21 / 52
21 イシス視点
しおりを挟む私は先ほど彼女の店で食べた料理の味を思い出した。
とても分厚いトンカツを口に入れた瞬間、肉汁が溢れだし旨味が口一杯に広がった。そしてその肉汁の香りが鼻を抜け脳に衝撃が走ったのは忘れられない。言葉では言い表せない美味しさだった。あまりの美味しさに気になった私は彼女に尋ねたのだ。
「こんなに美味しいトンカツを食べたのは生まれて初めてだ。何か美味しさの秘訣でもあるのだろうか」
すると彼女はこう言ったのだ。
「もちろんです!このトンカツにはオークキングの肉を使ってますからね!」
「は?オークキング?」
「そうです!」
私の聞き間違いでなければオークキングとはオークという魔物の変異種で最上位の強さだったはず。
それがなぜトンカツに?
「…王都では滅多に魔物の食材は入ってこないはずだ。ましてやオークキングの肉など絶対に入ってこない。それなのに一体どうやって?」
魔物料理がとても美味しいのは知っているが、今まで食べた料理の中でもこのトンカツはずば抜けて美味しい。もはや完璧だとも言えよう。だから彼女がオークキングの肉だと嘘を吐いているとも思えないがとても信じられない。
「それは…。そうですね、今はまだ秘密ということにしましょうか」
「…なぜ?」
「うーん、特に理由はないですがせっかく団長様に私の魔物料理の美味しさが伝わったんですもの。是非とも美味しさの秘密を探りにまたこのお店に来てもらえたらなと思いまして」
「っ!また来てもいいのか?」
「ええ、是非来てください。あ、でもいつ営業するかは気まぐれなので無理にとは言いませんが…」
「む、無理ではない!また必ず来ると約束しよう!」
「ふふ、ありがとうございます!またお待ちしてますね」
◇◇◇
そして店を出て今に至るのだ。
「笑顔が素敵で料理上手、それに秘密を持った女性…。きっとルナ殿はこれからたくさんの男性にモテるんでしょう。団長もうかうかしてはいられませんね」
「他の男性…。そ、それはダメだ!」
「でもルナ殿の方からまたお店に来て欲しいと言われているなら堂々と会いに行けるじゃないですか」
「っ!た、確かにその通りだが、本当に行ってもいいのだろうか?私が行って迷惑には…」
「大丈夫ですって!せっかくの縁を無かったことにしてもいいんですか?」
今後私が店に行かなければ彼女との縁はここまでになってしまうかもしれない。それは嫌だと私の心が言っている気がした。
「いや、この縁は無かったことになどしない。それにまた行くとルナ殿と約束したんだ。約束は必ず守らなくてはいけないからな」
「そうです、団長!その調子です!」
「よし!次にルナ殿に会える日まで私は頑張らなくてはな!」
「はい!頑張りましょう!では早速この書類を…」
「ああ、任せておけ!」
結局彼女に一目惚れをしたのかはまだ自分でもよく分かっていないが、また彼女に会いたいと思っている自分がいるのは間違いない。
彼女の気まぐれでしか店がやっていないのであれば私が毎日通えばいいだけの話だ。
そうして私があの店に通う日々はまだまだ続くのであった。
103
お気に入りに追加
773
あなたにおすすめの小説
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
断罪されてムカついたので、その場の勢いで騎士様にプロポーズかましたら、逃げれんようなった…
甘寧
恋愛
主人公リーゼは、婚約者であるロドルフ殿下に婚約破棄を告げられた。その傍らには、アリアナと言う子爵令嬢が勝ち誇った様にほくそ笑んでいた。
身に覚えのない罪を着せられ断罪され、頭に来たリーゼはロドルフの叔父にあたる騎士団長のウィルフレッドとその場の勢いだけで婚約してしまう。
だが、それはウィルフレッドもその場の勢いだと分かってのこと。すぐにでも婚約は撤回するつもりでいたのに、ウィルフレッドはそれを許してくれなくて…!?
利用した人物は、ドSで自分勝手で最低な団長様だったと後悔するリーゼだったが、傍から見れば過保護で執着心の強い団長様と言う印象。
周りは生暖かい目で二人を応援しているが、どうにも面白くないと思う者もいて…
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。
そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。
そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。
「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」
そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。
かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが…
※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。
ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。
よろしくお願いしますm(__)m
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる