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9 メイビス視点
しおりを挟む「我が国では生まれた順に王位継承権が与えられる決まりであるからお前を次の王太子にすると決めていたが、王太子には第二王子を指名することとする!ルナリア嬢との結婚と同時にお前を王太子に任命するはずであったのに、自らその機会を棒に振るとは本当に愚か者だ」
「ち、父上!お待ちください!勝手に婚約破棄をしたことは謝ります!だからどうか…」
「勝手に婚約破棄をしたからという理由だけではないが、お前は全く理解していないだろう?」
「そ、そんなことありません!」
「ではなぜルナリア嬢に冤罪を被せたのだ」
「え、冤罪ではありません!あれは本当にあったことで…」
「それは誰から聞いたのだ?」
「え?」
「まさかその男爵令嬢だけの話を鵜呑みにしたわけではないよな?ちゃんと裏取りもしたんだろうな?」
「え、えっと…」
俺はすぐに答えることができなかった。父上の言う通りエリンから聞いた話だけで裏取りなんて面倒なことはしていない。
「してないのだな」
「で、でもエリンが泣きながら訴えてきたから…」
「泣けば全てが正しいとでも思っているのか?そもそもルナリア嬢はお前が言ったようなことは絶対にしていない」
「ど、どうしてあの女がなにもしていないなんて言いきれるんですか!」
「当たり前のことだ。成績優秀のルナリア嬢がなぜ学園で底辺のCクラスにいたのかすらお前は疑問にも思っていないだろうな」
「どういうことですか!?」
父上の言っていることが全く理解できない。あの女が俺と同じクラスにいたのは、あの女が俺と一緒にいたくて望んだことではないのか?
「ルナリア嬢は次期王妃だ。そして王妃とは国王を護るために存在する。学園生活も王妃教育の一貫として常にお前を護衛していたんだぞ」
「は?」
あの女がずっと俺の護衛をしていただと?
「学園に通っている三年間、朝から帰るまでお前は護られていたんだ。報告によればルナリア嬢は常にお前の七歩後ろに付いていたようだ。それに次期王妃は国王を護る者として他者との交流をしてはならないと決められている。だからルナリア嬢は学園の誰とも話したことはない。そんな状況で悪口を言ったりお茶をかけたりできると思うか?ましてや叩いたりするなどあり得ない。ルナリア嬢にはお前を護るという任務があるのだからそんなことをしている暇など存在しなかったのだ。それにルナリア嬢が本当に令嬢を叩いていたとすれば、今頃その令嬢はこの世にいないだろうな」
「この世に、いない…?」
「それだけルナリア嬢は規格外に強いのだ。だからこそお前を護る者として婚約者に選んだのだがな。それすらも全く理解していないお前を王太子にするわけにはいかん」
「そ、そんな…!」
「だがこの国の習慣を無視してまでその男爵令嬢はお前が添い遂げたい相手なのだろう?それならばその願いは叶えてやろう」
「ち、父上!じゃあエリンを…!」
なんだかんだ言っても父上は俺のことが大切なんだ。国王として勝手に婚約破棄したことを一応叱らねばならなかっただけなんだ。だからやはり俺を王太子に、そしてエリンを王妃に…
「お前を王族の籍から抜き、コスター男爵家に婿入りすることを命じる」
「…は?」
「それと今回の婚約破棄の罪は重い。よって魔力封じと断種を施すこととする」
「え?」
俺の耳がおかしくなってしまったのか、今父上の口から魔力封じと断種という言葉が聞こえてきた。魔力封じは重罪を犯した者への罰である。それに断種だなんて到底受け入れられない。
「な、なぜ…。う、うわぁーーー!っぐ!」
さすがにこれはまずいと俺はこの場から逃げ出そうとしたが、誰かに首から押さえつけられてしまった。
「は、離せっ!俺を誰だと思っているんだ!?」
「お前は国王陛下の命に従わなかったただの罪人よ」
「っ…お、王妃、さま」
「お前のしたことは許されることではないの。それをこれからもよく覚えておくといいわ。衛兵!この者を連れていきなさい」
それから俺はしばらくの間牢に閉じ込められ、魔力封じと断種の施術をされた。牢から出された後は古びた馬車に乗せられコスター男爵家へと連れていかれた。
コスター男爵家に着くとそこで待っていたのは恨みの籠った目で睨むエリンだった。
「エ、エリン…」
「近寄らないでっ!どうして王子でもないあんたと結婚なんてしなくちゃいけないのよ!私はただ贅沢な生活がしたかっただけなのに!なんの役にも立たないあんたなんていらないのよ!」
「そ、そんなっ!俺はエリンを王妃にするために…」
「はっ!あんたが馬鹿そうだから近づいたのよ!途中までは上手くいっていたのにあんたが馬鹿すぎたせいでこんなことになっちゃったんじゃない!お陰で私も共犯にされて魔力封じされたのよ?それに家のお金も没収されてっ…!これからどうやって生きていけばいいのよ!」
「っ!」
あんなに可憐だったエリンは今や見る影もなく、目は血走り髪を振り乱し叫んでいる。こんな恐ろしい女だとは思わなかった。それなら大人しく従順だったあの女の方がマシだ。そうすれば俺は今頃王太子になっていたのに…
しかし今さらそう思ってももうどうすることもできないのだ。
俺とエリンは強制的に結婚させられ、常に監視された状態で一生をコスター男爵家で過ごすことになるのだった。
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