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しおりを挟む(メルトランス帝国か……)
メルトランス帝国はこの世界の覇者で、ウィストリア王国など比べ物にならないほどの大国である。そんな国のチラシとは一体どんなものだろうか。
【皇宮文官募集!――あなたの価値をメルトランスで見つけませんか?――】
「皇宮文官……!」
メルトランス帝国の皇宮文官と言えば、エリート中のエリートだ。帝国は完全実力主義社会で、実力さえあれば身分関係なく平民でも要職に就くことができる。
その中でも皇宮文官とは、帝国の頭脳と呼ばれる人材の宝だ。皇宮文官となった者はメルトランス皇室の庇護下に入り、その身に何かあればメルトランス帝国を敵に回すことになる、と王太子妃教育で学んだ。わざわざ他国であるメルトランス帝国のことを学ぶ理由は、かの国がこの世界の覇者だから。そしてメルトランス帝国の宝に傷を付けようものなら、国が滅ぶとまで言われているのだ。
そんな皇宮文官を他国からも募集するなど驚きである。
「さすがメルトランス帝国ね」
普通の国なら間諜が入り込むのを心配して、間違っても他国から雇い入れたりしない。だがメルトランス帝国は間諜が入り込むことはないという絶対的な自信があるからこそ、こうしてここにチラシがあるのだろう。
「皇宮文官か……」
皇宮文官は国の発展に寄与することができ、自らの努力次第で正当な評価を受けられる存在。
「いいなぁ。私も皇宮文官になれたら…………あっ!」
(皇宮文官なれたら、婚約破棄できるんじゃない?)
もしも皇宮文官になれれば、メルトランス皇室の庇護下に入ることになる。そうすれば私はメルトランス皇室の後ろ盾を得ることができ、婚約破棄することが可能だ。普通他国の婚約に口を出すことは内政干渉にあたるが、メルトランス帝国が相手であればなんら問題にはならない。それだけ国力の差がありすぎるのだ。
だが皇宮文官になれる人間は一握りしかいない。私がなれる可能性は限りなく低いだろう。だけどゼロではない。それならただ何もせずじっとしているよりも、何かしらの行動をした方が遥かにいい。もしかしたら他の解決方法が見つかるかもしれないし、やれることは何でもやるべきだ。
私は家族と縁がないし友達もいないので、わざわざこの国にいる必要はない。それならここで馬鹿とお花畑たちの尻拭いをする人生を送るより、右も左もわからぬ帝国で自分の価値を見つけたいと思った。
「そうと決めたら急がないと!」
チラシを見ると応募の期限はあと一ヶ月。応募書類を送るのにかかる時間は、長めに見積もって一週間。ということは私に残された時間はあと三週間しかない。
「こんな仕事、さっさと終わらせてやる!」
私は呑気にお茶を飲んでる馬鹿とお花畑の存在など頭の中から放り投げ、目の前にある書類の山を、目にも止まらぬスピードで処理していくのであった。
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