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4 アレスレイド視点
しおりを挟む私の名前はアレスレイド・バーミリオン。バーミリオン帝国皇帝である父と皇后である母との間に生まれた。私は生まれつき心臓に病を患っており、医者からは頑張っても二十歳までしか生きられないと言われていた。だけど父と母の間には私しか子がいない。父が母を深く愛しており、皇妃を娶らなかったからだ。周りからは皇妃を娶るよううるさく言われていたそうだが、父は最後まで首を縦に振ることはなかった。いざという時は皇室に残っている弟が皇帝の座に就けばいいと言い切り、周りを黙らせていたそうだ。
そんな私は病を抱えながらも順調に成長していく。時には寝込むこともあったが、あまり悪化することなく、すぐによくなることがほとんどだった。
だから油断したのだ。私もみんなと同じ生活を送れるのではないかと。
私は十歳の時にこっそり部屋から抜け出し、騎士の訓練場に向かった。私はずっと剣を振ってみたいと思っていたのだ。訓練場にある模擬剣を手に取り、見よう見まねで剣を振り下ろした。思ったより剣は重かったが、剣を振り下ろした時の感覚がなんとも堪らなかった。だから私は剣を振り続けてしまったのだ。自分の身体が病に侵されていることなど忘れて。当然私の心臓は悲鳴を上げていて、これでもかというほどドキドキしたと思うと息が苦しくなり、私はそのまま意識を失ってしまったのだった。
目が覚めた時にはベッドの上で、医者からは絶対安静が言い渡された。父には叱られ母には泣かれてしまった。この時は無理に身体を動かしたことにより、回復するまでにかなりの時間を要することになる。そしてその間に改めて私はみんなと同じことができない身体だということを嫌でも理解した。この身体のせいだと叫びたい衝動に駆られるが、そんなことをすれば父と母が悲しむことは分かっている。
特に母は私が幼い頃から夜遅くに私の寝室に来て、『こんな身体で生んでしまってごめんなさい』と泣きながら私の頭を撫でていくのだ。その時に辛いのは私だけではないのだと思い知らされた。だから両親を悲しませるようなことはしたくない。訓練場で倒れてからは何もやる気が起きず勉強もサボっていたが、このままでは自分がダメになってしまう。では一体自分には何ができるのかと考えた時、身体を動かすことはできなくても頭を使うことならできると気がついたのだ。それからは今まで以上に勉強に力を入れるようになる。もしも二十歳までしか生きられないとしても、バーミリオン帝国の皇子として生きた証を残したいと強く思ったのだった。
◇◇◇
それから月日が流れ、私が十六歳の時に婚約者ができた。相手は隣国であるシャウト王国のマーガレット王女だ。
長く生きることのできない私になぜ婚約者を?と疑問に思ったが、この婚約は皇室の血筋を残すためなのだと説明された。あれから父と母の間に子はできていない。父の弟はまだ皇室にいるが、年齢は父とあまり変わらないしいまだに独身を貫いている。おそらく父と私に気を遣っているのだろう。しかし現実は私が死ねば後継ぎがいなくなる。だから苦肉の策として私に子を設けさせようとしているのだ。
当然子を設ける行為は身体に負担がかかる。父と母は反対したようだが、貴族たちから上がる不安の声を無視することもできず頭を抱えたことだろう。その結果私に婚約者ができたのだ。婚姻はマーガレット王女が十八歳を迎えたらということに決まった。私とマーガレット王女は同い年。十六歳ではお互いに身体が未熟で負担が大きくなるだろうからと、二年間の婚約期間が設けられた。
しかし私はあと数年で命を落とす身。だからあえてマーガレット王女と交流を持たなかった。ひどい男と思われるかもしれないが、あまり関わりを持たない方が私がいなくなった時に辛い思いをしないで済むと思ったからだ。それにこの婚約は政略である。王族として育った王女なら事情を理解した上で嫁いできてくれると思っていたのに、まさか浮気をしているなんて夢にも思っていなかった。
私はマーガレット王女より一足先に十八歳を迎えた。そして一ヶ月後には王女も十八歳を迎える。この二年間何度か手紙のやり取りをしただけでほとんど交流をしてこなかった。しかし一ヶ月後には夫婦になるのだ。十八歳を祝う生誕パーティーくらいは顔を出した方がいいだろうと考え、体調のこともあるからとパーティーが開かれるより早くにシャウト王国へと向かうことにしたのだった。
そしてそこでマーガレット王女の浮気を知り、さらに旅の疲れもあったのか具合が悪くなり道端でしゃがみこんでしまったのだ。当然護衛や従者は連れていたが、何せここはバーミリオン帝国ではなく右も左もわからないシャウト王国だ。それにお忍びで王都に滞在していたのでシャウト王国側は私がすでにこの国に来ていることを知らない。一緒に連れてきている医者も今は宿にいる。
このままではまずいと思った時、突然声をかけられた。
「あのぉ…大丈夫ですか?」
私は何とか顔を上げ、声をかけてきた人物に目を向けた。私に声をかけてきた人物は女性で年齢は私と同じか少し上くらいだろうか。栗色の柔らかそうな髪に焦げ茶色の瞳からは私を本気で心配しているのが伝わってくる。
「っ!」
そしてなぜか彼女は私の顔を見て驚いていた。この反応を見るに私がバーミリオン帝国の皇太子であることを知っているようだ。しかし驚いていたのも一瞬のことで、次の瞬間には驚いた表情から真剣な表情へと様変わりしていた。
「具合が悪いんですよね?今すぐ横になった方がいいです!すぐそこに宿屋があるのでそこでひとまず休みましょう!護衛の方!この方を抱えてください!悪いようにはしません!この方に何かあれば私を罰しても構いません!だけど今は一刻を争います!どうかお願いします!」
そう言って彼女は頭を下げた。護衛も従者も困惑しているが確かにこのままこの場に居続けるのは危険だ。私は何とか声を絞り出した。
「かの、じょの、いうとおり、に、してくれ…」
「し、しかし!」
「たの、む…」
「くっ…分かりました!おい!この方に何かあればただでは済まないからな!」
「それくらい分かっています!こっちです!急いで!」
「っ…」
そうして私の意識はここで途絶えてしまう。やはり身体的にも精神的にも負担が大きかったようだ。
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