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レナルド視点
しおりを挟むバレンティノ公爵家での顔合わせが無事に終わりホッとして馬車に乗り込んだのだがその馬車の中では父と母からのダメ出しが待っていた。
「レナルドお前、最初のアレはないぞ」
「そうね、アレはないわね」
「…すみません」
二人の言うアレとは部屋に入ってから席に座らずにその場に立ち尽くしていたことを言っているのだろう。
自分でも今思い返せばアレはない。
「私達はお前の気持ちを知っているからきっとバレンティノ嬢に見惚れていたんだろうと予想できたが…。さすがに焦ったぞ」
「返す言葉もありません…」
父の言うとおり私はあの時オルレシア嬢に見惚れていたのだ。
輝く金の髪に神秘的な紫の瞳。
最後に見た時は少し大人びた少女だった彼女が少し見ない間にぐっと女性らしくなっていた。
そんな彼女に目も心も奪われてしまいその場から動けずにいたのだ。
「話している間も落ち着きがなかったから心配したが、無事に顔合わせが終わって良かったな。バレンティノ嬢を大切にするんだぞ」
「うふふ、『婚約者はいらない』って言ってたレナルドから『婚約したい人がいるから協力してほしい』なんて言われるなんて思ってもいなかったものね。無事に婚約が整ってよかったわ」
「…父上、母上ありがとう」
四年前、私が十八歳の時彼女に一目惚れをしたのが始まりだ。
私は幼い頃からこの見た目のせいなのか女性にしつこく言い寄られることが何度もあり女性が苦手だった。なので両親にも結婚したくない、婚約者はいらないと常日頃言っていた。
もちろん私は侯爵家の嫡男であるからいつかは誰かと結婚しなければいけないことは分かってはいた。だがなかなかそういう気持ちに切り替えることができずにいたのだ。
私は王太子であるラシード殿下の友人として昔から王城によく登城していたが、十八歳になった年からは一人の役人として毎日城に登城していた。
そして四年前の春、その日はラシード殿下の妹姫である王女殿下主催のお茶会が王城で行われていた。
私は上司からラシード殿下に書類を届けるよう頼まれ、ラシード殿下の執務室に向かったのだ。そして執務室に着き扉の横にいた侍従に声をかけた。
「王太子殿下に書類を届けに来たので取り次ぎを頼む」
ラシード殿下とは友人ではあるが仕事中は王太子殿下と呼ぶように気をつけている。
「申し訳ございません。ただいま来客中でして…」
「来客?それならば仕方がないな。ここで少し待たせて…」
「それではラシ兄様ごきげんよう」
突然執務室の扉が開き、そこから金の髪の少女が出てきた。
「あぁ、今日の茶会を楽しんでこい」
「はい。…あっ!」
「!」
ラシード殿下と会話をしながら扉を開けたのだろう。扉の目の前に私が立っていたので少女とぶつかってしまったが、私が少女を支えることできたので少女は転ばずに済んだ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます」
少女は頭を下げながらお礼を言ってきた。
「無事でよかったです」
「前を見ていなかった私の不注意です。申し訳ございませでした」
「私は気にしていませんので頭をあげてください」
「…ありがとうございます。お優しい方ですね」
「っ!」
そう言って頭をあげた少女と目が合った瞬間、私は衝撃で言葉が出なくなっていた。それに心臓の音がうるさいくらい頭の中に響いていた。
「あの、お礼をしたいのですがよろしければお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「…」
「あの…?」
せっかく少女が話しかけてくれているのに言葉を発することができなかった。
そんな私に少女が困っていると何事かとラシード殿下が部屋から出てきてくれた。
「シアどうしたんだ?」
「あ、ラシ兄様…。実は私の不注意でこの方にぶつかってしまったのですが親切にしてくださったのでお礼がしたくて…」
「シアに怪我はないようだな、って相手はレナルドか。レナルド悪かったな」
「…」
「ん?どうしたレナルド?」
「……」
「先ほどお名前をお伺いしてから黙ってしまわれて…」
「…なるほど、ね。こいつの名前はレナルド・ミラスティだ。シアが名前を覚えておいてやれば喜ぶだろうからそれがお礼で大丈夫だ」
言葉を発せない私の代わりにラシード殿下が対応してくれてたのはありがたいが、私の扱いがあまりにも雑ではないのかと思ってしまったのは秘密にしておく。
「そう、ですか?」
「!(コクコク)」
不安そうに私を見つめる少女になんとか首を縦に振ることができた。
「そういうことだからシアは気にしなくて大丈夫だ。それよりもうすぐお茶会が始まる時間だろう?急いだ方がいいぞ」
「あっ!そうだったわ!…申し訳ございませんがラシ兄様、レナルド様、お先に失礼いたしますね」
「あぁ、楽しんでこい」
そして少女は私とラシード殿下に挨拶をしてこの場から去っていったのだった。
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