16 / 19
16
しおりを挟む卒業パーティーは学園内にある大ホールにて行われる。
会場に着いた私はベラの手を借りて馬車から降りた。元々時間がなかったところを急いで準備したので時間ギリギリになってしまった。そのせいか会場の外には参加者らしき人は誰もいない。私は急いで入り口に向かい会場内に入った。
「ミレイア・ノスタルク様のご入場です」
その声に会場にいた人達が一斉に私を見た。
(これだけは何回経験しても慣れないわね…)
そしていつもならここで
『あら、またお一人よ』
『エスコートしてもらえないなんて恥ずかしくて耐えられないわ』
『あのドレスはいつの時代のかしら』
『孤児に王太子妃はふさわしくないな』
『王太子殿下とリリアン様の仲を引き裂く悪女め!』
などと皆が笑いながらわざと私に聞こえるように言ってくるのだ。
それを聞こえないフリをして過ごすのがいつもなのだが今日はなんだか様子が違う。
「あれがあの女なの…?」
「素敵なドレスだわ」
「美しい…」
聞こえてきたのはいつもの嘲笑ではなかった。
戸惑いと驚き、一部では感嘆の声も聞こえてきたのだ。
(それもこのドレスのおかげね。それにメイクと髪型も違うからかしら。私自身は何も変わっていないのにここまで違うなんて笑えるわね)
しかし誰かが近寄ってくる訳でもなくチラチラとこちらを見てくるだけで、いつもと違う視線になんだか落ち着かなかった。
そうして居心地の悪い中パーティーが始まるのを待っているとようやく最後の入場者達がやってきたようだ。
「王太子殿下ならびにリリアン・ノスタルク様のご入場です」
「ランカ帝国第二皇子殿下のご入場です」
「国王陛下のご入場です!」
王太子殿下とリリアン、テオハルト様に国王陛下と続けて入場した。王族の入場が最後になるためこれでまもなくパーティーが始まるだろう。
参加者達は頭を下げて国王陛下からのパーティー開始の合図を待っている。
そして国王陛下が宣言した。
「これより卒業パーティーを始める!しかし始めるにあたって王太子から皆に伝えなければならないことがある。心して聞くように」
(あぁ今から始まるのね…)
国王陛下の言う伝えなければならないことというのは恐らく王太子殿下と私の婚約についてだろう。
しかしテオハルト様もいらっしゃる中でどのような理由で婚約を破棄するのだろうか。あまりに無茶な理由であればメノス王国に対する帝国からの評価が一気に地に堕ちるだろう。
その危険性を誰も指摘しなかったのか、それともテオハルト様をも納得させるだけの理由があるのかどちらかだ。
「皆のものよく集まってくれた!このパーティーは学園の卒業を祝うめでたいものだ。私も参加できたことを嬉しく思う。しかし!この場にふさわしくない人間が混ざっていることが残念でならない。しかもその人間は罪人である!よってこの場で断罪を行い罪人を排除し終えてからパーティーを始めることとするっ!…ミレイア・ノスタルク!前に出てこい!」
王太子殿下に呼ばれれば前に出ないわけにはいかないのだが私が罪人とはどういうことなのか。
(婚約破棄だけじゃないの?断罪って一体何をされるの…?)
婚約破棄されることは予想していたが罪人や断罪という言葉が出てくるとは思っていなかった私は動揺しながら前へと出た。
「ふん!罪人のくせにそんな上等なドレスを着ているなんてどういうことだ?まさかリリアンから盗んだのか!?」
「っ!お、おねえさま、盗みも働くなんてっ…!家族はみんな信じていたのにひどいわっ」
リリアンは私が着ているドレスのことなど知らないはずなのに私を盗人扱いしてきた。どうしても私のことを排除したいのだろう。
「…このドレスは贈り物でいただいたものです」
「はっ!誰がお前なんかにドレスを贈るというんだ!」
「ガイアス様っ!もしかしたらおねえさまは他の男の人と関係があるのでは…?」
「なんだと!?罪を犯すだけでなく不貞だと!?なんて女なんだっ!」
このドレスはテオハルト様からの贈り物だ。知らないからといって二人の態度はあまりにも不敬である。
「このドレスはある高貴な方からの…」
「言い訳はいい!罪人の言葉など信じられるかっ!しかしこの罪も追加しなくてはな!」
私が何か言ったところで聞き入れてくれないようだ。そして王太子殿下は私の罪について話し始めた。
「そもそもお前は卑しい孤児だったにも関わらずノスタルク公爵を騙して養子になったそうだな!『自分には帝国の高貴な血が流れているから引き取らないと王国に何が起こるかわからない』と脅してな!確かにお前の色は王国では見かけないがこんな嘘をついてまで公爵令嬢になろうとするなんてあまりにも卑しい!さすが孤児だっただけあるな」
「なっ…!」
私は決してそんなことは言っていない。むしろ公爵がお金を積んで無理矢理私を孤児院から引き取ったのだ。
私はハルが迎えに来ると信じていたから孤児院から出たくなかったのにだ。
「だよな、公爵?」
すると公爵が前に出てきて自分は被害者だというような口振りで話し始めた。
「はい、おっしゃる通りです。王国は帝国と友好を結んでいることは皆が知っていることだと思う。だがこの娘は『私を養子にしなければ帝国との友好はなくなる』と脅してきたのです。それに自分は"祝福の一族"だとも…」
ーーザワザワ
会場がざわつきはじめた。それもそうだろう。
帝国の名前が出てきただけではなく聞きなれない"祝福の一族"という名前も出てきて参加者達は戸惑っているのだ。
「知らないものも多いだろうが祝福の一族とはランカ帝国に実在する公爵家のことだ。そんな畏れ多くも高位の存在に成り済ましてまんまとノスタルク公爵家の養子になり、それだけでは飽きたらず無理矢理私の婚約者になったのだ。私には想い合っているリリアンがいるというのにっ!」
「私は王国と帝国の友好を守るためにこの娘を養子にするしかなかったのです…!しかし偽物だとはっきりと分かった今、この娘を許すことはできません!よってこの場でノスタルク公爵家当主としてミレイア・ノスタルクとの養子縁組を解消する!これでお前はただの孤児だっ!」
公爵はどこかから取り出した書類を掲げながら宣言した。きっとこの日のために以前から用意していた養子縁組解消の書類だろう。
「私の婚約者ひいては未来の王太子妃が孤児などあってはならない!ミレイア・ノスタルク、いや大罪人ミレイア!お前との婚約は破棄する!そして新たな婚約者をリリアン・ノスタルク公爵令嬢とする!」
「ガイアス様っ!」
養子縁組の解消と婚約破棄を言い渡された私を王太子殿下とリリアン、そしてノスタルク公爵がニヤニヤと見ている。その奥では公爵夫人とロバートも同じような顔をしているのが見えた。
あの人たちは私の絶望した顔を見れるとでも期待しているのだろうか。
(たしかに驚きはしたけど、それだけだわ。いつかこんな日が来ると分かっていたしそもそもあの人たちに期待なんてしていなかったのだからなんとも思わない。…ただテオハルト様が私のことどう思っているのか。あの人たちの話を信じて嘘つきだと思われてしまったかしら…)
「…」
なんの反応も示さない私に痺れを切らしたのか王太子殿下が叫んだ。
「お前はことの重大さが分かっていないようだな?お前は帝国の貴族だと身分を偽ったのだ!これは帝国に対する侮辱だ!そして今ここには帝国の皇族であるテオハルト殿下がいらっしゃる!お前の犯した罪は王国と帝国の友好を壊そうとしたも同然だ!よってお前を地下牢に幽閉する!すぐに処刑されないだけありがたいと思うんだな!」
そして王太子殿下は私に近寄り耳元でこう言った。
「俺とリリアンのために死ぬまで働いてくれよな」
「…」
(あぁそういうことなのね)
王太子殿下は今までも私に仕事を押し付けてきていることから分かるように執務能力が乏しい。それにリリアンも優れているのは見た目だけで頭は良くないのだ。
そんな二人が真面目に仕事をするわけもない。
そこでちょうどいいのが私だ。
国王陛下も何も言わないことから了承済みなのだろう。私はこれからただただ国のために飼い殺される運命なのだ。
204
お気に入りに追加
1,268
あなたにおすすめの小説

手順を踏んだ愛ならばよろしいと存じます
Ruhuna
恋愛
フェリシアナ・レデスマ侯爵令嬢は10年と言う長い月日を王太子妃教育に注ぎ込んだ
婚約者であり王太子のロレンシオ・カルニセルとの仲は良くも悪くもなかったであろう
政略的な婚約を結んでいた2人の仲に暗雲が立ち込めたのは1人の女性の存在
巷で流行している身分差のある真実の恋の物語
フェリシアナは王太子の愚行があるのでは?と覚悟したがーーーー

公爵夫人は愛されている事に気が付かない
山葵
恋愛
「あら?侯爵夫人ご覧になって…」
「あれはクライマス公爵…いつ見ても惚れ惚れしてしまいますわねぇ~♡」
「本当に女性が見ても羨ましいくらいの美形ですわねぇ~♡…それなのに…」
「本当にクライマス公爵が可哀想でならないわ…いくら王命だからと言ってもねぇ…」
社交パーティーに参加すれば、いつも聞こえてくる私への陰口…。
貴女達が言わなくても、私が1番、分かっている。
夫の隣に私は相応しくないのだと…。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。
朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」
テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。
「誰と誰の婚約ですって?」
「俺と!お前のだよ!!」
怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。
「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します
ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」
豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。
周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。
私は、この状況をただ静かに見つめていた。
「……そうですか」
あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。
婚約破棄、大いに結構。
慰謝料でも請求してやりますか。
私には隠された力がある。
これからは自由に生きるとしよう。
君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。
みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。
マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。
そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。
※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる