国が滅ぼされる原因となる男のモブ妻ですが、死にたくないので離縁します!~離縁したらなぜか隣国の皇太子に愛されました~

Na20

文字の大きさ
上 下
5 / 17

5 アレスレイド視点

しおりを挟む

 夢を見た。

 真っ暗闇でうずくまっている私の前に突如現れた一筋の光。

 私はその光に向かって走る、走る。夢の中なので息も上がらないし胸も苦しくない。

 光の元にたどり着いてその光に手を伸ばすと、辺り一面が暗闇から眩しいくらいの青空と花畑に変わった。


『っ…ここは?』


 私はあまりの眩しさに目を細めた。しかし不快ではない。むしろ今までに感じたことのない心地よさを感じるそんな場所だった。

 私は周りを見渡す。すると色とりどりに咲き誇る花畑の中に人の姿が見えた。


『…誰だろう?』


 私は無性に気になりその人に近寄っていく。近づいていくとその人が女性であることが分かった。


『あの…あなたは誰ですか?』


 私に背を向けるように立っている女性に声をかける。すると女性は私に気づいたようでこちらに振り向いた。

 栗色の髪に焦げ茶色の瞳の女性。

 どこかで見たことがあるような女性だなと思っていると女性が口を開いた。


『もう大丈夫よ』

『えっ?』

『さぁ、私の手を取って』


 女性はそう言って私に手を差し出してきた。

 何が大丈夫なのかさっぱり分からなかったが、私の勘がこの手を取らねば後悔すると言っている。

 だから私は言われるがまま女性の手を取ったのだがその瞬間、女性は光となって消えてしまった。


『っ!』


 そしてその光が私を包み込んだ。


『…あたたかい』


 身体中がぽかぽかと温かくなり、夢の中だというのに眠くなってきた。


『…一眠りするか』


 私はこの心地よさに身を委ねることにした。

 花畑に大の字になり目を閉じる。

 目を閉じて思い出すのは光になった女性のこと。

 女性は光となって消える直前、私に微笑んだ。

 その顔が頭から離れない。


 (あの女性は一体誰なのだろうか)


 そう疑問に思うも眠すぎてこれ以上考えられそうにない。


 (あとは起きてから考えればいいか…)


 そうして私は抗うことのできぬ睡魔に身を委ねるのであった。



 ◇◇◇



「…下!殿下!」

「っ…!」

「殿下っ!」


 誰かの呼び掛けで目を覚ますと、そこはシャウト王国で滞在している宿のベッドの上であった。


「…ハリス?」

「ああ、よかった…!」


 どうやら私のことを呼んでいたのは侍従のハリスだったようだ。しかも普段泣くことのない彼が涙で顔をぐちゃぐちゃにしていた。


 (一体何があったんだ?…ん?なんだか身体が軽いような…)


 私が自分の身体に違和感を抱いているともう一つの声が聞こえてきた。


「侍従殿、落ち着いてください」

「これが落ち着いていられますか!」

「…今から殿下の診察をしますからお静かにお願いしますね」


 どうやらこの部屋には医者もいたようだ。それにしても診察とは、と思ったところで自分が道端で具合が悪くなったことを思い出した。そしてそんな私に声をかけてきた女性がいたが、たしか栗色の髪に焦げ茶色の…


「っ!」


 私は勢いよくベッドから起き上がり周りを見回す。しかしいくら確認してもこの部屋には先ほどの女性はいなかった。


「で、殿下?どうかされましたか?」

「あの栗色の髪の女性はどこだ!?」

「あっ…、先ほどの女性でしたら殿下が眠られている間にお帰りに…」

「なん、だと…」


 きっと先ほどの女性と夢で見た女性は何か関係があるはずだ。それなのにもう帰ってしまった後だとは。私がその事実に呆然としていると医者から声をかけられた。


「殿下落ち着いてください。お身体に障ります。彼女でしたらまた二日後、様子を見にこちらに来ると仰ってました。ですよね、侍従殿」

「え、ええ、そのとおりです。…申し訳ございません。気が動転していたばかりにお伝えするのが遅くなりました」

「…!また会えるんだな?」

「はい。どうやら彼女は殿下に頼みたいことがあったようですから、間違いなくまた会えますよ」

「…そうか」

「では診察を始めましょうか」


 そうして医者に診察をしてもらうと、驚くことに私の病が治っていると言うのだ。


「それは本当か?」

「ええ、間違いありません。殿下ご自身も身体がいつもと違うように感じているのではありませんか?」

「あ、ああ。何て言えばいいのか、身体がとても軽く感じる」

「…やはり彼女の力は本物だったようですね」

「彼女の力?」

「はい。おそらく先ほどの女性は治癒能力の持ち主です」

「なっ!治癒能力だと!?」


 治癒能力とはどんな病気や怪我でも治すことのできるとても貴重な力だ。過去にはこの力を巡って国同士の争いが起こったこともあるくらいだ。能力の発現条件は不明で、分かっているのは発現するのは女性だけであるということ。同時に複数人能力を持つものが現れる時もあれば、数十年もの間現れない時もあると言われている。


「そんな貴重な能力を他国の人間に使うだなんて…。あの女性はそれがどれだけ危険なことか分かっているのか?」

「彼女は『危険は承知の上だ』と仰ってましたよ」

「うぅ…。私は殿下の命の恩人にとんだ無礼を…」


 どうやら彼女は危険を承知で私に接触してきたようだ。


 (しかしハリスはどれだけ彼女に失礼なことを言ったのか…)


 ただ医者が言っていたことが本当であれば、彼女は私に頼みごとをするため二日後にここへやってくる。それなら闇雲に彼女を探すより待っていた方が確実だろう。それにその間に私にはやらなくてはならないことがある。


「ハリス。彼女は二日後にまたここへ来るんだろう?その時誠意を持って謝れば彼女も許してくれるはずさ」

「で、殿下…」

「私もできることなら今すぐ会いたいが、彼女と会うまでの間にやらなくてはならないことがある。頼まれてくれるな?」

「っ!は、はい!」

「ではマーガレット王女の動向を調べるように。もちろん相手の男もな」

「かしこまりました」

「それと私の病のことと彼女のことはまだ父上に知らせるな」

「そ、それは…!」

「当然後で報告はするさ。だがまずは彼女の話を聞いてからではないとな。もしかしたら驚くようなことを頼んでくるかもしれないだろう?」


 私は口ではこう言いながらも、彼女の頼みはそんなに大それたたものではないだろうと思っている。理由は分からないが私の直感がそう告げている。
 それに夢の中で見たあの顔が今でも頭から離れない。なぜだか無性に彼女のことが気になってしまう。だから父に報告するのはもう一度彼女と会ってからにしたいと思ったのだ。


 (…女性に対してこんなに気持ちになるのは初めてだ)


 今までは命の期限があったからか私は女性にはあまり興味がなかった。婚約者であるマーガレット王女に対しては申し訳ないなという気持ちくらいで、女性として興味を持ったことはない。だからこそ誠実に接しようと思っていたのだが。


「彼女の話を聞いたら必ず報告するから心配するな。ひとまず今はマーガレット王女について調べるのが先だ」

「…分かりました。あの女性との話が終わったら速やかに報告させていただきますからね!」

「ああ」

「…では早速調査して参ります」

「頼んだぞ、ハリス」

「かしこまりました」


 そうしてハリスが出ていき部屋には私と医者だけになった。


「そういうことだから父上には黙っていてくださいね、叔父上」

「…はぁ、仕方ないな。可愛い甥の頼みを無下にはできないからな」

「ありがとうございます」


 そう、実はこの医者は父の弟だ。皇弟として皇室に籍を置きながらも医者として働いている。医者として一生を生きたいらしく、結婚は考えていないという。それに叔父の腕は確かで、これ以上信頼できる医者はいないだろう。


「彼女のことが気になるのかい?」

「っ!…ええ、まあ。命の恩人ですし…」

「ふふ、そうか。…ようやくアレスにも」

「叔父上?何か言いましたか?」

「いいや、何でもないさ。さぁとりあえず今は休みなさい。いくら病が治ったからと言っても今まで身体にかかっていた負担がなくなったわけではないだろうからね」

「…分かりました」

「何事も焦ってはうまくいかないよ。今は休む時だ。じゃあ私は隣の部屋にいるから何かあれば呼んでくれ」


 そう言って叔父も部屋から出ていった。

 私は一人静になった部屋で横になり目を瞑る。そして目を瞑って思い出すのはあの微笑み。


「二日か…。早く時間が過ぎ去ることを待ち遠しいと思うなんてな…」


 今までは少しでも時間が過ぎるのが遅くなればいいのにと思っていたのに、病が完治した今は早く彼女に会いたくて仕方がない。しかし今は休むのが最優先だ。万全の体調で彼女に会えるようにしなければ。

 そうして私は再び眠りに就いたのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子が元聖女と離縁したら城が傾いた。

七辻ゆゆ
ファンタジー
王子は庶民の聖女と結婚してやったが、関係はいつまで経っても清いまま。何度寝室に入り込もうとしても、強力な結界に阻まれた。 妻の務めを果たさない彼女にもはや我慢も限界。王子は愛する人を妻に差し替えるべく、元聖女の妻に離縁を言い渡した。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

『白い結婚』が好条件だったから即断即決するしかないよね!

三谷朱花
恋愛
私、エヴァはずっともう親がいないものだと思っていた。亡くなった母方の祖父母に育てられていたからだ。だけど、年頃になった私を迎えに来たのは、ピョルリング伯爵だった。どうやら私はピョルリング伯爵の庶子らしい。そしてどうやら、政治の道具になるために、王都に連れていかれるらしい。そして、連れていかれた先には、年若いタッペル公爵がいた。どうやら、タッペル公爵は結婚したい理由があるらしい。タッペル公爵の出した条件に、私はすぐに飛びついた。だって、とてもいい条件だったから!

「白い結婚の終幕:冷たい約束と偽りの愛」

ゆる
恋愛
「白い結婚――それは幸福ではなく、冷たく縛られた契約だった。」 美しい名門貴族リュミエール家の娘アスカは、公爵家の若き当主レイヴンと政略結婚することになる。しかし、それは夫婦の絆など存在しない“白い結婚”だった。 夫のレイヴンは冷たく、長く屋敷を不在にし、アスカは孤独の中で公爵家の実態を知る――それは、先代から続く莫大な負債と、怪しい商会との闇契約によって破綻寸前に追い込まれた家だったのだ。 さらに、公爵家には謎めいた愛人セシリアが入り込み、家中の権力を掌握しようと暗躍している。使用人たちの不安、アーヴィング商会の差し押さえ圧力、そして消えた夫レイヴンの意図……。次々と押し寄せる困難の中、アスカはただの「飾りの夫人」として終わる人生を拒絶し、自ら未来を切り拓こうと動き始める。 政略結婚の檻の中で、彼女は周囲の陰謀に立ち向かい、少しずつ真実を掴んでいく。そして冷たく突き放していた夫レイヴンとの関係も、思わぬ形で変化していき――。 「私はもう誰の人形にもならない。自分の意志で、この家も未来も守り抜いてみせる!」 果たしてアスカは“白い結婚”という名の冷たい鎖を断ち切り、全てをざまあと思わせる大逆転を成し遂げられるのか?

処理中です...