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21 イシス視点

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 私は先ほど彼女の店で食べた料理の味を思い出した。
 とても分厚いトンカツを口に入れた瞬間、肉汁が溢れだし旨味が口一杯に広がった。そしてその肉汁の香りが鼻を抜け脳に衝撃が走ったのは忘れられない。言葉では言い表せない美味しさだった。あまりの美味しさに気になった私は彼女に尋ねたのだ。


「こんなに美味しいトンカツを食べたのは生まれて初めてだ。何か美味しさの秘訣でもあるのだろうか」


 すると彼女はこう言ったのだ。


「もちろんです!このトンカツにはオークキングの肉を使ってますからね!」

「は?オークキング?」

「そうです!」


 私の聞き間違いでなければオークキングとはオークという魔物の変異種で最上位の強さだったはず。
 それがなぜトンカツに?


「…王都では滅多に魔物の食材は入ってこないはずだ。ましてやオークキングの肉など絶対に入ってこない。それなのに一体どうやって?」


 魔物料理がとても美味しいのは知っているが、今まで食べた料理の中でもこのトンカツはずば抜けて美味しい。もはや完璧だとも言えよう。だから彼女がオークキングの肉だと嘘を吐いているとも思えないがとても信じられない。


「それは…。そうですね、今はまだ秘密ということにしましょうか」

「…なぜ?」

「うーん、特に理由はないですがせっかく団長様に私の魔物料理の美味しさが伝わったんですもの。是非とも美味しさの秘密を探りにまたこのお店に来てもらえたらなと思いまして」

「っ!また来てもいいのか?」

「ええ、是非来てください。あ、でもいつ営業するかは気まぐれなので無理にとは言いませんが…」

「む、無理ではない!また必ず来ると約束しよう!」

「ふふ、ありがとうございます!またお待ちしてますね」




 ◇◇◇




 そして店を出て今に至るのだ。


「笑顔が素敵で料理上手、それに秘密を持った女性…。きっとルナ殿はこれからたくさんの男性にモテるんでしょう。団長もうかうかしてはいられませんね」

「他の男性…。そ、それはダメだ!」

「でもルナ殿の方からまたお店に来て欲しいと言われているなら堂々と会いに行けるじゃないですか」

「っ!た、確かにその通りだが、本当に行ってもいいのだろうか?私が行って迷惑には…」

「大丈夫ですって!せっかくの縁を無かったことにしてもいいんですか?」


 今後私が店に行かなければ彼女との縁はここまでになってしまうかもしれない。それは嫌だと私の心が言っている気がした。


「いや、この縁は無かったことになどしない。それにまた行くとルナ殿と約束したんだ。約束は必ず守らなくてはいけないからな」

「そうです、団長!その調子です!」

「よし!次にルナ殿に会える日まで私は頑張らなくてはな!」

「はい!頑張りましょう!では早速この書類を…」

「ああ、任せておけ!」


 結局彼女に一目惚れをしたのかはまだ自分でもよく分かっていないが、また彼女に会いたいと思っている自分がいるのは間違いない。
 彼女の気まぐれでしか店がやっていないのであれば私が毎日通えばいいだけの話だ。


 そうして私があの店に通う日々はまだまだ続くのであった。
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