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しおりを挟む母の懐妊発表から少し時が流れた。
あれから母は無事に双子を出産した。予定より早い出産ではあったが母子共に健康である。
生まれたのは男女の双子で男の子にはレイモンド、女の子にはカトリーナと名付けられた。レイモンドは父譲りの金色の髪、カトリーナは母譲りの黄緑色の髪だ。瞳の色は皇族の証である黄金である。
そんな双子は両親からの愛情をたっぷりと注がれすくすくと育っていった。
「はぁ…。いつ見てもかわいいわね。ずっと見ていられるわ」
「アンゼリーヌ様ったら何を年寄りみたいなことを言っているのですか」
「だって本当のことなんだもの。ねぇクリスもそう思うでしょ?」
「…ケイト様のおっしゃる通りかと」
「もうクリスまで!私はレイとリーナのお姉様だからいいの!」
私は双子にメロメロなのである。
そんな私は十二歳になっていた。双子はつい先日無事に一歳の誕生日を迎えることができた。
母の懐妊発表と同時に皇后専属の医者と皇后付きの侍女が皇后へ毒を盛ったとして捕まった。しかしこのことは公にはされておらず、秘密裏に処理された。皇后陛下にその側近たちが毒を盛り、十年以上も御子ができないようにしていたなどあまりにも衝撃が大きすぎると判断したのだ。
侍女の方は取り調べの後毒杯を賜った。侍女の生家である伯爵家も密かに取り潰しとなった。
だが医者の方はなかなか口を割らなかったので拷問にかけようとしたのだが、その前に何者かの手によって殺されてしまったのだ。おそらく宰相が手を回したのだろう。医者からはなにも情報を得ることができなかった。
しかし相手も慎重になったようで、双子が生まれる前や生まれた直後も特に何かをしてくることはなかった。だがいつかは間違いなく何か仕掛けてくるだろう。それに私が十二歳になったということは、ケイトが謎の体調不良で亡くなってしまうまであと一年なのだ。
私はまだ父と母にあのことは話していない。しかしケイトは過去三度必ず亡くなっている。宰相や姉たちによって殺されたことは知っているが、どのような手口だったのかは分からない。ケイト本人に気をつけるように言ったとしても、事情を説明しなければ理解を得られないだろう。
だからそろそろ話をしなければならない。
私はクリスにお願いして魔法で父に手紙を送った。
『大切な話があるので内密に会いたい』と。
◇◇◇
手紙を送って数日後、私は父に呼ばれ指定された場所へクリスとケイトを伴い向かった。
内密にということで夜も遅い時間である。普段なら寝ている時間であるが今は全く眠くない。むしろ緊張からか目が冴えてしまっている。
そして私は指定された場所へ着くと決められた合図で扉を叩いた。
――コン、コン、コココン、コン、ココン
すると扉の内側から父の声が聞こえてきた。
『入れ』
「失礼します」
クリスとケイトと一緒に部屋の中に入る。部屋にはすでに父と母が待っていた。私は空いているソファに腰を降ろす。クリスとケイトは私の後ろに控えている。
「このような時間で悪いな」
「いえ。内密にとお願いしたのは私の方ですから気にしないでください」
「ケイトとクリスも一緒でいいのかしら?」
「はい。この二人にも関係のある話ですし、この二人は間違いなく信用できますから」
「そうね」
「では早速だがアンゼリーヌ。内密に私たちに話したいこととはなんだ?もしや以前言っていた『今は話せない』と言っていた話なのか?」
さすが父だ。二年も前に言っていたことを覚えていたとは。
「そうです。お話しするまでに時間がかかってしまい申し訳ございません」
「謝る必要はないわ。アンゼリーヌの心の準備が必要だったのでしょう?それにあの時はまだ話をする時ではなかった。違うかしら?」
「その通りです。…お父様とお母様には敵いませんね」
「そりゃあお前の親だからな」
「あなたの親なのだから当然よ」
なんだかくすぐったい。本当に私は両親に大切にされているということを改めて実感した。
「ありがとうございます。ではお話しをする前にひとつだけ頭に入れておいていただきたいことがあります」
「なんだ?」
「…今から話すことは嘘でも作り話でも妄想でもなく、私が実際に体験してきたことです。信じられないような話だとしてもそれだけは忘れずに覚えておいてください」
「…分かった」
「…分かったわ」
「クリスとケイトもね」
「「かしこまりました」」
「ではお話しします。…始まりは十歳の誕生日からでした―――」
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