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しおりを挟むロイガート公爵様に促され私は向かいのソファへと腰を下ろした。公爵家のソファも座り心地が最高である。使用人がお茶とお菓子を置いて出ていくと応接室にはロイガート公爵様と執事の男性、そして私の三人だけとなった。
「さて、私はこれでも一応公爵として忙しい身でね。早速で悪いが本題に入らせてもらうよ。ああそうだ、この者は執事のレイノードだ。部屋に二人きりになるわけにはいかないからね。それでもいいかい?」
「はい、大丈夫です」
今回呼ばれたのは間違いなくイシス様とのことについてだ。やはり平民は相応しくないから身を引くようにと言われるのだろうか。そうドキドキしながら公爵様が話し出すのを待った。
「今日私がルナ君を呼んだ理由は大体理解しているかな?」
「…はい。イシス様とのことですよね?」
「話が早くて助かるよ。じゃあ単刀直入に聞こう」
――ゴクッ
やはり反対されるのだろうか。そう緊張して身構えていると扉の外が騒がしいのに気づいた。公爵様も気づいたようでチラリと扉を一瞥してからニヤリと口角を上げた。
「…思ったより早かったな」
「え?」
(屋敷内が騒がしくなることは想定内ってこと?)
「いや、こちらの話だ。では改めて聞こうか」
「っ!」
「ルナ君は…「ルナっ!」イシスと必ず結婚してくれるのかい?」
「えっ!?…へっ!?」
突然扉が開いてイシス様が現れたことにも驚いたが、ロイガート公爵様の発言にはもっと驚いた。
(だって公爵様の言い方だと、私とイシス様が結ばれることを望んでいるように聞こえるわ…)
私がしばし呆然としているとイシス様がこちらに駆け寄ってきた。
「ルナ、無事かっ!?」
「…」
「ルナっ!」
「あっ!は、はい!」
「兄上!これはどういうことですか!」
「くくくっ。どうもこうも見て分かるだろう?ルナ君とお茶を楽しんでいただけさ」
「そんな嘘に騙されるわけないじゃないですか!」
「なぁルナ君、イシスはこう言っているんだが君からも言ってやってくれないか?」
(あ、これは兄が弟をからかってるやつだ)
このやりとりを見た私はそう確信した。きっとロイガート公爵様はイシス様をからかって楽しんでいる。少し歳が離れているからか弟が可愛くて仕方がないのだろう。それに先ほどの質問には驚いてまだ答えていないが、私達のことを反対しようとは思っていないようだ。
何だか気が抜けた私は思わず笑ってしまった。
「ふふふっ」
「ル、ルナ?」
「ふふ…。申し訳ございません。お二人のやりとりを見ていたら何だか可笑しくなってしまって。イシス様心配しないでください。本当にロイガート公爵様とお喋りしていただけですから」
「でも…!」
「ほら、ルナ君もこう言っているだろう?それにイシスもいるからちょうどいい。ルナ君、先ほどの質問の答えを教えてくれないか?」
「!」
「さっきの質問とは…?」
公爵様の言う質問とは先ほどのイシス様と結婚する意思が私にあるのかということだ。
ロイガート公爵様は私が婚約破棄されていることを知っている。貴族令嬢は一度婚約破棄されてしまえば傷物として扱われ結婚するのは難しくなる。だから結婚を諦めるかどこかの家の後妻となるか修道院へ入るかがほとんどだ。
私の場合は結婚を諦めていた。もしも一生結婚できなくても夢を叶えることはできるからだ。しかしイシス様と出会った。最初は真面目でイケメンなお客さんとしか見ていなかったが、彼の誠実な態度や私に向けてくれる笑顔に徐々に惹かれていったのだ。以前の婚約者にはこのような想いを抱いたことがなく、自分でもこの想いをもて余してしまっているところにイシス様から告白をされたのだ。
結婚を諦めていたから最初は断ろうかと迷った。しかし私は自分で思っているより欲深い人間だったようで、できることなら結婚して自分の家庭を築きたい、私も家族のように仲のいい家庭を作りたいと想像してしまったのだ。
だから私が公爵様に返す答えはとっくに決まっている。
「はい。私はイシス様との結婚を望んでいます」
私はイシス様と幸せになりたい。
「なっ!?ル、ルナ?そ、それはどういう…」
「よくぞ言ってくれた!」
「あ、兄上!?」
「イシス、ルナ君はお前との結婚を望んでくれている。お前はどうなんだ?」
「わ、私はっ…。…ルナ」
「はい」
するとイシス様が近づいて跪き、私の手を取った。先ほどの公爵様の発言を待つより緊張してしまう。
「…ルナ。このような場になってしまったが、私の気持ちをしっかりと伝えたい」
「…はい」
「友達になってからたくさん話をしてルナのことを知ることができた。私はルナのことを知る度にもっとルナのことが好きになったんだ」
「イシス様…」
「私はこれからもルナと共にいたい。だから私と結婚してくれないか?」
先ほどまでの雰囲気が嘘のように部屋は静まりかえっている。イシス様の真剣な言葉は私の胸を打った。
(好きな人に想われるってとても幸せなことなんだ)
そして私は口を開く。
「はい。よろしくお願いします」
「っ!ルナ!」
私達二人は目の前に公爵様がいることも忘れ抱きしめあったのだった。
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