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しおりを挟む――一ヶ月後。
「バーミリオン帝国を愚弄した罪は重い!よって私はマーガレット王女との婚約を破棄する!」
今日はマーガレット王女の十八歳の生誕を祝うパーティーが行われていた。しかしパーティーの終盤、突如手を縛られ口に猿轡をされたパーティーの主役であるマーガレット王女とタリストン公爵がバーミリオン帝国の騎士に捕らえられパーティー会場に放り投げられたのだ。どうやら彼らはこのパーティーに皇太子が参加しているのにも関わらず不貞行為を行っており、そこを現行犯で捕らえられたようだ。二人の衣服は乱れており王女に至っては目のやり場に困るほどに乱れている。それに婚約破棄を宣言した皇太子からはとても病を患っているとは思えない威厳が漂っていた。
「そしてこの事実を知りながら放置していたシャウト王家の罪も重い。バーミリオン帝国に歯向かうなど自ら死にたいと言っているようなものだ。そんなに死にたいのならその願い叶えてやることにしよう」
「そ、そんな…!」
「ど、どうかお許しください!私たちは何も知らなかったのです!」
「はっ、さらにここで嘘を重ねるとは本当に愚かだ。私が何も知らないとでも思っているのか?馬鹿にするのも大概にしろ!」
「ひっ…!も、申し訳ありません!そのようなつもりは…」
「そもそも不貞の証拠が目の前にあるのだ。言い逃れはできないぞ」
「くっ…」
「ここまでバーミリオン帝国を虚仮にしたのだ。本当なら貴様たちを国ごと滅ぼしてやりたいところだが、条件を呑めば国が存続することは許してやる」
「ほ、本当ですか!」
「当然だ。私はお前たちと違い嘘は吐かないからな」
おそらく国王は条件を呑めば自分たちは助かるとでも思っているのだろう。だが皇太子は言っていたではないか。国が存続することは許すと。要するにシャウト王国という名前は残るが、実質帝国の属国となるということ。そして今の王家はなくなるということだ。あまりにも一方的だと思うかもしれないが、それだけシャウト王国とバーミリオン帝国の国力が違いすぎるのだ。
「そ、それで、条件とは…」
「一度しか言わないからよく聞け。まず一つ目は王女と不貞相手の男の身柄をこちらに渡すこと」
「…はい」
「二つ目はその不貞相手の男と婚姻中の者を即刻離縁させること」
「えっ?は、はい…」
「そして三つ目はロイター伯爵家の爵位返上を受け入れること」
「なっ!そ、それは今回のこととは関係な」
「大いに関係があるさ。だがそれをわざわざ教えてやる必要はないだろう?それにお前たちは私に許しを乞う身だ。そのことをゆめゆめ忘れるなよ?」
皇太子から放たれる威圧感がすごい。事情を知っている私でさえも圧倒されてしまいそうだ。
「っ!も、申し訳ございません!」
「お前たちが何を言おうと私の決定が全てだ。今回のことは父である皇帝陛下から一任されているからな。今言った条件が呑めないのであれば今すぐこの国を滅ぼすぞ」
「わ、分かりました…」
そう言って国王は条件を受け入れ項垂れるしかなかった。
こうしてマーガレット王女の生誕パーティーは断罪の場となり、シャウト王家は終わりの時を迎えたのだった。
◇◇◇
あれから少し時が流れた。
王女と夫の身柄は帝国に引き渡され、近々処刑されると風の噂で聞いた。前世の記憶を持つ私からすれば浮気くらいでと思わなくもないが、ここは前世とは違う世界だ。それに大国であるバーミリオン帝国を虚仮にした罪は重く、国同士の契約を反故にした報いは受けなければならない。むしろ皇帝も当人たちの処罰だけでよく納得してくれたくらいだ。皇帝は息子をとても大切にしている。もし皇太子に願い出ていなければ今頃シャウト王国は焦土と化していたかもしれない。
それと王女と夫の浮気を隠蔽したシャウト王家は解体され、王家の血を引く者はバーミリオン帝国にある修道院で一生を送ることになった。ただ国王と王妃だけはいまだに皇宮にある地下牢に入れられている。王家の処罰については特に願い出ていなかったのでこれは皇帝の判断だそうだ。国王と王妃以外の王家の者は、王女と夫の浮気を知らなかったことが証明されたので修道院送り程度で済んだらしい。それでも十分厳しい処罰だとは思うがシャウト王家の血を断つためには仕方がないのだ。もしシャウト王家の復興を望む者がいれば、今度こそシャウト王国はこの世界から完全に姿を消すことになるかもしれない。その可能性をゼロにするための処罰なのだ。だが国王と王妃の処罰は皇帝次第。私がそれを知る機会はやってこないだろう。そしてシャウト王国は名を変えバーミリオン帝国の属国となったのだった。
そして私は今バーミリオン帝国にいる。もちろん家族と一緒だ。
あの断罪パーティーの後、すぐに離縁と爵位返上が認められシャウト王国を出たのだ。バーミリオン帝国では平民として生きていかねばならないが、私には前世の記憶があるので家族ぐらいは養えるだろうと考えていた。しかしバーミリオン帝国に着いてみれば住む家も仕事も用意されていたのだ。住む家には使用人までおり、私も家族も驚いた。どうやら皇太子が用意してくれたようだが、ここまでしてもらう義理はないはず。私が願い出たあの夫との離縁と爵位の返上、そしてバーミリオン帝国に移住することを認めてもらえただけで十分なのだ。
前世の記憶を思い出したあのパーティーの後、私はマーガレット王女の生誕パーティーに参加するため早めにシャウト王国に来ている皇太子に接触したのだ。わざわざ病弱な皇太子自らシャウト王国に来たのは、病弱である自分に嫁いでくれるマーガレット王女に誠意を示すためだと小説に書かれていた。そしてしばらく王都に滞在していたとも書かれていた。しかしその誠意のおかげ?で浮気をしている王女と夫を見つけることになるのだが。私はその記憶を頼りに連日王都に足を運び、皇太子と接触することに成功したのだ。まあ接触したというより、具合が急に悪くなりしゃがみこんでいる皇太子に運良く出会えただけなのだが。
そして私は有無を言わさず近くの宿屋に連れ込み(もちろん従者も一緒だ)、父と母しか知らない秘密の力を行使したのだ。その秘密の力というのは治癒能力だ。この世界ではヒロインしか使えない能力のはずなのになぜだか私も使うことができるのだ。小説でもモブ妻にこんな設定があるなんて書かれていない。唯一考えられる可能性は私が転生者だからだろう。いわゆるチートというやつだろうか。
しかし治癒能力があると分かったのは私がまだ前世の記憶を思い出していない七歳の頃。父と母からはこの能力が世間に知られれば私の身に危険が及ぶから誰にも言ってはいけないときつく言い聞かされてきた。だから私はその言いつけを守り、誰にも言うことなく生きてきた。今思えば私をどこかの貴族にでも売れば金になっただろう。だけど父と母は私を売ることはなかった。むしろたくさんの愛情をかけて育ててくれたのだ。しかし戦争が起きれば家族は死んでしまう。そんなの到底受け入れられない。だから私は初めて父と母の言いつけを破り、皇太子に治癒能力を使ったのだ。それに皇太子だって命を助けてもらった相手を無下にはしないはず。
結果私は賭けに勝ち、望んだ未来を手に入れることができたのだ。
そして私は家族と幸せに暮らしましたとさ。
となるはずだったのだが…
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