国が滅ぼされる原因となる男のモブ妻ですが、死にたくないので離縁します!~離縁したらなぜか隣国の皇太子に愛されました~

Na20

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7 アレスレイド視点

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「シルフィー殿の願いは意外でしたね」

「ああ。意外すぎて驚いたよ」


 彼女の口から語られた願いは私の予想とは全く違っていた。それに願いは一つだけだと思っていたが、まさか四つもあるとは。まぁ全て叶えることを約束したのだが。


「皇太子殿下の命を救ったのですからもっと国を巻き込むようなものかと思いましたが…。シルフィー殿はずいぶんと慎ましやかな女性でしたね」

「そうだな」


 彼女の願いは四つ。

 一つ目は彼女の離縁に協力すること。
 二つ目は彼女の生家の爵位の返上に協力すること。
 三つ目は離縁と爵位返上が済んだらバーミリオン帝国への移住を認めてほしいこと。
 そして四つ目は今回の件で罰するのは当人たちと王家のみとすること。


 私は一つ目の願いを聞いた時、心の中でホッとしたのを今でも覚えている。あの男を助けるためではなく、それどころか一刻も早くあの男と離縁したくて仕方がない彼女を見てなぜか嬉しいと思ってしまった。
 彼女とあの男の婚姻は王命によるもので、しかも彼女の生家はタリストン公爵家から資金援助を受けているので離縁することができなかったそうだ。だから私の力で離縁できるように協力してほしいとのことだった。これくらいなら今回の浮気の件があるので二つ目の願いと合わせて簡単に叶えることができるだろう。

 それにバーミリオン帝国への移住は別に私の許可など必要ない。離縁し爵位を返上すれば平民になる。貴族であれば問題があるだろうが平民が移住することは何の問題もない。だから三つ目の願いはあってないようなものだ。

 そして四つ目は至極当然のことだ。だけど彼女は自分や家族にまで飛び火しないようにしたいのだろう。ただ今回の浮気の件を知った父が怒り狂ってシャウト王国に戦を仕掛ける可能性は否めない。だから父にはうまく説明しなければならないだろう。

 彼女からの願いはこれだけで、本当にそれだけでいいのかと確認してしまったくらいだ。あとは治癒能力のことは秘密にしてほしいとお願いされただけだった。


「きっとシルフィー殿にとっては重要なことなのでしょうね。それとお帰りになる前に先日の無礼を謝罪したのですが、全く気にしていない様子でした。性格も貴族とは思えないほどさっぱりした方でしたが嫌な感じはしませんでしたね」

「…不思議な女性だったな」

「ええ。まぁ帝国に移住するにしても今度の生誕パーティーで会うのが最後になるでしょう。シルフィー殿が帝国で素敵な男性と出会って幸せになれるといいですね」

「…」

「殿下?」

「あ、いや。なんでもない」

「そうですか?では私はもう少し調査をして参りますので少しそばを離れます」

「…ああ、分かった」


 ハリスが部屋から出ていき一人になった私は先ほどからある胸のモヤモヤが気になり、隣の部屋にいる叔父の元へと向かった。病は治ったはずなのにこの二日間、胸が痛くなったりモヤモヤしたりする。私はまだどこか悪いのだろうか。



 ――コンコンコン


「どうぞ」

「今いいですか?」

「もちろん」


 快く迎えてくれた叔父と机を挟んで向かい合うようにしてソファに座った。


「どうしたんだい?彼女はもう帰ったんだろう?」

「ええ。…実はこの二日間彼女のおかげで病は治ったはずなのに、時々胸が痛くなったりモヤモヤしたりするんです。だからまだどこか悪いところがあるのでは不安になってしまって…」

「なるほど。…なぁアレス。胸が痛くなったりモヤモヤした時何か考え事をしていたんじゃないか?」

「え?…そう言われてみれば」


 私は叔父に言われて思い返してみると、確かに胸が痛くなったりモヤモヤした時は彼女のことを考えていた。でもそれが何か関係あるのだろうか。


「もしかして彼女のことを考えていたんじゃないか?」

「っ!」

「はははっ。その様子だと図星かい?」

「…どうして分かったんですか?」

「そりゃ可愛い甥のことなら何でも分かるさ。それにその症状にも心当たりがあるからね」

「やっぱりどこか悪いところが…」

「いやいや、違うからね。悪いところなんてないさ。むしろいいことだと私は思うよ」

「いいこと…?」


 私には叔父の言っていることがさっぱり理解できなかった。胸が痛くなったりモヤモヤすることのどこがいいことなのだろうか。


「アレス。今まで君は病のせいで色んなことを制限されてきただろう?あれもこれもダメだと。だからきっと心も無意識に色んなことを制限してきたんだと思うんだ。それが彼女のおかげで制限しなくてよくなった。今なら走り回ったり剣を振ったりすることもできる。そして恋をすることだってできるようになったんだ」

「…恋?」

「ああ。きっとアレスは彼女に惹かれているんだよ。彼女のことを考えると胸が痛くなったりモヤモヤしたりするのがその証拠さ」

「私が、彼女に、恋を?」

「そうさ。ほら、想像してみなよ。もしも彼女が他の男と仲睦まじくしていたらってね」


 恋という言葉に戸惑いつつも今頼れるのは叔父だけだ。だから叔父の言葉に従うことにした。


 (彼女が他のと親しくしていたら……っ!胸が苦しい…)


 あの笑顔が他の男に向けられていると考えただけで身体に異変を感じた。なぜか胸が苦しい。


「どうだい?何か感じたかな?」

「…胸が苦しいです」

「それが恋をしているってことさ。好きな人を思うと胸が痛んだり苦しくなったりする。それにその人のことが頭から離れなくなったりもするだろうね」

「っ!」

「おや、どうやらすでに心当たりがあるようだね」


 叔父の言うように夢の中で見た彼女の微笑んだ顔がいまだに頭から離れない。


「本当なら恋は自分で気づくべきだと思うけど、アレスは今まで限りある時間の中で生きてきたから、恋をする余裕なんてなかっただろう?」

「…」

「でも今は状況が変わった。アレスは近々婚約者がだろう?それに相手の女性も。だけど自分の気持ちに気づかないまま彼女は他の男と結ばれてしまうかもしれない。そうなってからでは遅いだろう?アレスは今までたくさん我慢してきたんだ。だから後悔してほしくないんだよ」

「叔父上…」

「まぁ私から言えるのはこれくらいかな。あとはアレス自身でよく考えてみるといいさ。それでもしも彼女に対する想いが恋じゃなかったとしても彼女は治癒能力の持ち主だ。彼女と彼女の家族の安全は必ず保障するんだぞ。それは皇太子であるアレスにしかできないことだ」

「…はい」


 それから私は自分の部屋に戻り、先ほど叔父に言われた言葉を考えていた。私は本当に彼女に恋をしたのだろうか。そう考えれば考えるほど彼女のことが頭から離れない。でもそれは彼女が命の恩人だからではとも思うが、それなら胸の痛みやモヤモヤに説明がつかない。


 (…これは恋、なのか?)


 次に彼女に会うことになるのはマーガレット王女の生誕パーティーだ。その時にもう一度彼女に会えばこの気持ちが何なのか分かるだろうか。
 生誕パーティーまではあと二週間ある。それまでは答えが出なくても、叔父が言っていたように彼女たちの安全は確保しなければ。それに父にも報告をしなければならない。

 そうして私は次に彼女と会う日まで答えを出すのを先延ばしにするのだった。


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