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50 イシス視点
しおりを挟む「団長~、もう無理ですよ!」
「無理ではないから大丈夫だ」
「自分が大丈夫じゃないんですー!」
ここは騎士団長室だ。絶賛引き継ぎ作業中である。
引き継ぎ相手は副団長であるギュストだ。ギュストは今三十歳で家族は妻と子どもが一人いる。今回私の退団に伴いギュストが騎士団長となることが決定したのだ。
口ではこんな頼りないことを言いながらもやるときはやる男だ。実力もあるし事務能力も高い。部下からも慕われているすごい男なのだ。
「私は知っているぞ。お前はやればできるやつだってな」
「こういう時に褒められても全然嬉しくないです!どうせ褒めるなら今までもっと機会があったはずなのになぜ今…!」
「さぁ手が止まっているぞ。あとこれとこれとこれを…」
「そ、そんなに無理ですって!ていうかまだ退団まで時間はあるじゃないですか!こんなに急いで引き継ぎする必要ないですよ!」
「む」
さすがに気づかれてしまったようだ。
確かにギュストの言う通りまだ退団まで時間はある。なのになぜこんな詰め込みのような引き継ぎをしているのかというと、それは私自身の時間を作るためだ。
結婚したら冒険者として活動するのだがいまだに私は冒険者登録すらしていないのだ。このままではルナの足を引っ張ってしまうかもしれない。そんなこと許されない。
ではそれならどうすればいいかと考えた時に引き継ぎを早く済ませてしまえば時間を確保できるのではとの考えに至ったのだ。そうしてその確保した時間で少しでも冒険者として活動すればルナの足を引っ張る可能性が低くなるだろう。
なのでギュストはそのための尊い犠牲なのである。
「…私のためだと思って頑張ってくれ」
「あ、これは絶対ルナ殿のためだ!まさか団長がここまで愛が重い人間だったなんて知らなかったし知りたくなかったー!」
「ほら口じゃなく手を動かせ」
「団長の鬼ー!」
こうして楽しくギュストと引き継ぎをする日がしばらく続くのであった。
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