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しおりを挟むそうして最初に始まったのは兄ラスターとの勝負だ。
兄は幼い頃から剣の才能に目覚め、今ではオーガスト領で父に次ぐ実力を持つと言われている。私も直接この目で兄の実力を見るのは八歳でこの家を出る頃が最後だ。あれから十年以上経った今、兄の実力はかなりのものになっているだろう。
(それでも勝つのはイシス様よ)
イシス様の戦いぶりを見るのは今日が初めてだが、初めて会った時よりも強くなっているように感じるのだ。もちろん私の希望も含まれているが私は兄よりもイシス様の方が強いように感じた。母もそう感じたようで
「あら、さすが騎士団長ね。ラス君もずいぶんと強くなったけど、まだまだ上には上がいるってことを学ぶいい機会だわ」
と私の隣で嬉しそうに言っていた。きっとこの勝負を経て兄がさらに強くなることを確信しているのだろう。
そしてその後すぐ勝負が決着した。
「そこまで!」
父の掛け声が訓練場に響く。
イシス様が兄の首もとに模擬剣を突きつけている。兄の手には模擬剣は無くなっており、地面に転がっているのが見えた。イシス様の勝ちである。
兄は悔しそうな表情をしているが脳筋であるがゆえ潔い性格をしている。この勝負でイシス様のことを認めたことだろう。
イシス様が剣を下ろし兄に握手を求めている。兄は何かを口にしながらもイシス様からの握手に応えていた。
「お兄様が素直なところは昔から変わりませんね」
「ふふ、そうね。昔は二人でいたずらをしてよく私達に怒られていたものね。それで必ず先に謝るのはラス君だったわ。逆にルナちゃんは最後まで私は知らないって…」
「も、もう、お母様!昔のことはちゃんと反省しているからイシス様には言わないでね!」
「えー、どうしようかしら?」
「お母様!」
「…あら、もう次の勝負が始まるわ。イシスさんは連戦なんだから少し休憩させてあげてもいいのにね」
「…お父様、大人げないですね」
「まぁ仕方ないわよ。可愛い娘が突然結婚したいと思っている男性を連れて来るって言い出すんですもの。これくらい許してあげて。あの人もルナちゃんが一生独りで過ごすよりも好きな人と結婚した方がいいって頭では理解しているのよ?ただ心の整理がまだできていないだけでね」
「そう、なんですか?」
「そりゃ大切な娘ですもの。心配するのは当然でしょ?」
どうやらメインは父との勝負のようだ。もちろん兄も私の心配をしているだろうが、ただ強者と戦いたかったのもあるかもしれないなと思いながらも父とイシス様を見守る。
まもなく勝負が始まるようだ。
「それでは、始めっ!」
兄の合図で勝負が始まった。
始めからお互いに全力で打ち合っている。お互いに長引くと不利になると分かっているのだろう。この勝負は早くに決着するかもしれない。
…そう思っていた私の予想とは裏腹にもう十分近く打ち合いが続けている。さすがに両者とも疲労の色が見えてきたが打ち合いの速度は変わらない。
「…すごい」
「ええ、私も驚いたわ。あの人相手だとイシスさんでも数分持つかどうかかと思っていたけど…。やっぱり愛の力ってすごいわね!」
「お、お母様ったら!」
「だってそうじゃない。実力は間違いなくあの人の方が上よ。それなのにイシスさんは互角に打ち合っている。それだけルナちゃんとの仲を認めてもらいたくて必死なのよ」
「イシス様…」
「ルナちゃんは本当に素敵な人を見つけたようで安心したわ。私は二人のこと応援しているわよ」
「お母様……あっ!」
いつまで続くのかと思われた勝負は突然終わりを迎えた。二人は動けなくなったわけでも急所に模擬剣を突きつけられているわけでもないが、全力での打ち合いに模擬剣が耐えきれなくなり両者とも同時に折れてしまったのだ。模擬剣も相当丈夫に作られているはずなのにそれが折れてしまうとは想像もしていなかっただろう。
「この場合はどうなるの?」
「そうね…。おそらく引き分けじゃないかしら」
「この勝負、引き分け!」
「ね?」
実戦では剣が折れても戦うことをやめるわけにはいかないが、この勝負は実戦ではない。それに使用できるのは剣だけだと最初に言っていたので使える剣が無くなった以上引き分けが妥当だ。
お父様とイシス様が握手しているのが見える。どうやらイシス様はお父様に認められたようだ。私は嬉しさから急いで二人の元へと駆け寄っていくのだった。
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