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 馬車に揺られることおよそ二十分。軽快に走り続けていた馬車が停まったことで目的地にたどり着いたことが分かった。少し待つと馬車の扉が開かれ、再び執事の男性の手を借りて馬車から降りた。馬車から降りて顔を上げ前を見るとそこには立派な屋敷があった。


 (さすがロイガート公爵家ね)


 ライージュ国に公爵家は二つある。一つがロイガート公爵家、もう一つがイグサン公爵家だ。イグサン公爵令嬢が新たな王太子の婚約者になったことは記憶に新しい。


 (そう考えると私は二つの公爵家とすでに関わりがあるのか。…本当人生って何が起こるか分からないものね)


 執事の男性に案内され屋敷の中へと足を踏み入れた。入り口には使用人達が並び私に向かって頭を下げている。


 (相手が平民であっても公爵様のお客さんだからかしら?ロイガート公爵家の使用人は教育が行き届いているのね)


 これだけでもロイガート公爵様の素晴らしさが分かる。そのまま後をついていくととある扉の前に案内された。


「こちらで旦那様がお待ちです」

「ありがとう」


 そして執事の男性はその扉を叩いた。


「旦那様、お客様をお連れしました」

「通せ」

「!」


 扉の外からでも分かる威厳のある声だ。しかしここで怯むわけにはいかない。私は意を決して扉の中へと進んだ。
 どうやらこの部屋は応接室のようだ。屋敷の中と同じでこの部屋の調度品もとても品がいい。公爵様はセンスもお持ちらしい。


「やぁ、待っていたよ」


 そしてソファにはイシス様によく似た男性が座っていた。年齢はイシス様より少し上のように感じる。それに似ていると言っても騎士団長であるイシス様とは体格がずいぶんと違っているが。


 (この方がロイガート公爵様…)


「お初にお目にかかります。ルナと申します。本日はお招き頂きありがとうございます」


 私は貴族令嬢時代に身に付けたカーテシーで挨拶をする。久しぶりだったので少し不安であったが身体はちゃんと覚えていたようだ。


「いや、こちらこそ突然すまなかったね。そうそう、君のことは何と呼べばいいのかな?」

「恐縮です。私は既に貴族籍を抜けておりますので今はただのルナです。どうぞお好きなようにお呼びください」

「ではルナ君と呼ばせてもらおう。さぁ立ち話もなんだから座ってくれ」

「ありがとうございます」
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