国が滅ぼされる原因となる男のモブ妻ですが、死にたくないので離縁します!~離縁したらなぜか隣国の皇太子に愛されました~

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15 ハリス視点

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 少し場を和ませてから本題に入ろうという私の日和った考えなど殿下にはお見通しのようだ。もう腹を括るしかない。


「殿下に急ぎ報告することがございます」

「急ぎの報告?何かあったのか?」

「はい。実は殿下が視察に出掛けた日にシルフィー殿から相談されたのですが…」

「シルフィーから?何か仕事で問題でもあったのか?」

「いえ、そうではありません」

「では何を相談されたんだ?」

「その…仕事を辞めたいと相談されました」

「…どういうことだ?」

「っ!」


 一瞬にして場の空気が変わった。先ほどまでの朝特有の柔らかい雰囲気から一転して重苦しい雰囲気だ。息苦しく感じるほどである。しかし詳しく説明しなければと私は口を開いた。


「シ、シルフィー殿の話では仕事や人間関係が理由ではなく、えっと、その…」

「はっきりと言え」

「…新たな出会いのためだそうです」

「…なんだと?」

「その、シルフィー殿はもう一度婚姻をして子を生みたいと話しておりました。そのためには貴族や既婚者ばかりのこの仕事ではなく、皇都で働きながら相手を探したいそうです。それに年齢のことを気にされていたようでした」

「っ…」

「それでまずは私から殿下に伺いを立ててほしいと相談されたのです。シルフィー殿の反応を見る限り、できるだけ早く辞めたいような感じがいたしました」

「ハリスは彼女になんと言ったんだ?」

「ひとまず私から殿下に伝えるのでそれまでは待っているようにと伝えてあります」

「…そうか」

「いかがいたしましょうか」

「……私が対応する。ハリスからは何も言わなくていい。必要な時は声をかける」

「かしこまりました」

「…話はそれだけだよな?」

「はい」

「悪いが少し一人にさせてくれ」

「…かしこまりました。それでは失礼いたします」



 殿下の執務室から出た私は深く息を吐いた。殿下の侍従となって十年以上経つが、今日ほど緊張したことはない。殿下は基本的に穏やかな人柄であるが、好きな女性のことになると穏やかではいられないようだ。それだけ殿下がシルフィー殿のことを本気で想っているということである。ただできることなら私を巻き込まないでほしいとは思ってしまうが。


 おそらく数日のうちに何か動きがあるだろうと予想していると、報告してから二日後に殿下から指示があった。


「今日の仕事終わりに二人きりにしてくれ」


 そう指示された私はその日の仕事を彼女には多く、他の文官には少なく振り分けた。もちろん不自然にならない程度だ。そうして先に仕事が終わった文官たちが帰ったのを確認してから私も席を外した。


「殿下、準備が整いました」

「分かった。ハリスはこの部屋に誰も入ってこないように外で見張っていてくれ」

「かしこまりました」


 殿下はシルフィー殿のいる文官室へ、私は執務室の外扉の前へと移動するのだった。



 ◇◇◇



 そうして私は待ち続けいつの間にか夕日が沈み辺りが暗くなってきた頃、殿下とシルフィー殿が一緒に執務室から出てきた。私はすぐさま殿下の表情を確認する。殿下はとても優しい顔でシルフィー殿を見つめていた。どうやらうまく話は収まったようだ。


 (よかった…)


 これで数日ぶりに心穏やかに眠ることができるだろう。


「…ふぅ」


 私は二人に気づかれないようにそっと小さく息をつくのであった。
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