上 下
17 / 52

17

しおりを挟む

 そして一ヶ月半後、迎えた開店初日。
 私は最初のお客さんを笑顔で出迎えた。


「いらっしゃいませ!」

「っ!」


『ルナの気まぐれ食堂』はカウンター席が五つ、四人まで座れるテーブル席が三つほどのこじんまりとした店内だ。
 早速席に案内しようとお客さんに近づいて声をかけた。


「お一人ですか?よろしければカウンター席へどうぞ」


 そう声をかけカウンター席を案内したのだが、なぜかお客さんは入り口で立ち止まったまま動かない。一体どうしたのだろうと再び声をかけてみることにした。


「あの、どうかしましたか?」

「…はっ!も、申し訳ない!」

「どこか体調でも?」

「い、いや、そういうわけではない」

「それならいいんですが…。ではこちらの席にどうぞ」

「いや、私は客ではないんだ。実は…」


 どうやらこの男性はお客さんではないらしい。話を聞くと王都に新しくお店ができた場合は騎士団の人と顔合わせをする必要があるのだそうだ。


「そういう決まりがあるって知りませんでした」

「まぁほとんどは店に看板が掲げられたらすぐに営業を始めるから決まりを知らなくても問題なく顔合わせが済むんだが…」

「も、申し訳ございませんでした!看板を付けてすぐに出掛けてしまっていて…」


 私は頭を下げて騎士団の方に謝罪をした。知らなかったとしても決まりは決まりだ。決まりを守れなかったのだから謝る必要があるだろう。


「いや、無事に顔合わせできたんだ。だからもう頭を上げてくれ」

「…ありがとうございます」

「えーっと確認なんだが、あなたがこの店の店主でいいのか?」

「あ、はい!ルナと申します」

「ルナ殿…。店の名前はあなたの?」

「そうです。分かりやすい名前がいいかと思いまして」

「なるほど。いい名前だ」

「ふふっ、ありがとうございます!あ、そうだ!」


 お店の名前を褒められて嬉しくなった私はふと思い付いたことを言ってみることした。


「もしよかったらこのお店の初めてのお客さんになってもらえませんか?もちろんお代はいただきません!…どうですか?」

「えっ」

「やっぱりダメですか?…そうですよね。騎士様は忙しいし、ましてや平民が食べるようなものは…」

「ま、待ってくれ!ダメなんかじゃない!ぜひこのお店の最初の客にならせてくれないか?」

「!本当ですか!?」

「ああ、私でよければ」

「もちろんです!じゃあすぐに用意しますからこの席に座って待っていてください!あっ!騎士様、よかったらお名前を教えてもらえますか?」


 初めてのお客さんなのだ。是非ともしっかり覚えておきたくて名前を訪ねてみた。


「自己紹介がまだだったな。私の名前はイシス。イシス・ロイガートだ。一応騎士団の団長をやっている」

「!」


 なんとこの騎士様はただの騎士ではなく騎士団長だった。


 (どうりで強そうだと思った!それに騎士団長自らわざわざ確認に来てくれるなんてきっと真面目な人なのね)


 私がそんなことを考えていると心配そうな声が聞こえてきた。


「…驚かせてしまったか?」

「いいえ。ただ団長様はとても強くて真面目な方なんだなって思って」

「っ!」

「さぁイシス団長様!席に座って待っていてくださいね!はい、お水です」

「っ、魔法…!」


 団長様が座る席に魔法を使って水の入ったコップを置いた。団長様は驚いた様子だったが私は特に気にすることなく、急いで厨房に行き料理の準備を始めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】急に態度を変えて来られても貴方のことは好きでも何でもありません!

珊瑚
恋愛
太っているせいで婚約者に罵られていたシャーロット。見切りをつけ、婚約破棄の書類を纏め、友達と自由に遊んだり、関係改善を諦めたら一気に激痩せ。今更態度を変えてきましたが私の貴方への気持ちが変わることは金輪際ありません。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

もう長くは生きられないので好きに行動したら、大好きな公爵令息に溺愛されました

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユリアは、8歳の時に両親を亡くして以降、叔父に引き取られたものの、厄介者として虐げられて生きてきた。さらにこの世界では命を削る魔法と言われている、治癒魔法も長年強要され続けてきた。 そのせいで体はボロボロ、髪も真っ白になり、老婆の様な見た目になってしまったユリア。家の外にも出してもらえず、メイド以下の生活を強いられてきた。まさに、この世の地獄を味わっているユリアだが、“どんな時でも笑顔を忘れないで”という亡き母の言葉を胸に、どんなに辛くても笑顔を絶やすことはない。 そんな辛い生活の中、15歳になったユリアは貴族学院に入学する日を心待ちにしていた。なぜなら、昔自分を助けてくれた公爵令息、ブラックに会えるからだ。 「どうせもう私は長くは生きられない。それなら、ブラック様との思い出を作りたい」 そんな思いで、意気揚々と貴族学院の入学式に向かったユリア。そこで久しぶりに、ブラックとの再会を果たした。相変わらず自分に優しくしてくれるブラックに、ユリアはどんどん惹かれていく。 かつての友人達とも再開し、楽しい学院生活をスタートさせたかのように見えたのだが… ※虐げられてきたユリアが、幸せを掴むまでのお話しです。 ザ・王道シンデレラストーリーが書きたくて書いてみました。 よろしくお願いしますm(__)m

天才少女は旅に出る~婚約破棄されて、色々と面倒そうなので逃げることにします~

キョウキョウ
恋愛
ユリアンカは第一王子アーベルトに婚約破棄を告げられた。理由はイジメを行ったから。 事実を確認するためにユリアンカは質問を繰り返すが、イジメられたと証言するニアミーナの言葉だけ信じるアーベルト。 イジメは事実だとして、ユリアンカは捕まりそうになる どうやら、問答無用で処刑するつもりのようだ。 当然、ユリアンカは逃げ出す。そして彼女は、急いで創造主のもとへ向かった。 どうやら私は、婚約破棄を告げられたらしい。しかも、婚約相手の愛人をイジメていたそうだ。 そんな嘘で貶めようとしてくる彼ら。 報告を聞いた私は、王国から出ていくことに決めた。 こんな時のために用意しておいた天空の楽園を動かして、好き勝手に生きる。

落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~

しましまにゃんこ
恋愛
年若い辺境伯であるアレクシスは、大嫌いな第三王子ダマスから、自分の代わりに婚約破棄したセシルと新たに婚約を結ぶように頼まれる。実はセシルはアレクシスが長年恋焦がれていた令嬢で。アレクシスは突然のことにとまどいつつも、この機会を逃してたまるかとセシルとの婚約を引き受けることに。 とんとん拍子に話はまとまり、二人はロイター辺境で甘く穏やかな日々を過ごす。少しずつ距離は縮まるものの、時折どこか悲し気な表情を見せるセシルの様子が気になるアレクシス。 「セシルは絶対に俺が幸せにしてみせる!」 だがそんなある日、ダマスからセシルに王都に戻るようにと伝令が来て。セシルは一人王都へ旅立ってしまうのだった。 追いかけるアレクシスと頑なな態度を崩さないセシル。二人の恋の行方は? すれ違いからの溺愛ハッピーエンドストーリーです。 小説家になろう、他サイトでも掲載しています。 麗しすぎるイラストは汐の音様からいただきました!

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...