国が滅ぼされる原因となる男のモブ妻ですが、死にたくないので離縁します!~離縁したらなぜか隣国の皇太子に愛されました~

Na20

文字の大きさ
上 下
13 / 17

13

しおりを挟む



「…好き」

「えっ?」

「私、アレス殿下のことが好きなんです…!」

「な…」


 アレス殿下の瞳に戸惑いの色が生まれたが、私は気にせずにそのまま続けた。


「平民の私が皇太子である殿下にこのような気持ちを抱くこと自体が不敬だということは分かっています。それに殿下はいつか然るべきお方と結ばれるということも分かっているんです。それなのに私は殿下のことを…。だから仕事を辞めさせてください。お願いします…!」


 (どうかお願い…)


 私は祈るような思いでアレス殿下からの言葉を待つ。そして少し間が空いてからアレス殿下が口を開いた。


「…ダメだ」

「なっ!ど、どうしてですか!?」


 アレス殿下の答えに私は絶望した。正直に本心を話したのにも関わらず、私の願いは聞き入れてもらえなかったのだ。私はこれからもこの想いを抱きながら苦しまなければならないのか。そう思い泣きそうになっている私に殿下が問いかけてきた。


「本当にどうしてか分からない?」

「わ、分かりません!だって私の気持ちなんてただ迷惑で…」

「迷惑なわけない!」

「え…」

「私は初めて出会ったあの日からずっとシルフィーのことが好きなんだ」


 アレス殿下からの突然の告白に私は混乱した。初めて会った日なんて一年以上前のことなのに、その時から私のことを好きだなんてとても信じられない。


「う、そ…」

「嘘じゃない。父と母にはシルフィーを伴侶として迎える許可はもらっているんだ」

「えっ」

「でもシルフィーの気持ちが一番大切だから、離縁してまだ時間が経っていないあなたに私の想いを伝えても負担にしかならないと思ったんだ。それにまずは私のことを一人の男として意識してもらわないと、と思ってこの一年頑張ってきたけど…。その努力が実ったって私はうぬぼれてもいいのかな?」


 私は夢でも見ているのだろうか。あまりの展開にこれが現実なのか、ただの自分の願望なのか分からなくなってきた。だってアレス殿下が好きになるのはヒロインのはずで、私のようなモブではない。でも目の前のアレス殿下は私のことを好きだと言ってくれた。それなら夢だろうが現実だろうが、私もうぬぼれてしまってもいいのだろうか。


「…私も殿下と同じ気持ちだって、うぬぼれてもいいですか?」

「っ!シルフィー!」

「えっ!で、殿下!?」


 突然壁から引き離されたと思ったら、気づけばアレス殿下の腕の中だった。ちょうどアレス殿下の胸に私の耳が当たっていて、心臓がすごくドキドキしているのが分かる。


「…殿下でもドキドキするんですね」

「っ!…当たり前だろう?好きな女性とようやく想いが通じ合ったんだから」

「殿下ほどの男性なら余裕なのかと思っていました」

「余裕なんてあるわけない。本当はシルフィーの前では格好つけていたいけど…。今は無理そうだ」


 そう言ったアレス殿下の私を抱きしめる力が強くなる。くっつきすぎてもうどちらの心臓の音だか分からない。ただ分かることは私の顔は真っ赤に染まっているということ。抱きしめられているのでアレス殿下の顔を見ることはできないが、彼は今どんな顔をしているのだろうか。


 (き、気になる…)


 どうしても気になってしまった私はそっと上を見上げた。すると私を愛しそうに見ていたアレス殿下と目が合ってしまった。


「っ!」

「…シルフィー」


 腕の力が弱まり身体が引き離される。寂しいと思ったのも束の間、アレス殿下の発言に心臓が跳ねた。


「キス、していい?」

「えっ!」

「…ダメ?」

「で、でも、ハリスさんが戻って…」

「ハリスなら戻ってこないよ。ハリスがこの場を用意してくれたからね」

「~っ!…ずるいです」

「どうしても二人きりになりたかったんだ。…シルフィー、いい?」


 ダメなんて言えないし、言いたくない。

 もうこの状況は小説の内容とはずいぶんとかけ離れてしまっている。もしかしたらアレス殿下とヒロインが結ばれる結末を変えてしまったのかもしれない。でももうここまできてしまったのだ。あとは流れに身を任せるしかないだろう。


「…はい」

「好きだ、シルフィー」

「んっ…」


 アレス殿下と私の唇が重なる。

 夕日はいつの間にか沈み、静寂が二人を包み込む。

 まるで世界に二人だけしか存在していないかのようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

白い結婚をめぐる二年の攻防

藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」 「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」 「え、いやその」  父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。  だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。    妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。 ※ なろうにも投稿しています。

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

処理中です...