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しおりを挟む宿屋を出て冒険者ギルドへと向かう。昨日教えられた通りに歩いていくと冒険者ギルドにたどり着いた。すでにピークの時間は過ぎた後なのだろう。建物内にはあまり人がいなかった。私はお目当ての窓口へと向かう。
「おはようございます。本日はどのようなご用件ですか?」
窓口にいる女性のギルド職員に声をかけられる。私はここに来た目的を伝えた。
「預金残高の確認をしたいのですが」
「預金残高の確認ですね。それではギルドカードをこちらにかざしてください」
そう私がここに来た理由はこれだ。
第一王子の婚約者になる前までは兄と共に冒険者として活動しながら鍛練していた。その時に達成した依頼の報酬は全てギルドに預けてあったのだが、婚約者に選ばれてからはギルドカードに触れることもなく放置したままになっていた。
それに当時は報酬の額などまったく気にしていなかったので今現在いくらあるのか見当がつかない。しかし夢の実現のためにはお金が必要なので残高の確認は必須だ。足りないようであれば依頼を受けてお金を貯めなければならない。
ギルド職員が差し出してきた魔道具にギルドカードをかざす。すると目の前に預金残高が表示された。
【白金貨】 10枚
【大金貨】 35枚
【金 貨】 18枚
【銀 貨】 37枚
【銅 貨】 152枚
「えっ!?」
私は目の前に表示された残高に驚いた。金貨銀貨銅貨の残高はおそらく私が自分で稼いだものだと思われるが、金貨より価値の高い大金貨や白金貨などは全く心当たりがない。白金貨が報酬の依頼など見たこともない。大金貨の依頼はもしかしたらあるかもしれないが幼かった私が受けたとは考えづらい。
「あ」
そこまで考えて気づいた。きっと両親が私のためにお金を貯めてくれていたんだと。
第一王子の婚約者だった私が使うことなどないと分かっていても、もしものためにと用意してくれていたのだろう。思わぬ形で両親の愛情を知ることになるとは思いもしなかった。
(こんなにたくさん…。いくら辺境伯といっても娘のために白金貨まで用意してくれるなんて。…落ち着いたらお礼の手紙を送らないと)
無事に残高の確認を終えたので冒険者ギルドを出た。ギルドから出る前についでにこの町から王都まではどれくらいかかるかと聞くと、馬車で一週間半程度だそうだ。それなら空を飛んでいけば三日くらいで着くだろう。途中に町があれば宿を取って、なければ野宿すればいい。私は必要な食料や物資を買い込んでから王都を目指し、レイズの町を飛び立ったのだった。
◇◇◇
移動中は時間が有り余っていたので、私の夢について改めて考えをまとめていた。
私は夢を叶えるために国を出てきたが、今の私には二つの夢がある。
今世の私の夢である冒険者になること。
そして前世の私の夢である食堂を開くことだ。
冒険者になって困っている人の役に立ちたい。
食堂を開いて美味しい料理で食べた人を笑顔にしたい。
この二つの夢をどのように叶えればいいのか考えていたが、先ほどの料理を食べて私の目指す道を見つけた。
それは魔物食材を使った食堂を開くこと。
冒険者として魔物討伐をすれば困っている人が助かるし、私は食材を手に入れることができる。そしてその食材を使って食堂でお客さんに料理を提供すれば、美味しい料理を食べたお客さんが笑顔になる。それに宿屋の男性が魔物の食材は新鮮であればあるほど美味しいと言っていた。
私は肩から掛けている鞄を見る。両親から貰ったこの鞄は空間魔法によりたくさんの物を入れることが出来るのに加え、入れたものの時間を止めることもできるのだ。要するにいつまでも獲れたて新鮮を保つことができる。
(お金にしても鞄にしても両親に感謝しなくちゃね)
王都に着いたら物件を探したり食材や各地の料理を調べたりとやることはたくさんある。今の私には準備をする時間が必要だ。ライージュ国が初めての私は移動にも時間がかかるだろう。
「…一年。準備期間は一年よ!一年かけてしっかり準備しなくちゃ!よーし、やるぞー!」
拳を突き上げ空に向かって高らかに宣言した私は、ライージュ国の王都を目指し飛び続けるのだった。
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