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37 イシス視点
しおりを挟む「あれは…公爵家の馬車?」
昨日の様子がいつもと違うルナが気になり、私は巡回と称して店の様子を窺っていた。副団長は「うわ、ストーカー…」などと失礼なことを言っていたので黙らせてきたが。
そうして様子を窺っていると一台の馬車が店の前に停まった。派手ではないが質のいい馬車なのが見て分かる。しかしもう一度馬車をよく見ると見慣れた家紋があることに気づいた。あれはロイガート公爵家のものだ。なぜロイガート公爵家の馬車がルナの店の前に停まっているのか疑問に思っていると、馬車の中からこれまた見慣れた人物が降りてきた。
「レイノード?」
レイノードとはロイガート公爵家に古くから仕えている執事だ。今は公爵となった兄を支えてくれている。そんな人物がどうしてここにと考えている内に店からルナが現れた。
「な、なんだ、あの可愛さは…!」
あまり近くで様子を窺うのはさすがに気が引けたので少し離れた場所から見ているのだが、今日のルナはいつもとは違いどこかのお嬢様の様に見える。
(いや、ルナは元は貴族令嬢だったな…)
友達になってしばらくした頃、ルナから話があると言われ彼女の過去を教えてもらった。元王太子の婚約者であったこと、セントミル国の王妃のこと、そして婚約破棄されてこの国に来たことを教えてくれたのだ。ルナは婚約破棄されたことでもう結婚は難しいと考えているようだが私は全く関係ないと思っている。確かに元王太子には腹が立つが感謝もしている。元王太子が馬鹿だったおかげでこうしてルナと出会えることができたのだ。だからルナの傷は私が癒すとその時に決めたのだ。
そしてルナはレイノードの手を借りて馬車へと乗り込み馬車は動き出した。おそらくロイガート公爵家の屋敷に向かったと思われる。これは間違いなく兄上の仕業だ。私に内緒でルナを呼び出したのだろう。
「くそっ!こうしてはいられない!私も急いで屋敷に向かわねば!兄上は一体何を考えているんだ!ルナ、どうか無事でいてくれ!」
もしもこの場に副団長がいればこう言ったであろう。「うわ、重い…」と。
しかしこの場には誰もいないので彼が止まることはなかった。
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