23 / 30
23
しおりを挟む父と母にも信じてもらうことができた。
ここからが始まりだ。
「それで私たちは何をすればいい?アンゼリーヌのことだからそこまで考えているのだろう?」
「はい。お父様にはロイガール公爵家とバスピア侯爵家のデルシャ国との繋がりを調べてほしいのです。おそらくケイトやお父様お母様に使った毒はデルシャ国の物だと思われます」
「分かった。停戦中だからと宰相に一任しまっていたがまさか敵国と繋がっている可能性があるなんてな…」
「あとマリアンヌお姉様とロイガール公爵子息の婚約を進めてほしいのです」
「そうだな。それがいいだろう」
「ありがとうございます」
四度目のこの人生では私もお姉様もまだ婚約者がいない。臣籍降下の道を選べば候補の中から自分で婚約者を選ぶことができるが、二人とも皇帝の後を継ぐ道を選んだので婚約者を決めるのは皇帝になる。
二度目の人生ではお姉様とロイガール公爵子息は婚約していたので、婚約するのが少し早まるだけのこと。父の反応を見るに元からそのつもりだったのだろう。
「それとお母様にはレイとリーナの守りを今以上に強固なものにしてほしいのです。レイとリーナに関しては私も今後何が起こるのか全く分かりません。何も起こらないことが一番いいのですが相手は皇帝の座を狙っています。間違いなく何か仕掛けてくるでしょう」
「そうね。これから二人は専属の侍女や家庭教師を付ける機会が出てくるわ。そういったところから危険が入り込んで来る可能性が高いわね」
「私もそう思います。二人はこの国の宝です。何がなんでも守らなくてはなりません」
「ええ分かったわ」
「でもお父様とお母様の身の安全も重要です。何かいつもと違ったり不調がある場合にはすぐ私に教えてください」
「分かった」
「分かったわ」
「おそらく相手はデルシャ国から手に入れた無味無臭の毒を使う可能性が高いでしょう。…そこでクリスにお願いがあります」
「なんでしょうか」
「私は魔法にはあまり詳しくはないの。だから少し調べてみたわ。そうしたら解毒魔法という魔法があることを知ったのだけど、クリスは知っているかしら?」
「はい。解毒魔法は回復系の魔法に分類される魔法です」
「そう。ではそれを習得することはできるかしら?」
「…回復系の魔法はとても難易度の高い魔法です。今この帝国でも使える者は少なく、魔法使いの中でもさらに極少数かと」
「それはクリスには無理ということ?」
私はクリスにできるかできないのかをわざわざみんなの前で聞く。クリスはとても優秀だ。おそらく私の予想が正しければ…
「いえ。以前皇后陛下のお茶の一件をお聞きした時にもしかしたらと思い、すでに習得済みです」
「さすがクリスね」
「ありがとうございます」
やはり私の予想通りクリスはすでに解毒魔法を習得していた。父も母も驚いている。おそらく報告しなかったのは私を不安にさせないためだろう。
「この通りクリスが解毒魔法を使うことができます。デルシャ国の毒は身体に少しずつ蓄積していき衰弱させるというものだそうです。一番は摂取しないことですが、無味無臭なので気づくのは難しいかもしれません。なので少しでも体調に変化があればクリスから解毒魔法を受けてください。特にケイトは注意してちょうだい。おそらく最初に狙われるのはケイトよ」
「かしこまりました」
「本当は毒自体を防ぐことができればいいのだけど…。私の力が及ばなくてごめんなさい」
本当のことを言えば父にも母にもケイトにも一滴たりとも毒を飲ませたくない。しかし入手ルートや城にいる宰相側の人間全てを把握することは、幼い私一人の力ではどうすることもできなかった。だからこそこの場にいる人たちに全てを話し助けを求めたのだ。皇帝の座を目指す者としては情けない限りだが、人命が最優先だからと割りきることにした。
「うふふ」
「ケイト?」
「ケイトは嬉しゅうございます。アンゼリーヌ様が一臣下である私をここまで気にかけてくださるなんて。アンゼリーヌ様が謝ることなどなにもありませんよ」
「…ありがとう」
「それに私はまだまだアンゼリーヌ様のお側を離れたくはありませんからね。今後はさらに自分の身の回りには十分に気をつけます。でももしもの時はクリス、よろしくお願いしますね」
「かしこまりました」
(ああ、私はこの人たちを絶対に守らなければ)
自分だけが生き残っても意味がない。みんなと一緒に十八歳より先の人生を生きていきたいのだ。
それに新しく生まれた命も絶対に守ってみせる。だから皇帝の座は絶対にお姉様には譲らない。争いごとは今でも得意か苦手かで言えば苦手だ。しかしお姉様が皇帝になれば再びラスティア帝国は戦争の時代に入るだろう。そうなれば前線で戦う騎士や兵士、それに罪なき民の命までも奪われてしまう。そんな未来はあってはならない。だから私は皇帝になるのだ。平和で豊かな国を正統な血筋である双子に引き継ぐために。
私は改めて決意を固くしたのであった。
42
お気に入りに追加
402
あなたにおすすめの小説
メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~
Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが…
※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。
※設定はふんわり、ご都合主義です
小説家になろう様でも掲載しています
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる