9 / 17
9 アレスレイド視点
しおりを挟む「本当にありがとうございました!」
生誕パーティーから二日後。彼女が私に会いに王都の宿屋を訪れていた。
あのパーティーの後、この状況ではとてもここでは過ごせないと私はさっさと王城から出てきたのだ。私とマーガレット王女の婚約は即日破棄され、次の日には彼女の離縁と彼女の家族の爵位を返上することができた。私は離縁が成立したことを確認してから彼女に手紙を送った。『移住の件で話があるので宿屋で待っている』と。そして早速やってきた彼女の表情はとても晴れやかなもので、私はその表情を見ただけで胸が温かくなった。
「いや、あなたの願いを叶える約束だから当然のことさ」
「でも皇太子殿下のお力がなければ王命で決められた婚姻を解消することなんてできませんでした。それに家族も無事に爵位から解放されて今から移住するのを楽しみにしているんです」
「そうか」
「あっ、でも皇太子殿下は婚約を破棄されたんですよね…。その…私が言うのもなんですが、辛くないですか?」
どうやら彼女は自分と家族だけが喜ぶ結果になったのではと気にしているようだ。しかしそれは要らぬ心配である。
「いいや。全く辛くないから気にしないでくれ。この婚約は政略だったし王女とはあまり交流していなかったからね。むしろ婚約破棄できて嬉しいくらいさ。私だってできることなら好きな人と結ばれたいからね」
「えっ!?!?殿下にはすでに好きな人がいらっしゃるのですか!?」
「…驚きすぎじゃないか?」
「え、あ、いや!わ、私なんかが聞いていい話なのかなぁーって!あははは…」
彼女の反応を見るに彼女が私のことを恋愛対象として見ていないことが分かる。その事実に少し気分が落ちそうになったがまだ出会って一ヶ月も経っていないし、彼女は離縁したばかりだ。これから少しずつ私を意識してもらえるようにしていくしかない。それに焦っては何事もいい結果はでないだろう。
「まぁいいさ。…これから覚悟しておいてくれ」
「え?覚悟?」
「いや、こっちの話さ。それで移住の件なんだけど」
「あっ、はい!」
「移住するのに必要な移動手段と住む場所は準備ができているんだ」
「えっ!そ、そんな!移住の許可をいただけただけで十分なのに…」
「あなたは私の、バーミリオン帝国皇太子の命の恩人だ。これくらいは当然のことさ」
「でも…」
「それにあなたは治癒能力の持ち主だ。あなたの秘密を知るのはあの場にいたハリスと医者、それと私の父と母である皇帝と皇后だけだが何があるか分からない。どうかあなたとあなたの家族を私に守らせてはくれないか?」
「…!」
「ダメかい?」
「…」
「シルフィー?」
「そ、そういう言い方はず、ずるいです!それに名前も…」
「シルフィーも私のことアレスと呼んでくれてもいいんだよ?」
「~っ!…で、では!移住の件はありがたくお受けしたいと思います!」
シルフィーは顔を赤くしながら慌てた様子だ。名前を呼んでもらうことはできなかったが、これで少しは私のことを意識してくれただろうか。
「くくくっ…。ああ、それでいい。では出発する日時についてだが――」
その後はきちんと移住について説明をした。あまり最初からやり過ぎるのはよくないだろう。
「――説明は以上だけど何か分からないことはあるかい?」
「いいえ。むしろ何から何までしていただいてありがたいくらいです」
「それならよかった。それと帝国に着いてから何かあれば私の元を訪ねてきてくれ。これを持っていれば私の客人だと分かるからね」
そう言って私は懐から指輪を取り出した。この指輪には皇太子である私の紋が刻まれている。
「これは?」
「これは私が信頼している者に渡しているまぁいわゆる皇宮に入るための許可証みたいなものかな」
「…本当ですか?」
「ああ、本当さ」
嘘だ。この指輪は私が生まれたことを祝って母から贈られたこの世に一つにしかない指輪だ。この指輪は大切な人ができたら渡しなさいと母から言われている。だから彼女に渡した。彼女が私の大切な人だと知らしめるために。
「…分かりました」
彼女は多少疑っていたようだがなんとか受け取ってもらうことができた。きっとこの指輪が私と彼女を再び繋ぎ合わせてくれるだろう。
そうして彼女との再会を終えた私はバーミリオン帝国へと帰還した。
帰還してすぐ父と母に改めての報告と共に彼女のことを伝えると、二人とも喜んでくれた。そして彼女を伴侶にすることも認めてもらえた。やはり治癒能力の持ち主ということが大きいだろう。それに私が初めて好きになった女性だ。両親は私の初恋を応援してくれるようだが、権力で無理やり手に入れるのではなく必ず相手の了承を得るようにと釘は刺された。
たしかに私の持つ権力を使えば簡単に彼女を手に入れられるだろう。だけど私は彼女と互いに想い合う関係になりたいのだ。そのためには彼女に私のことを好きになってもらわなければならない。
命の期限は伸びたが私はもう十八歳だ。婚約破棄したばかりだからとしばらく貴族たちは大人しくしているだろうが、時間が経てば自分の娘を皇太子妃にとうるさく言ってくるはずだ。いくら両親が認めてくれていたとしても私は次期皇帝である皇太子。あまり悠長にしている時間はない。
私は彼女との再会を待ちわびつつ、自分の望む未来を手に入れるための準備を始めるのであった。
◇◇◇
そしてそれから二週間後。
無事に帝国へとやって来た彼女は私の下で働き始めることになる。
今まで諦めるだけの人生だった私に新しい人生を与えてくれた愛しい人。
彼女との幸せな未来を手に入れるため、私は今日も仕事に恋に励んでいる。
1,276
お気に入りに追加
1,472
あなたにおすすめの小説
王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。
七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。
妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~
juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。
しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。
彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。
知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。
新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。
新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。
そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!
三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」
ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」
美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。
夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。
さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。
政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。
「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」
果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる