変態女ですね、綱島紀子さん。高校教師の娘さんは、この事を知ってるんですか?」
 蔑みの目をした渋谷の言葉に、暴漢たちの言葉が頭をよぎった。
『あんたの娘、高校の教師だよな。母親の恥ずかしい写真が世間に出回ったら、どうなっちゃうかな。娘さん学校クビだね。それでもいいのかな?』
 娘の知子を守るため……そう自分に言い聞かせ、紀子は彼らの軍門に下ったのだ。
「魚心あれば水心、って言いますからね。僕も奥さんの趣味に混ぜてくださいよ」
 ズボンから飛び出した肉棒が迫った。
 やっぱりこれは罰なんだ……。
「渋谷さんのおっしゃる通り、私……変態なの。娘に、黙っていてくれたら、なんでもしますわ……」
 紀子は渋谷の股間に口を寄せ、舌を伸ばして肉棒をペロリと舐めた。
 女手一つで娘を育てるのは大変だった。そのため、決して清廉な道を歩んで来たわけではない。身体が目的で近づいた男たちを利用したのも、一人や二人ではなかった……。
 それもこれも生活のため、娘の知子を守るためだ。その娘が一人前になり、高校教師という仕事についた。でも……神様はここにきて、紀子が過去に犯した悪徳の罰を与えているのかもしれない……。
 紀子はそんなことを考えながら渋谷に抱かれ、不浄だと思っていた肛門が悦楽を誘う器官だと知った。
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