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しおりを挟む私は今学園の図書室に来ている。何をしているかというと特に何もしていない。
今日は珍しく王太子殿下が学園に来ていないので生徒会の仕事を押し付けられずに済んだのだ。
なので思いがけず昼休みに時間ができたのだ。ただ何をすればいいのか悩んで思いついたのが図書室だった。
他の生徒達は昼食を食べている時間なので基本図書室には誰もいない。静かな場所で疲れた身体を少しでも休ませようと図書室にやってきたのだ。
しかし静かな場所で過ごしていると余計なことを考えてしまった。私はなんだか落ち着かなくなり図書室内を歩く。
もっとたくさん時間があれば本を読みたいなと思いながら歩いていると本棚から飛び出している一冊の本を見つけた。
せっかくなのでその本を手に取ってみる。どうやらランカ帝国の歴史書のようだ。
「…そういえば近々ランカ帝国から留学生が来るって話していたわね」
恐らくその話を聞いてこの本を手にした生徒がいたのだろうがしっかり本棚に収めずに行ってしまったのだろう。
本をパラパラとめくりながら流し読みしていく。
そもそもなぜこんな小さな国に留学することにしたのかやってくる留学生を不思議に思った。
ランカ帝国といえばここメノス王国から遠く離れているにも関わらずとても影響力が強い。なぜなら主食となる小麦のそのほとんどをランカ帝国から輸入しているからだ。
今のところは友好な関係を築いているが、もしもランカ帝国との友好に亀裂が入ることがあればこの国は飢え死にする人がたくさん出るだろう。
「わざわざこんな小国に留学するなんて何か特別な理由でもあるのかしら?…まぁ私には関係ないことね。…あら?」
本を読み進めていくと気になる文章があったのでページをめくる手を止めた。
「…『祝福の一族』?」
そのページにはランカ帝国に実在するという祝福の一族について書かれているようだ。
「『祝福の一族』には特徴があり、輝く銀の髪に新緑のような瞳を持つ…」
ーードクン
無意識に自分の髪に触れる。今はくすんでしまっているが昔は銀髪だったことを思い出して胸が跳ねた。それに瞳も新緑のようではないが緑色をしている。
「…一族に祝福を与えられし者は繁栄が約束されるだろう。…あぁ、だから私だったのね」
恐らく公爵はこのことをどこかで知ったのだろう。そして色味の似ている私を見つけ養子にしたのだ。そう考えれば公爵と公爵夫人の会話にも納得がいく。
私が本物の祝福の一族なのではないかと。
本物か偽物かは私自身も分からないがたしかにこの色味が珍しいのは間違いない。緑の瞳だけであれば学園でもちらほら見かけるが銀の髪はまず見たことがない。まぁ私の髪もくすんでいるので正確に銀髪だとは言いきれないが。
本物か偽物か分からなかったから最初の頃は本物である可能性を一応考慮した結果があの生活だったのだろう。
もしかしたら本物かもしれないからと。
しかし年が経つにつれて私の髪は徐々にくすみ祝福を与えるような兆しもないことから公爵は偽物と判断したのだろう。
ただ判断した時点ですでに王太子殿下の婚約者になっていたので私を追い出すことができずにいると考えるのが妥当だろう。
公爵の判断ミスによりいまだに私ら公爵家の養子ではあるが、簡単には追い出すこともできないのでこき使うことにしたのだ。
恐らく時が来れば王太子殿下の婚約者をリリアンに替えるはずだ。そして用済みとなった私は追い出される運命なのだろう。
この生活から解放されるのはいいことなのだが、追い出された後の行く当てがない。
孤児院に戻れる年齢ではないし恐らく無一文で追い出されるだろう。
長年の疑問がたった一冊の本でパズルのピースがはまっていくように解決したのだが、その後のことを考えると憂鬱な気持ちになった。
しかしふと一つ思いついたのが
「…ランカ帝国に行ってみるのもいいかもしれないわね」
今日初めて知った『祝福の一族』。
自分がその一族と関係があるかなど分からないがなぜかすごく気になるのだ。
もしも本当に追い出され自由になる日が来たら帝国に行ってみたいと思うのだった。
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