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しおりを挟むテオハルト様と昼食を共にしたあの日からなにかとテオハルト様が私を気にかけてくれているように感じる。
毎日昼食に誘ってくれるので最近は生徒会の仕事をしなくなった。していないというよりも押し付けられなくなったが正しいが。
ちゃんと王太子殿下がやっているかは分からないが私には関係ないことだ。
ただ本来なら婚約者がいるので他の男性と食事をすることは褒められたことではないが、相手はランカ帝国の皇子様だ。
だれも帝国の皇子相手に文句を言えるはずもない。それは王太子殿下にも当てはまるようで文句は言わないが私をよく睨んでいる。
それにしてもなぜテオハルト様は私によくしてくださるのだろうか。
休み時間や昼食も声をかけてくれて一緒に過ごすのだが不思議で仕方がない。私によくしても何の得もないのにどうしてだろうとは思う。けれどなぜかテオハルト様といると穏やかな気持ちになれるのだ。それにたまに懐かしさを感じたりもする。
皇子殿下に懐かしさを感じるなどおかしいと頭では分かっているのにそう思ってしまうのだ。
(ほら、今も笑った目元がハルに似てる。瞳の色は全く違うのに…)
ハルというのは孤児院でお別れした大好きだった友達だ。
ハルは私が六歳の時に孤児院にやってきた。
孤児院は親がいなかったり親に捨てられた子どもが入る施設で、私は道端に捨てられていたのを通りがかった人に拾われて孤児院にやってきたそうだ。
みんな似たような理由で孤児院にやってきた子どもばかりなのだがなんというかハルは違った。着ている服は薄汚れてはいたが質が良さそうだったし、髪も肌も私達とは違う。それになんといえばいいのか、纏っている空気が違うのだ。
私は幼いながらもハルは特別なんだと思った。そんな特別なハルと仲良くなれるか不安になったが、そんな不安を吹き飛ばすかのようにハルの方から声をかけてくれたのだ。
「えっと…わ、お、俺はハル。君の名前はなんていうの?」
「あっ!わ、私の名前はミレイア」
「ミレイア…。君のことレイって呼んでもいい?」
「う、うん!じゃあ私もハルって呼んでいいかな?」
「っ!も、もちろん!」
「えへへ、ありがとう。これから仲良くしてね、ハル」
「あぁ。こちらこそよろしく、レイ」
それから私達はいつも一緒に過ごすほどに仲良くなった。
だからハルに迎えが来てお別れをするのが本当に悲しかったことを今でも覚えている。
でも迎えが来るということは孤児院で暮らす子どもにとってすごくいいことだとも分かっていたから泣かずに笑ってお別れをした。
その時にハルから私のこれからの希望となる言葉とペンダントを貰ったのだ。しかしもうその言葉の輝きは消えてしまったが。
「…イア嬢、ミレイア嬢」
「っ!」
「どうかしたかい?」
「あ…」
昔のことを思い出していて今の状況を忘れていた。
今日はテオハルト様が留学してから初めての休日なのだがなぜか私を迎えにノスタルク公爵家にやってきて私を案内係にとあの屋敷から連れ出してくれたのだ。
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