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しおりを挟むテオハルト様と一緒に部屋に入ってきた使用人に見覚えがあった。
先ほどはいくつも箱を抱えており顔が見えなくて気付かなかったが、ベラと呼ばれた使用人はつい先日までこの屋敷で働いていたアンナだった。私の部屋をノックしてくれていた唯一のメイドが彼女だ。
「どうしてあなたが…?」
「驚かせてしまい申し訳ございません」
「ミレイア嬢すまない。これには事情があるんだ。今はあまり時間がないから話せないが後で必ず話すと約束する」
真剣な眼差しのテオハルト様がここまで言うのだから受け入れないわけにはいかないだろう。
たとえ卒業パーティーの後には私自身どうなるか分からなくてもだ。
「…分かりました。今は何も聞きません」
「ありがとう。では箱を」
「っ!これは…」
テオハルト様の指示に従いベラが箱を開けるとその中身はなんとドレスだった。しかもそのドレスは一目で高級品だと分かる代物で、ここメノス王国では見たことのない生地でできているように見える。
品の良い銀色の生地に鮮やかな緑色の繊細な刺繍が施されている。それにドレスに合わせた靴やアクセサリーも用意されていた。
「…すごい素敵」
「これをミレイア嬢に受け取って欲しいんだ」
「えっ!?こ、こんな素晴らしいものを私なんかが受け取るわけにはっ!それにまだ婚約者のいる身ですし…」
「迷惑になることは分かっているがどうしても受け取って欲しいんだ」
「でも…」
「このドレスは私だけではなく他の方からの贈り物でもあるんだ。ただ今はまだ名前を明かすことができないがその方々もミレイア嬢に受け取って欲しいとおっしゃっていた」
「…どうしてテオハルト様は私なんかにこんなによくしてくださるのですか?」
私は今までずっと疑問に思っていたことを口にした。どうせ今聞かなければ二度と聞くことは出来ないだろう。
一体どんな答えが返ってくるのだろうか緊張して待っていると
「…昔約束したから」
「えっ?」
「"レイ"を必ず迎えに行くってね」
「っ!?」
「ミレイア嬢、私はいつだって"レイ"の味方だってことを忘れないでくれ。…じゃあ会場で会おう。ベラ頼んだよ」
「かしこまりました」
そう言ってテオハルト様は部屋を出ていってしまった。そして私はベラになされるがままテオハルト様から贈られたドレスに着替えさせられていた。
しかし私は先ほどの言葉が気になりそれどころではない。
(私のことを"レイ"って呼ぶのは一人だけ。それに私にあの言葉をくれたのも一人だけだわ…。ねぇ、テオハルト様。あなたは"ハル"なの?それともただの偶然…?)
「…様、お嬢様!」
「っ!あ…どうしたの?」
「準備が終わりましたのでご確認をお願いします」
考え事をしていたらいつのまにか髪もメイクも終わっていたようだ。
この部屋に鏡はないはずなので鏡も用意してくれたのだろう。ベラにうながされて鏡の前に立つ。
「…これが私?」
「はい、とてもお綺麗です!」
鏡に映る私はまるで私ではないようだった。
ドレスは動く度にキラキラ輝いているように見える。ホルターネックのドレスなのでペンダントを着けたままでも大丈夫なようだ。
首もとには上品なエメラルドが煌めいている。
靴もドレスに合っていてとても素敵だ。
髪は緩く一つに編まれ、メイクは私を普段より大人っぽく見せてくれている。
「お嬢様、そろそろ馬車が来ますので参りましょう」
「…分かったわ」
馬車まで用意されてしまえばもう腹を括るしかない。どのみち嫌でも卒業パーティーに行かなければならないのだ。
それなら制服で行くよりドレスの方がいいだろう。後で一言言いたい気分ではあるがありがたく着させてもらうことにする。
(本当に素敵なドレス…。少し元気が出た気がするわ)
今から向かうパーティー会場には味方など誰一人としていないだろう。嘲笑の的にされるのは目に見えている。
だけどこのドレスのおかげで少しだけ強くなれたような気持ちになった。
(一人だけ味方がいるわね。…ハル。本当にあなたなの?)
聞きたいことは沢山ある。しかし今はそんな時間はない。
何かが起こるであろう卒業パーティーに向かう馬車に私は乗り込んだのだった。
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