国が滅ぼされる原因となる男のモブ妻ですが、死にたくないので離縁します!~離縁したらなぜか隣国の皇太子に愛されました~

Na20

文字の大きさ
上 下
16 / 17

16

しおりを挟む

 アレス殿下と想いが通じ合ったあの日から一ヶ月が経とうとしている。

 この一ヶ月は本当に色々なことがあり、目まぐるしい日々を送っていた。


 まず私は仕事を辞めた。
 もともと辞めるつもりではあったがアレス殿下と両想いになり、改めて仕事を辞めることとなった。アレス殿下の想いを受け入れた私は皇太子妃になることになる。そのためには身に付けなければならないことが多く、とても仕事をしている場合ではない。
 通常ならもっと早くから教育を受けるのだが、私はまもなく二十二歳になろうとしている。教養にマナー、歴史や語学など覚えなければならないことはたくさんある。でも大変ではあるが勉強は好きだし、好きな人のためならば頑張れる。それに前世の記憶があるおかげか、今のところ順調に教育は進んでいると先生方からお褒めの言葉をいただけるほどである。前世の記憶に感謝だ。
 このままいけば近いうちに婚約を発表することができそうだとアレス殿下が喜んでいた。もちろん私も嬉しい。しかし平民の私がアレス殿下の両親である皇帝陛下と皇后陛下に受け入れてもらえるかが不安ではあったが、正式な謁見の際に二人とも私に好意的でホッとしたのを覚えている。

 それと私は貴族家の養子になることになった。
 最初は両親に爵位をという話になったのだが辞退をしたのだ。私が治癒能力の持ち主だと婚約と同時に公表するとは説明されていたので、家族を守るための爵位だということは理解している。だけどバーミリオン帝国で何か功績をあげたわけでもないし、家族は旧シャウト王国で爵位に縛られ苦しんできた。だからできることなら別の方法をとアレス殿下に相談すると、私が貴族家の養子になるのはどうかと提案されたのだ。家族と離れるのは寂しいが大切な家族を守るためでもあるし、それにこれは私が選んだ道だと養子になる話を受け入れることにした。
 養子先はハリスさんの実家であるモルティア侯爵家だ。ハリスさんの父親であるモルティア侯爵も皇帝陛下の側近をしており、代々皇室に忠誠を誓っている家なのだそうだ。まさかハリスさんが侯爵家の嫡男で次期侯爵様だとは知らなかった。ずいぶんと馴れ馴れしく話していたが不敬だったのではと不安になるも、ハリスさん本人からは『気にせずに今まで通りでお願いします』と言葉をかけてもらった。
 アレス殿下との婚約はまだだが私はすでに侯爵家の養子となっていて、今の私はシルフィー・モルティア侯爵令嬢である。この年齢で令嬢と呼ばれるのは前世の記憶のせいかなんとなく抵抗はあるが。

 あとこれは関係者以外まだ内密なのだが、私と同じ治癒能力を持つ者が現れたそうだ。私はその話をアレス殿下から聞かされた時、『あぁ、ヒロインだ』と不安に駆られた。やはり小説通りに二人は結ばれてしまうのではないかと。
 しかも聞かされた話だとすでに二人は出会っているというのだ。やはり私のようなモブがアレス殿下を好きになってはいけなかったのだと悲しくなった。しかしここは私が身を引くのが正しいのだと言い聞かせ、アレス殿下に切り出したのだ。


「殿下、どうぞ私のことは気にせずにその方を伴侶に迎えてください」

「は…?」

「ちゃんと分かっています。その方が殿下の運命のお相手なんですよね?」


「え?ちょっと待っ…」


「一時の気の迷いで私を選んでしまって後悔されているんですよね?でも安心してください!私はお二人の邪魔をするつもりはありません。だから殿下は気にせずに幸せになって…」 

「シルフィー!!」


 アレス殿下に突然抱きしめられて驚いたが、私は何とか離れようとした。


「っ!で、殿下!離してください!」

「絶対に離さない!」

「どうしてですか!?これでは殿下の運命のお相手に誤解されて…」

「私の運命の相手はシルフィーただ一人だ!」

「なっ!そ、そんなわけ…んっ!」


 否定の言葉を言おうとした私の口はアレス殿下の唇によって塞がれてしまった。


「ん、んんっ!」


 こんなことしていいわけがないと、アレス殿下の胸を押すがびくともしない。むしろ口づけが激しいものに変わっていく。この口づけは想いが通じ合ったあの日にしたものとは違ってとても荒々しいものだった。


「んっ…!」

 やめてほしいと思っているのにもっとと思い始めてしまう自分もいる。それに酸欠なのか徐々に何も考えられなくなってきた。

 私からの抵抗がなくなるとアレス殿下が唇を離した。そして私の目を強く見つめながら口を開いた。


「もう一度言う。私の運命の相手はシルフィーだ」

「!」

「どうして彼女が運命の相手だと思ったのかは分からないけど、私がほしいのは彼女じゃなくあなたシルフィーだ」

「っ、で、でも」

「なぁ、どうすればこの想いが伝わる?今のじゃまだ足りないのか?それなら…」

「~~っ!つ、伝わりました!」

「…本当に?」

「ほ、本当です!」


 私の顔は真っ赤に染まっているだろう。脳に酸素が行き届くようになり思考が鮮明になってくると、先ほどの口づけを思い出してしまう。


 (あ、あんなに情熱的で激しいキス…!)


 アレス殿下は誠実な人だ。そんな人がここまで本能的な口づけを好きでもない女性にするだろうか。もしヒロインに惚れていたら普通こんなことはしないはずだ。
 私の知っているアレス殿下に当てはめて冷静に考えればすぐに分かることだった。それなのに私はヒロインが現れたと聞いて目の前にいるアレス殿下のことを信じずに小説の内容だけを信じてしまったのだ。たしかに小説に出てくる国の名前や人物などは同じだが、私がこうして無事に生き残ったように小説とは違うことが起きている。もしかしたらこの世界は小説と同じようで違う世界なのかもしれない。


「それじゃあもう二度と私の元から去るなんて言わないね?」

「…はい」

「私はシルフィーだけを愛しているんだ。だからシルフィーも私だけを見てほしい」 

「…私でいいんですか?」

「あなたがいいんだ」

「…私も殿下を愛しています。ずっと側にいさせてください」

「ああ、もちろんだ」


 こうして話は無事に収まったのだが、今思い出しても恥ずかしすぎる。一人で勘違いをして騒ぎ立てるなど穴があったら入りたいくらいだ。

 その後よく話を聞けば、アレス殿下はヒロインと会っても何も感じなかったそうだ。むしろ私と出会った時は夢にまで出てきたらしい。ヒロインもアレス殿下に全く接触してこなかったらしく、むしろ教会の若き大司教によく話しかけていたそうだ。

 そして私とアレス殿下の婚約発表と同時にヒロインには聖女の称号が与えられることになっている。ヒロイン本人もそれで納得していると聞いて私はふと思った。


 (この世界のヒロインはもしかしたら私と同じく前世の記憶を持っているのかもしれない。そうじゃなくちゃ行動に説明がつかないもの)


 ヒロインに前世の記憶がなければアレス殿下の想いは別として、ヒーローに惹かれるはずだ。しかし彼女ヒロインアレス殿下ヒーローよりも小説でお助けキャラ的な役割の大司教に興味があるというではないか。この行動から私はヒロインが前世の記憶を持っているのではと思ったのだ。


 (…いつか落ち着いた頃に会えるようお願いしてみようかな)


 その願いは近い将来叶えられることになる。そして彼女ヒロインと親友になるなど、今の私はまだ知らないのであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。

七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。 妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...