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 依頼を達成し無事に魔物食材を手に入れお店に帰ってきたある日のこと。
 店の前に質の良いタキシードを着た初老の男性が立っていた。おそらくどこかの貴族家の執事であると思われるが、そんな人が私の店に何か用事でもあるのだろうか。そう思ってその男性を見ているとあちらも私に気がついたようで私に近づいてきた。


「突然失礼いたします。あなた様はこちらのお店の店主で間違いありませんか?」

「はい、そうですが…」

「旦那様よりこちらをお預かりして参りました」


 そう言って男性は一通の封筒を私に手渡してきた。私は怪訝に思いながらもその封筒を受け取る。そして宛名を確認するとそこには私の本当の名前が記されていた。


「っ!」


 (宛名がルナリア・オーガストになっている…。この封筒の送り主は私のことをしっかり調べているようね)


 そして差出人を見てなるほどと納得した。差出人はレイシス・ロイガート。イシス様のお兄様だ。封筒を開けて中を確認するとどうやら公爵邸への招待状のようだ。おそらくイシス様とのことで呼ばれたのだろう。


「すぐに返事を書きますので少しお待ちください」

「かしこまりました」


 私は招待状を確認し、執事の男性に返事を書くので少し待っていてほしいと伝え店の中へと入った。鞄の中からペンと便箋を取り出し返事を書く。


 "ご招待ありがとうございます。会える日を楽しみにしています"と。


「では日時はまた後程ご連絡いたします」


 返事を渡すとそう言って執事の男性は帰っていった。おそらく二、三日の内に連絡が来るだろう。


 (それにしてもイシス様のお兄様はどんな方なのかしら。いつかは乗り越えなければいけない壁ではあるけれど…。このことはイシス様には黙っていよう)


 イシス様に言えば心配をかけるだけだろう。なので私はこのまま黙っていることにした。

 次の日はいつも通りお店を営業していたが特に連絡はなかった。イシス様もお店に来てくれたが、いつもと変わらない様子を見て彼はあの話を知らないのだろう。

 そして翌日。
 本来なら依頼を受けに行くのだがいつ連絡が来るか分からないので出掛けずに待つことにする。すると店の前に一台の馬車が停まった。おそらくロイガート公爵家からの馬車だろう。私は出掛ける用意を済ませ馬車へと向かった。服は品の良いワンピースを選んだ。今の私は間違いなく平民なのでこれで許されるはずだ。
 馬車の前にはこの間と同じ執事の男性が待っていた。


「こちらへどうぞ」


 そう言って差し出してきた手を借りて私は馬車へと乗り込んだ。


「ありがとう」


 男性にお礼を述べて前を向いて座る。男性は馬車の中に乗ることはなく御者の隣に座った。私が未婚の女性だから気を遣ってくれたのだろう。
 そして私は乗り心地の良い馬車に揺られながら、ロイガート公爵の待つ屋敷に向かうのだった。
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