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しおりを挟む突然メルトランス帝国の皇太子が現れたことで、会場中がざわついている。参加者たちはこの国はこれからどうなってしまうのかと、固唾を飲んで見守っていた。
「帝国の皇太子だと……?」
シェザート殿下は目の前にいるのがあのメルトランス帝国の皇太子殿下だとわかった途端、先程までの威勢はどこかに消えていた。
「そうだ。これで私が何者なのか、君の足りない頭でも理解できたかい?」
「くっ……」
「理解できたのならそこで大人しくしていろ」
威厳に満ちた声に、シェザート殿下は黙ることしかできなかった。
「こ、皇太子殿下がなぜこちらに……?」
「ああ、ウィストリアの国王よ。そうだよな。突然私が現れたから驚いているよな」
「そ、その通りです。何か我が国にご用でも……?」
「ああ、そうなんだ。実はな、この国で帝国の宝が傷を負ったと耳にしてな。それが事実であれば、しかるべき対応を取らなければならないだろう?だからそなたの意見を聞きたいと思ってな」
「帝国の宝……?それは一体何のことで」
「ん?先程説明されていたではないか。そなたの目の前にいるルーシェント嬢こそが帝国の宝さ」
「ル、ルーシェント嬢が帝国の宝ですと?彼女は我が国の公爵令嬢に過ぎません。何かの勘違いでは」
「とぼけるな。そなたは見ただろう?メルトランス帝国皇帝の印が捺された任命書を。それにも関わらず嘘をつくとは、帝国を馬鹿にしているのか?」
皇太子殿下の声が険しくなった。すぐにバレる嘘をつくなど愚かにも程がある。
「そんなつもりは!」
「ではなぜ認めない?」
「それは……そ、そうです!そもそもなぜ皇太子殿下はルーシェント嬢が傷を負ったとおっしゃるのですか?見ての通り彼女の顔には傷などないではありませんか!ですからたとえルーシェント嬢が帝国の宝だとしても、我が国には関係のないことです!」
「……はぁ」
皇太子殿下が大きくため息をついた。
(そうよね。私もため息をつきたい気分だわ)
国王が今言ったことは、嘘をついていることを自ら白状しているのと同じだ。本人はバレない自信でもあるのだろうか、自信たっぷりな表情をしていた。しかし私でも簡単に気づくのだから皇太子殿下が気づかないはずがない。そもそも私が傷を負った時、彼はこの国にいたのだから。
「それは本気で言っているのか?」
「と、当然です!」
「はぁ……。息子の頭がアレなのは間違いなく貴様の血だな」
「なっ!?それはいくら皇太子殿下でも失礼ではありませんか!私はこの国の王ですぞ!?」
「はははっ!本当に愚かなほどそっくりな親子だな。いいか?よく思い出すんだ。先ほど私は『傷を負った』としか言っていない」
「馬鹿にするでない!そんなのは知って」
「ではなぜ貴様はその傷が顔にできたと断言したんだ?」
「えっ……?」
「私は一言も傷ができたのがどこなのかは口にしていないが?」
「っ!そ、それは……」
「貴様の意見はよくわかった。貴様は国王であるにも関わらず息子の犯した罪を隠し、帝国相手に責任逃れしようとしたことがな。私がこの国の人間ではないから誤魔化せると思ったようだが、私には通用しない。私の目となる者はどこにでも存在するのだからな」
「!」
皇太子殿下の発言には驚かされた。メルトランス帝国ほどの国であれば、各国にそういった者たちを潜り込ませているのは当然だと思っていたが、まさか世界の中でも弱小国と言われるこの国にも存在しているとは思わなかった。
(……さすがメルトランス帝国ね)
これから私が生きていく場所のすごさを実感した私は、改めて気を引き締めた。
「うっ……」
「では次にルーシェント嬢の意見を聞かせてもらおうか」
「はい」
「メルトランス皇室の庇護下にある者に害を及ぼしたということは、帝国に害を及ぼしたことと同義だ。だから相応の罰を与えなければならないが、この件についてルーシェント嬢はどのような罰を望むか?」
ようやくだ。あと少しで望みが叶う。
「私は慰謝料の請求と、婚約破棄を望みます!」
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