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しおりを挟む本当なら今日は屋敷で朝から晩まで働かされるはずだった。学園でテオハルト様に構ってもらっている私が気に入らないリリアンが公爵夫妻に告げ口をしたからだ。
「おねえさまは最近調子に乗ってガイスト様の婚約者としての勤めをさぼっているのよ!ねぇお父様お母様、これっていけないことよね?おねえさまにちゃんと教えてあげて?そうじゃないとガイスト様が可哀想だわ…」
「あぁリリアン。それは王太子殿下の婚約者としてあってはならないことだ。よし今日はあいつが心を入れ替えるまでしっかり教育しなければな」
「そうね、それがいいわ。さぁリリアン、後の事は心配いらないから王太子殿下とのお茶会にいってらっしゃい」
「あ!そうだったわ!急がなくちゃガイスト様をお待たせしちゃうわ!それじゃあ行ってきます。…ふふ頑張ってね、おねえさま」
「…」
わざわざ私の目の前でやり取りをする必要はないのにこの家の人達はいつもこうだ。そうすれば私が傷つくとでも思っているのだろうが私が傷つくことはない。だって何も期待してない相手だから。身体的には辛いがそれだけだ。泣いたり怒ったりすることはない。この家の人達はいまだに理解していないようだが。
今日は食事も抜かれ一日中働かせられるんだなと思っていると屋敷の入り口が騒がしくなった。リリアンが騒いでいるのかと思ったら違ったようで執事が慌てて公爵のもとにやってきた。
「公爵様っ!ラ、ランカ帝国の皇子殿下がお見えです!」
「なんだと!?っ、い、急いで出迎えの準備を!」
「それが、その…」
「なんだ?何か問題があるのか?」
「ミ、ミレイアお嬢様に会いに来たと仰っていて…」
「なっ!」
(テオハルト様が私に会いに?)
「どう対応すればよろしいかと…」
「チッ!なんだってこんなやつを気にかけるんだ!…仕方ない。皇子殿下には体調不良で会えないと伝え」
「ん?誰が体調不良なんだ?」
「なっ!お、皇子殿下!?ほ、本日はどのような…」
「やぁ、ミレイア嬢」
「…テオハルト様、どうしてこちらに?」
テオハルト様は公爵には目もくれず私に話しかけてきた。今日は学園が休みの日だ。それなのになぜテオハルトがここにいるのかが分からない。それに今の私の姿はあまり見られたくなかった。
「ん?あぁせっかくの休みだからミレイア嬢に王都を案内してもらおうと思ってね。知らない者に案内されるよりクラスメイトのミレイア嬢に案内してもらった方が楽しくなりそうだと思ってさ。それにしてもここの使用人の対応が遅すぎるから待ちきれなくて中に入ってきてしまったよ、ははは」
最近一緒にいることが多かったからか、笑いながらもテオハルト様の目は笑っていないことに気がついた。
「使用人が大変失礼いたしました」
本来謝罪するべき公爵はテオハルト様に相手にされなかったことで呆然としており気付いていない。公爵夫人は謝罪などできないだろうから私が謝罪するしかない。私は頭を下げて謝罪をした。
「ミレイア嬢のせいじゃないから頭を上げて。これは当主の責任だよね、公爵?」
「っ!は、はいっ!大変申し訳ございませんでした」
「次からは客を待たせないようにしっかり教育した方がいいぞ。…それと公爵。なぜミレイア嬢は使用人の服を着ているんだ?」
「そっそれは…」
「…」
やはり気付かれてしまった。気付かれないわけないのだができることならこの姿をテオハルト様には見られたくなかった。
「む、娘が着たいとわがままを言いまして!その願いを叶えてやったまでです!」
「…はぁ、願いね。もういい。公爵のくだらない言い訳を聞くくらいなら早くミレイア嬢と出掛けるべきだったな。さぁミレイア嬢行こうか」
「お、皇子殿下!?お待ちくださいっ!む、娘には今日予定がありまして…」
「ほう、使用人の服を着て一体何の予定があるというんだ?言ってみろ」
「そっ、それはその…」
本当のことなど言えるはずもなく公爵は目に見えて焦っている。私は早くこの場から立ち去りたかったのでテオハルト様の提案に乗ることにした。
「テオハルト様。よろしければご一緒しても?」
「あぁもちろんだ。そのつもりで来たのだからね」
「…ありがとうございます。では参りましょう。公爵様、公爵夫人様行ってまいります」
「では行こうか」
そう言って私はさっさとこの場を後にした。
「なっ!ま、待て!」
「ま、待ちなさい!」
後ろから二人の叫ぶ声が聞こえたが振り向いて立ち止まったりしない。せっかくこの窮屈な屋敷から出られるのだ。まぁ帰ってきたら何かされるかもしれないが不思議とテオハルト様が隣にいてくれるだけで心強く感じた。
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